VR HMD(ヘッドマウントディスプレイ)などのVR(Virtual Reality)関連機器の進化・低価格化に伴って、VRが人々の身近な存在になりつつあります。ゲーム中心にユーザー層が広がっている印象を受けますが、その応用はゲームに限らず、軍事関係や医療関係を始めとして様々な利用例があるようです。VRのヘッドマウントディスプレイを装着してうろうろ動き回っている人を見たことがある人は多いと思いますが、実際に自分自身で装着してVR体験をした人はどのくらいいるのでしょうか。

VRの利用イメージ

当然、建築設計関係にも利用例が多々あり、様々な取り組みがなされています。大規模な組織設計事務所やゼネコン設計部でなくても、小規模なアトリエ系設計事務所で購入し建築設計に活用することができるようになりました。

さらに従来一方的に設計情報を受け取る側にいた施主(発注者)も、ゲーム感覚で立体イメージを作り上げ自分自身でVRの空間を体験することも可能になりつつあります。技術革新とその低価格化によって、施主が従来と異なる形で設計業務に関わることになり、発注者と設計者の間であたらなコラボレーション(協業)の機会や設計プロセスが生まれる可能性があります。今回のブログでは、住宅のような小規模な建築設計においてVRがどのように体験できるのか検証し、その可能性について探ってみました。

VRとは

まずバーチャル・リアリティ(virtual reality)という用語を確認してみましょう。バーチャル(仮想)とリアリティ(現実)を合わせて、仮想現実と呼ばれています。

バーチャル・リアリティ(英: virtual reality)とは、現物・実物(オリジナル)ではないが機能としての本質は同じであるような環境を、ユーザの五感を含む感覚を刺激することにより理工学的に作り出す技術およびその体系。略語としてVRとも。(Wikipediaより)

仮想現実とは、利用者にとって現実感を伴う仮想的な世界を提供する技術のことである。

仮想現実の技術の例としては、1960年代後半に、ディスプレイを組み込んだゴーグルや、センサを搭載したグローブを利用者に装着させ、画面上に表示される世界を現実のように体験できる装置が開発された。また、パイロットの育成や訓練などに使われるフライトシミュレーションや、セカンドライフに代表される仮想世界も、広い意味での仮想現実といえる。

なお、仮想現実の利用者は、現実と仮想現実の違いを意識してその世界を体験したり、楽しんだりするものであるが、利用者が現実との違いを区別できない世界であるシミュレーテッドリアリティと呼ばれる概念も存在する。(IT用語辞典 Weblio辞書より)

ヘッドマウントディスプレイのイメージが強く視覚に偏りがちですが、聴覚、味覚、嗅覚、触覚といった五感全てにおいてVRが存在するわけですね。このブログでは、一般的となっている視覚に対するVRを取り上げます。

頭に取り付けるゴーグルのようなものは、Head Mount Display (HMDヘッドマウントディスプレイ)と呼ばれ、加速度センサ・ジャイロスコープ・画像を投影するレンズの付いた大きなゴーグルと、ヘッドフォンの組合せから成ります。他には、頭の位置や向きを測定する外部設置センサと、VR内で向きの変更や移動を行うコントローラーも付属しています。(ちなみに下の写真では画像が投影されている状態になっていますが、実際は頭からヘッドマウントディスプレイを取り外すと、画像がOFFになるようにセンサー制御されています)

Oculus Riftのヘッドマウントディスプレイ

ARとは

一方VRと紛らわしい言葉にAR(Augmented Reality)という用語があります。augumentという単語の意味が「増加・増大・拡大」といった意味であり「拡張現実」と訳されます。

拡張現実とは、現実世界の物事に対してコンピュータによる情報を付加することである。または、そのようにしてコンピュータによる情報が付加された世界のことである。
拡張現実は、仮想現実(バーチャルリアリティ)と対比される。仮想現実は、現実にはないものをコンピュータによってあたかもそこにあるかのように知覚させる技術である。これに対して、拡張現実は、現実に存在するものに対してコンピュータが情報をさらに付与し、さらに強い・深い知覚を可能にするものであると言える。(IT用語辞典 Weblio辞書より)

