(2021.02.21加筆修正)

19日、日本気象協会は2021年春の花粉飛散予測(第4報)を発表しました。スギ花粉は、九州、四国では早くもピークに突入、3月は、関東や東北などもピークになるでしょう。(日本気象協会ウェブサイト2021.02.19より)

喉に違和感、咳、倦怠感、発熱って、コロナウイルスではなく花粉症の場合もあるかもしれません。もともと軽いアレルギー体質の私は、薬を日常的に服用しているので辛うじて問題ありませんが、皆さんの花粉症の影響はいかがでしょうか?

コロナ禍により花粉症の方々にもいろいろと影響があるかもしれません。もはやマスクが手に入らず困ることは無いと思いますが、くしゃみをすると周囲の人々からひんしゅくを買うとか。一方で、テレワークの促進で通勤通学による外出機会が減ったため、通常よりも症状が抑えられているかもしれません。

前回のブログ ウイルス対策になるのか?抗菌の住宅設備機器や建材から「細菌に強い家」を考える では、細菌やウイルスについて調べてみたので、今回のブログでは、花粉に強い住宅や住空間をつくることについて、2つの点から考えてみたいと思います。

  1. 花粉症とは何か?
  2. どのように対策を考えればよいのか?
  3. 花粉が室内に持ち込まないようにするにはどのようにしたらよいか?
  4. 室内に入った花粉を取り除くにはどのようにしたらよいか?
  5. まとめ

Covid-19が終息しても、将来新たなウイルスが蔓延する可能性も高いです。また、花粉の飛散も無くなることは無いでしょう。細菌・ウイルスと、花粉は、大きさや影響力の点でおおきく異なりますが、ウイルスや花粉に対してどのように対抗していくかについては様々な共通点があると考えています。「細菌・ウイルスや花粉に強い家」を計画するうえで、参考になればと思っています。

1.花粉症とは何か?

花粉の電子顕微鏡写真

花粉症の原因や症状については、製薬会社・薬局・クリニックなどの多くのウェブサイトが情報提供しています。まずは花粉症について簡単におさらいしてみましょう。信ぴょう性の高い厚生労働省のサイトから引用です。

Q1.花粉症の正体って一体なんですか。
花粉症の正体は、花粉に対して人間の体が起こすアレルギー反応です。体の免疫反応が、花粉に過剰に反応して花粉症の症状がでるのです。

Q2.花粉が鼻や目にはいると、どうして花粉症の症状がでるのですか。
体が花粉を外に出そうとするために、「くしゃみ」で吹き飛ばしたり、「鼻水」「涙」で花粉を洗い流そうとしているのです。

Q3.どんな花粉がいつ飛んでいるのですか。
関東地方では、2月から4月はスギ花粉、4月から5月はヒノキ花粉、6月から8月はカモガヤなどのイネ科花粉、8月から10月はブタクサやヨモギなどの雑草類の花粉が主として飛散します。

花粉症の原因は、様々な花粉によるものですが、サイズはそれぞれ異なるようですね。例えば、2月~5月に飛散するヒノキやスギの花粉は、およそ30~40マイクロメートルの大きさです。一方、8月~10月に飛散するブタクサやヨモギの花粉は、およそ20~30マイクロメートルの大きさです。つまり、春の花粉の方が、秋の花粉よりも大きいことになります。

八王子市ホームページより(花粉の色は測定用に染色したもので、本来の色ではありません)

こうした花粉の大きさは、花粉症の症状にも少なからず影響するようです。

春の花粉症の原因となるスギやヒノキの花粉は粒子が大きいため、吸い込んでも鼻の粘膜に留まりやすく下気道への影響はそれほどありません。

ところが、秋の花粉症を引き起こすブタクサなどの花粉は粒子が細かく、気管に入り込んでぜんそくのような症状を引き起こすことがあります。(エスエス製薬ウェブサイトより)

植物の種類による細かい違いがあり、個人差も大きいでしょう。また「花粉の表面に付着している微粒子(オービクル)が下気道に到達して喘息症状を呈するのではないか(花粉曝露室(OHIO Chamber)での花粉曝露前後の肺機能の変化についての検討より)」という説もあり一概には断言できないかもしれませんが、花粉の大きさは一つの指標にはなりそうです。
ついでに、先ほどの厚生労働省のサイトにこんな情報もありました。

Q4.スギ花粉症は日本にしかないのですか。
スギは日本特有の木です。スギは中国の一部にもありますが、その数は日本と比べると少なく、スギ花粉症が問題となっているのは、ほとんど日本だけだと考えてよいでしょう。

干し草

花粉症は一般的にHay Feverと訳されるのですが、Hayとは干し草の意味です。一般的に「花粉症」と日本語で言うと、「スギ花粉症」のことを思う浮かべることが多いと思うのですが、干し草と花粉症にどのような関係があるのか今までとても不思議でした。海外ではスギ花粉症は存在しないのですね!イネ科花粉や雑草類の花粉によって引き起こされる花粉症がHay Feverだったという訳です。

2.どのように対策を考えればよいのか?