ARの分かり易い例としては、ポケモンGoでしょう。現実世界のイメージに対して、スマホ内のコンピュータによって作成されたゲーム情報が付加されます。他にも実生活の中では「自分の部屋に新しい家具を置いたらどのように見えるか」といった試みのために、様々な家具メーカーからアプリが出ています。映像として見えていても実体が存在せず質感が乏しいので、分かったような分からないような不思議な感覚になりますね。

ポケモンGo  ARモード

VRの使用事例

ネットでは、VRを用いた様々な試みが公表されています。コンテンツ面を分かり易く分類したものに以下の記事がありました。

コンテンツ面では、以下のように大別できる:

a) 画像や動画を表示するもの
360°や180°の動画や画像。視点を中心に全天球や半球のドーム型に動画や画像を投影して体験するもの。その動画や画像は、現実の世界を専用のカメラで録画・撮影したものを使う場合と、CGのデータを事前にレンダリング(動画や画像に落とし込む)したものを使う場合がある。

視点の変更には、異なる視点の動画や画像が必要になる。例えば不動産をさまざまな視点から内覧するコンテンツを作るには、その場所の数だけ動画や画像を撮影・レンダリングする必要がある。

b) 3Dのデータをその場で計算して表示するもの
設計やデザイン段階で作成された 3D CADや BIM、その他の 3D CG のデータを高性能な GPU が搭載された PC で処理し、HMD を装着することで、その処理されたデータ内に自分が入り込めるものだ。視点の決まった動画や画像とは異なり、データの中を自由に移動して様々な角度からデータを確認できるのが最大の特徴であり、強みでもある。(VR のビジネス活用を成功させるための 4 つのポイント

この大別に基づいて、調査してみました。

1. 画像や動画を表示するもの

積水ハウスは2017年12月25日「最新のVR(バーチャルリアリティ)技術を導入 邸別自由設計のオリジナルプランを360度3D空間体験」をプレスリリースしました。

従来、住宅のモデルプランやマンションギャラリーなどではVRは 使われている例もありましたが、独自のCADシステムと連動させることで、邸別自由設計のオリジナルプ ランに即して短時間にVR空間を体験できるように全国で実用化したのは、住宅業界で初めてとなります。
オリジナルCADによるプレゼン提案は1ヶ月に1万件以上。これらの提案の全てでVR空間体験が可能

積水ハウス プレスリリースより)

1ヶ月に1万件以上のVR提案ができるのは、大手企業ならではの力業ですね。360°パノラマVRと書いてあるところを見ると、固定した1点から360°見回すことができるサービスであって、立体的なモデルの中を歩き回るサービスではないと思われます。(もし違っていたら指摘してください)

東急リバブルは2018年3月1日に、「新築建売住宅の販売促進に VR(バーチャルリアリティ)導入 ~建設予定地に建物を再現、室内も360度VRで体験~」としたプレスリリースを発表しました。

専用ゴーグルを装着することで、実際の周辺環境や街並みを写した建設予定地に、建物が建っている様子を再現できます。建設予定地の実写画像に建物外観の3Dパースを合成しているため、平面のパースや設計図だけではイメージし難かった完成後の様子を、立体的なバーチャル画像で体験することができます。

東急リバブル プレスリリースより)

 

PCと接続していない簡易型のヘッドマウントディスプレイが使用されているところを見ると、おそらくこれも、固定した1点から街並みを360°見回すことができるサービスだと思われます。(もし違っていたら指摘してください)

360°カメラで撮影した映像も頻繁に見かけるようになってきていますが、これらの試みは、レンダリングした空間を360°カメラで撮影し、ヘッドマウントディスプレイを通じて見ているのと同じであると考えることができるでしょう。このブログではたまたま、積水ハウスと東急リバブルの事例を取り上げましたが、どの住宅メーカーや不動産販売会社も、多かれ少なかれ同様の試みを行っているようです。施主は、まだ完成していない空間を視覚的に体験できるのですから、とても購買意欲がそそられる(?)のではないでしょうか。

追加となりますが、現在論文指導をしている研究室の学生が、「鎌倉のカフェファサードが与える印象について」の卒業論文を執筆しています。360°カメラで撮影した映像を、ヘッドマウントディスプレイを装着した被験者に見てもらい、その印象について評価してもらうという研究です。従来同様の研究では2次元の写真や図面によって印象評価を行っていたようですが、このように3次元の画像を使用することによって、より正確な印象評価結果が導けるものと期待しています。

VRにより他人の「世界」を疑似体験

自分は他人と同じように周囲を見ているのでしょうか。たまに不安になります。例えば、色盲(色覚多様性)の方は色の見え方が大多数の人々と異なります。視野欠損の方は視野の中で見えない箇所がありますが、その点でも大多数の人々と異なります。自分の視覚を他人の視覚と容易に比較できないので、状況を把握することが難しいですが、VRであれば、このような方々がどのように世界を眺めているか確認することができます。医療・福祉関連では、さらに一歩進めて、VRを用いて、「空間の位置関係をうまく認識できない症状」や「ないものが見える幻視の症状」などを持つ認知症の人の「世界」を疑似体験する試みもなされています。

認知症の人たちがどういう世界が見えているのか、どういうことで困っているのかということを疑似体験することで、認知症の方々に対して想像力を持って接することができるのではないかと思います。(VRで再現!どう見えている?認知症の「世界」NHKスペシャル より)

住宅の設計においても、自分の子供の「世界」や自分が老人になった時の「世界」を疑似体験することにVRは大いに活用できると考えます。特に自分が老化した状況を疑似体験することによって、長く使い続けることができる住宅のありようを模索することができます。

避難訓練をVRで行う事例(海外事例)

ちょっと変わった事例では、ニュージーランド消防庁による、Escape My House  という360°映像の火災体験VRもあります。記事によると、実際の火災時の映像を防火対策を行った360°カメラで撮影したそうです。いずれこれらの映像をVRで作成し、共同住宅や公共施設の火災時の避難訓練に使うことも可能ですね。(New Zealand Incinerates House to Make Fire Safety VR Experience 2017年3月28日の記事より)

VRとAIを組み合わせて新たな価値を生む

もう少し進んだ試みもなされています。ジブンハウス・東京大学大石研究室・アスカラボは2018年4月24日、AIでマイホーム提案し、スマホをかざすとARで家が建つように見える技術をプレスリリースしました。

今回開発する新技術は、AIが消費者の好みやライフスタイルに合わせて住宅の構造や間取り、土地などを提案。さらに住宅の建設候補地でスマホをかざすと、何もない土地にARで建設予定の住宅を出現させることができるというもの。

AIでマイホーム提案、スマホをかざすとARで家が建つ… より引用)

ARで建物外観をアプリで提示することから一歩進んで、AIによって売地情報やユーザーの趣向を分析してマッチングできるのはすごいですね。消費者のライフスタイルや好みに合わせて建物が提案されるそうですが、どの程度の精度や妥当性があるのか気になります。自分では必ずしも気づいていなかったライフスタイルや好みをAIが顕在化してくれる体験とはどのようなものなのでしょう?このように単なるVRやARではなく、様々な付帯情報が結びつくことによって新たな付加価値が生まれます。どのように実現されるのか楽しみです。

 

2. 3Dのデータをその場で計算して表示するもの

次に、データの中を自由に移動して様々な角度からデータを確認できるVRの事例を見ていきたいと思います。

建物の利用状況をシミュレーションするためのVR(海外事例)