いま読んでいただいているのは、医学系ではなく建築系ブログですので、建築や住宅などのハードとして何が可能なのか考えてみます。ここで考え方の参考になるのは、空気中に浮遊している微小粒子が一定レベル以下になるように清浄度が管理されているクリーンルームでしょう。

半導体集積回路や液晶パネルなどの製造工場における工業用クリーンルーム内では花粉は飛んでいないでしょう。また医薬品や食品の製造といったバイオクリーンルーム内でも、花粉の混入を避けるために清浄な空気に管理されているはずです。どのような方針で、クリーンルームは作られているのでしょうか?

清浄空間を作り、維持するための条件として以下の原則が挙げられる。

微粒子を持ち込まない。

微粒子を発生させない。

発生した微粒子を速やかに排除する。

微粒子を堆積させない。

(クリーンルーム Wikipediaより)

この微粒子を花粉に置き換えれば、花粉のない(または少ない)室内を作る指標になるはずです。花粉は室内で勝手に発生しないので、ざっくり言うと

「花粉を持ち込まない」

「花粉を速やかに排除して堆積させない」

の2点に分けて整理して考えることが大切です。それでは以下この2点について検討したいと思います。

3.花粉が室内に持ち込まないようにするにはどのようにしたらよいか?

花粉の室内侵入・持込み量とその割合

花粉が室内に入るのは「付着によって持ち込まれる場合」か「換気による場合」の2通りです。花王による調査報告書(「花粉に関する生活者実態とその対策の検証」~花粉時期を上手に乗り切るために~)によると、付着による持込は約40%換気による侵入は約60%なのだそうです。分かりやすい!

付着による持ち込みの場合(全体の40%)

ふとんと洗濯物

ふとんと洗濯物に付着することによって全体の40%弱の花粉が室内に入ることになります。このことからも 「乾燥機を常備し外干ししないこと」 がとても大切であることが分かります。
ふとんは少なくとも週一回程度は干した方が良いとされています。陽の光に充てることによって、除湿と殺菌の効果があるようです。陽当りのよい住宅であれば、室内に干すことも可能ですが、難しい場合も多いでしょう。陽当りが悪い住宅の場合は、1万円程度で数多くの布団乾燥機が販売されているので利用してみるのも一つの方法です。

一方洗濯物については、少なくとも2,3日に一回は洗濯機を回しているのではないでしょうか。新しく乾燥機を導入する場合は、可能であれば「ランニングコストが安く」「乾燥時間が早い」「仕上がりが良い」ガス乾燥機の方が、電気乾燥機より優れています(断言!)。我が家でもガス乾燥機を使っていますが、単身者ではなくご家族でお使いの洗濯物が多い方には強くお勧めしています。コインランドリーでもガス乾燥機の方を採用しているところが大多数でしょうね。

外衣と頭髪
人間が持ち込む花粉の量は、ふとんや洗濯物に比べると多くないようですが、衣服や自分自身の頭髪・顔・手などに付着した花粉を室内に持ち込まないようにする対策も必要です。先ほどのクリーンルームの考え方を参考にしてみましょう。

クリーンルームのエントランス

本格的なクリーンルームでは、外部用と入退室用の2つの扉の間に清浄空気によるエアシャワー設備を置いた二重扉の出入口を設けることがあります。より簡易な方法として、この写真のような前室にて、クリーンルームに入る前に外衣を覆い靴を履き替えることで対応することもあります。

玄関をクリーンルームの前室に見立て、住宅でも同じような対応をすることが可能でしょう。住宅の外で外衣や頭髪などに付着した花粉を払い、玄関で靴を脱いで花粉を持ち込まないのと同時に、できる限り玄関に近いエリアで外衣を室内着に着替えることを心がけましょう。また、玄関近くに洗面があれば、帰宅と同時に速やかに手や顔を洗うことができます。