国境なき医師団による2016年3月28日に公開されたYoutubeの動画は、興味深いものです。ようやくVR機器が低価格で出回り始めた2016年、国境なき医師団(MSF)は、バーチャルリアリティによる病院設計および運用訓練に取り組んでいました。病院などの施設では新築後その運用訓練を行ってから実際に患者を受け入れますが、VRを活用した取り組みによって事前準備を行い、医師や看護師の現地到着後、速やかに作業に当たることができます。これは住宅の事例ではありませんが、実際の利用前に利用状況を確認可能である上で、示唆に富んだ事例と言えるでしょう。

他にも、車椅子の被験者にVRのヘッドマウントディスプレイを装着してもらい、行動状況のシミュレーションを行っている事例などもあるようです。このようなシミュレーションにはVRは親和性がとても高いと思われます。

ユーザー自身がVR環境を構築する事例(海外事例)

HTC Viveに対応したTrueScaleというインテリアデザイン用のアプリケーションがあります。ユーザーが作成したフロアプランを3次元化し、VR環境を作り出します。米国最大のオンライン家具小売業者であるWayfairによる40,000点もの3Dモデルライブラリを利用して、VR環境に商品を埋め込んでいくことができます。ユーザーを取り込み、ユーザー自身がVR環境を構築できる点は評価に値します。(Designing Spaces in VR with TrueScale/VRSCOUT 2017年12月20日の記事より)

Minecraft(マインクラフト 略してマイクラ)は子供達(大人達にも)に爆発的人気を誇るゲームです。自分自身の世界を構築していきますが、このゲームもVR対応をしています。ゲームを停止せずに休憩することが可能な「バーチャルリビングルーム」、コマ送りのように段階的に回転し方向感覚が失われないようにする「VRターン」、VRが可能な限りスムーズに感じられるように「拡張VR操作方法」などの機能が新しく設定されました。(Minecraft ウェブサイトより)

小学校6年生の娘は、時間を見つけてマインクラフトで遊んでいます。(VR仕様ではないですが。。。)自分自身で建物や構造物を作り出す様子は、ある種の建築設計行為です。建築設計者に設計を依頼しなくても、理想の建造物が自分で設計できるのだなぁと、感慨深く見守っています。

ドローンと組み合わせた事例(海外事例)

ドローンとVRを組み合わせて、画像や動画を表示する事例は過去いくつもありましたが、実は障害物の少ない屋外か大きな倉庫の中での飛行が大半です。というのも、室内では壁・柱・天井といった障害物にすぐにぶつかってしまい、飛行するのが困難だからです。今回MITが開発した技術は、自律飛行するドローンが現実世界の倉庫的空間を飛行しながらも、VRを実装した空間の飛行体験ができる技術です。最高速度は秒速6.7mですから、室内飛行としてはかなり速いスピードですね。(MIT Researchers Build VR Testing Ground to Safely Train Autonomous Drones より)

実際の改修プロジェクトで試してみた

世の中には様々な事例がありますが、当建築設計事務所でも実際の改修プロジェクトで試してみました。「画像や動画を表示する」VRではなく、「3Dのデータをその場で計算して表示する」VRです。Oculus Riftを用意し、PCにはOculusとUnityのソフトウエアをインストールしました。

まずはSketchUp Proでモデルを製作し、FBX形式で書き出します。(SketchUp Makeの場合はCollada形式で書き出すようですが、上手くいかない場合もあるそうです。)Unity(ゲーム開発のためのプラットフォームで2D/3Dゲーム開発に使われる)で読み込んで完了です。

今回確認したかったのは、アイランドキッチンの高さの確認と、アイランドキッチンと背面のキャビネットとの間の距離の確認です。図面を用いたり、事務所の机やキャビネットを利用して即席モックアップを利用することによって確認することはできますが、いまいちよく分かりません。実際にどのような空間になるのか、施主に別の方法で確認していただきたかったのが始まりでした。

基準となる平面図
平面図に基づいてSketchUpにて立体モデルを立ち上げ
VRayによるレンダリングイメージ

980㎜というアイランドキッチンと背面の収納との間隔が、お互いにすれ違いができるほどの距離があるかどうか、平面図やレンダリングイメージではよくわかりません。そこでVRを活用しました。

VRによる設計案確認を経て無事承認を頂きました
施工後

レンダリングおよびVRで確認いただいた通りに実現したのではないでしょうか。キッチンの高さと通路幅の確認のためにVRを活用するというとても小さな一歩でしたが、とても貴重な経験を積むことができたと考えています。

VR機器いくらで買える?

いままでの話を聞いて「VR機器を購入したい」という人も多いのではないでしょうか。しかしPC等に接続して「3Dのデータをその場で計算して表示」することを目的とした場合、ヘッドマウントディスプレイとともに、それなりのPCのスペックが必要となります。

VR コンテンツを表示するソフトの多くは、リアルタイムで3D CGを処理する技術の結晶であるゲームエンジンを利用している。そこで表示するには、3D CADやBIM、3D ツールで使われるデータのファイルを変換するだけでは不十分で、アニメーションやマテリアルなどの変換が必要となることが多い。オブジェクトの数が多い 3D CAD や BIM のデータであれば、その変換に手間が掛かる上、変換後のデータの「重さ」が問題になることも多い。(VR のビジネス活用を成功させるための 4 つのポイント

日本で発売されていて、10万円以下の価格設定は、Oculus RiftおよびHTC Viveの2機種です。2018年5月現在の価格と必要となるPCのスペックを調べてみました。

Oculus Rift(Oculus VR, Inc., 2016年)の場合

価格 50,000円(2018年5月現在)(メーカーサイトでの販売価格)
推奨PCスペック
グラフィックカード: NVIDIA GTX 1060 / AMD Radeon RX 480以上
代替可能なグラフィックカード: NVIDIA GTX 970 / AMD Radeon R9 290以上
CPU: Intel i5-4590 / AMD Ryzen 5 1500X以上
メモリ: 8GB以上のRAM

昨年春頃このOculus Riftをアメリカで購入しました。当時税送料抜きで$599.99だったので、ここ数年で価格もかなり下がりましたね。5万円という価格設定も微妙な感じですが、購買欲をそそるのではないでしょうか。

VRイメージをリアルタイムに作成するPCは、それなりのグラフィックカードを搭載したゲーミングマシン的PCである必要があるので、あらかじめ準備する必要が必要です。15万円から20万円といったところでしょうか?

Oculus Riftと双璧を成すのが、HTC Viveです。両方を購入して使用感を比較したことが無いので何がどのように異なるのかお話しすることができませんが価格や推奨PCスペックから同等の機能を持つのではないでしょうか。今回のブログでは小規模の建築設計へのVR利用を検証しているので関係がありませんが、対応しているゲームやアプリの数から判断すると、HTC Viveの方に軍配が上がるようです。

HTC Vive(Valve Corporation, HTC, 2016年)の場合

価格 64,250円(税抜)(2018年5月現在)(実売価格は\69,400程度のようです)
推奨PCスペック
プロセッサ: Intel™ Core™ i5-4590、AMD FX™ 8350以上
グラフィックス: NVIDIA GeForce™ GTX 1060、AMD Radeon™ RX 480以上。
メモリー: 4 GB RAM以上

VRの乗り物酔い問題

様々な利用方法があるVRですが、越えなければならないハードルがあります。それは、「乗り物酔い」問題です。乗り物酔いする人は、長時間の使用は難しいかもしれません。2,3分ならば問題ありませんが、10分20分ヘッドマウントディスプレイをかけてVR空間を楽しんでいると、船酔いをしたように頭がクラクラします。このことはVRによる乗り物酔い(Vertual Reality Motion Sickness)と呼ばれ多くの人に指摘されています。

Fortune誌の記事(A Possible Cure for Virtual Reality Motion Sickness)によると、25%から40%の利用者は、VRによって乗り物酔いの経験をしています。コントローラーによるVRの中での動きは、実世界の中の動きと相関していないため起こるとも考えられています。そのため単位時間当たりのビデオフレーム数を増やしたり、体の自然な動き(頭を倒したり体をひねるなど)に基づいてVRの中で移動する試みがなされているようです。現段階では、根本的な解決策は見つかっていないようですが、いずれ、改善されるのでしょう。

VRの将来はどうなる

VRは今後どのように発展していくのでしょうか。Oculus社のMicheal Abrash氏は2022年までに以下の技術が実現しているだろうと述べています。(Oculus Chief Scientist Predicts the Next 5 Years of VR Technologyより)(なお誤訳・誤解がある場合はご一報を)

Eye-tracking 視線の動きを捉える技術

Face-tracking 顔の表情の動きを捉える技術

Hand-tracking 手の動きを捉える技術

Inside-out trackingヘッドマウントディスプレイなどの機器にカメラやセンサーをつけて、周囲の測定物を検出して相対の動きを取る技術

External body-tracking 外部に設置されたカメラやセンサーによって体の動きを取る技術

140 degrees field of view 140°の広角で映像を投影する技術

4k display resolution per eye 4Kの解像度を持つディスプレー

Personalized positional audio 特定の位置にのみ聞こえる音響技術

Varifocal display ホログラムを用いてディスプレイ表示に立体感を生み出す技術

Foveated rendering 画面をレンダリングする際、人の中心視野ほど高解像度で、そして視野の外側に行くに従って低解像度で描画する技術
Wikipedia Virtual Realityより )

実はこの記事は、2016年11月時点での5年後の話です。2018年5月現在、多くの技術がかなりのスピードで実装されている印象を受けます。VRそのものの技術革新とともに、一般ユーザーが気軽に操作できるインターフェースもさらに充実するのでしょう。

ちなみに、調度このブログを書いていた時「UnityでBIMデータを手軽にインポートできる機能が強化された」というニュースを見ました。

Unityでは、VR(仮想現実感)/MR(複合現実感)用のコンテンツの制作や、IoT(Internet of Things)機器の制御プログラムの開発などが可能である。BIMデータをUnityに取り込めば、シミュレーションやVR/MR用コンテンツの舞台として利用できる。例えば、施工現場や物流倉庫、工場で利用されるロボットのシミュレーションなどに、BIMデータの空間情報を活用できる。具体的には、建物内のロボットの移動を検証したり、物品を搬入出するための最適な動線を調べたりできる。(Unityで手軽にBIMデータ活用、インポート機能を強化 日経X TECK記事より)

当建築設計事務所の事例として、スケッチアップのモデルをVRで見ることはできました。しかし軽量化しないままの重いBIMデータをUnityに取り込んでVRで見るには、相当高性能のPCが必要なのだろうと思われます。。。小規模建築設計事務所でも、どのようにVR技術を活用することができるか、今後も引き続き探っていきたいと思います。

まとめ

今回のブログでは、住宅のような小規模な建築設計において、VRがどのように体験できるのか分析しました。現時点ではまだ、ヘッドマウントディスプレイによる定点からの360°ビューを提供するのが一般的な使われ方ですが、いずれより精度の高い仮想空間を歩き回ることによって、住宅の施工以前に現実に近い使用感を体験することができるようになるでしょう。施主(発注者)は施工以前に仮想空間を体験できるため、竣工後になって初めて「想像していたものと違った」という苦い経験を避けることができます。

また技術革新により複雑だったソフトウエアが容易に操作できるようになり「自分の望む空間」を自分で作成し、設計者に提示することができるようになります(今はまだ一定レベルのリテラシーが必要となりますが)。こうした傾向は施主(発注者)と設計者の間で、従来とは異なる新たなコラボレーション(協業)の機会や設計プロセスを生むのでしょう。

このブログを書いた2018年5月時点から、VRやARを取り巻く環境はテクノロジーの進歩・実装とともに大きく変化しています。是非

電源入れたら24時間で家が建つ?米蘭中露伊UAEでの3Dプリンタ建築の試み や NY/Boston調査報告会:「設計」の将来について考える も併せてご覧ください。