つまり、

外+玄関+洗面+更衣エリア) と (リビング+ダイニング+キッチン+寝室) を隔離

することによって、帰宅時

  1. 玄関で靴や上着を脱ぐ
  2. 洗面所で手洗いうがいをする
  3. シャワーを浴びる
  4. 室内着に着替える

の順番で生活することによって、花粉の付いた服を住宅内の生活空間から隔離することができますね。

実はこの考え方は、花粉のみならず、ウイルスや細菌対策としても有効です。2020年5月4日、新型コロナウイルス感染症専門家会議からの提言を踏まえ、厚生労働省は「新しい生活様式」の実践例 を公開しましました。このブログに関係する内容では

  • 家に帰ったらまず顔や手を洗う。
  • できるだけすぐに着替える。
  • シャワーを浴びる。

が感染防止の基本として記載されていました。繰り返しになりますが、ウイルスや細菌対策としても、(外+玄関+洗面+更衣エリア)と(リビング+ダイニング+キッチン+寝室)を隔離 し、帰宅後に玄関で靴を脱いでからそのまま洗面脱衣室に直行して、シャワーを浴びることは有効です。

換気による侵入(全体の60%)

一方で換気によって全体の60%の花粉が室内に入ることになります。

窓開けによる換気

環境省の花粉症環境保健マニュアル2019によれば、花粉は昼前後と夕方に多く飛散するそうです。一説には、昼前後に多いのは、暖かくなるとスギ花粉が飛び立ち、昼頃に都市部に到達するため。また、上空に飛散している花粉が落ちてくるのが夕方頃とも言われています。ですから、窓を開けて換気をする場合、朝方または夜に行い、日中は行わないことが望ましいようです。

空中飛散スギ花粉の日変動と湿度との関係

湿度が80%以下になると花粉は飛散しはじめ、大半の花粉が午前中に飛散し、湿度が80%以上になると飛散がとまることが判明した。(自然の中の粉粒体シリーズ 花粉より)

また上記からも、湿度が高い雨の日は、日中であっても窓を開けて換気しても大丈夫そうですね。

給気口からの換気

適切に計画された住宅は、第1種換気、第2種換気、第3種換気のいずれかで換気方法が検討されています。今回のブログでは技術的に詳しいことは省略しますが、ざっくり言うと

第1種換気は高級仕様

第3種換気は一般仕様

と覚えておいてください。本来、吸気と排気を部屋ごとではなく集中管理・換気が確実・熱交換器により省エネとなる第1種換気が望ましいのですが、一般的には、仕組みがシンプルでコストが低い第3種換気(給気は自然給気、排気は排気ファン/換気扇による)によって計画される住宅が多いでしょう。ただ第3種換気の場合、室内が負圧になり、

これら第3種換気かつ在来工法の住宅では、隙間からの給気量が8割以上で、自然給気口からの給気量が2割以下Panasonicのウェブサイトより)

となるそうです。私も調べてみるまで、これほど在来工法の隙間からの給気量が多いとは知りませんでした。花粉症がひどい方は、室内外の圧力が等しく隙間からの給気量が少ない第1種換気の採用が望ましいと言えるでしょう。

仮に隙間からの給気量を減らすことができたとしても、給気口から花粉が充満した空気を室内に取り込んでしまうと問題です。ふろ場やレンジフード等の排気ファンによって各部屋に設置された給気口からの空気を引っ張って排気をする第3種換気方式の場合、家中を花粉が飛び回ることになります。そのため給気口に設置されたフィルターの役割が重要になります。

給気口のフィルター

いずれの換気法であったとしても、できる限り外気(花粉)を取り入れないように隙間を塞ぎ気密性を高めた上で、換気システムに組み込まれた給気口から外気を室内に取り入れることになります。給気口にはフィルターが設置されているので、このフィルターにはいくつかグレードがあります。

Panasonic 2019-2020.3 換気・送風・環境機器総合カタログより
Panasonic 2019-2020.3 換気・送風・環境機器総合カタログより

微小粒子用/高性能のフィルターであれば、PM2.5つまり大気中に浮遊する2.5マイクロメートルの微小粒子の約97%が除去できるそうです。ヒノキやスギの花粉はおよそ30~40マイクロメートル、ブタクサやヨモギの花粉はおよそ20~30マイクロメートルの大きさでしたから、十分除去可能ですね。給気口に適切なフィルターを設置して、常に清浄な空気を取り入れることに配慮したいです。

4.室内に入った花粉を取り除くにはどのようにしたらよいか?

花粉が室内に入らないようにいくら工夫したとしても、100%シャットアウトすることは難しいでしょう。いったん室内に入ってきた花粉は、空気中を漂うのでしょうか?それとも床に堆積するのでしょうか?日本建築学会による新型コロナウイルス感染症制御における「換気」に関して 緊急会長談話 によると

5μm 前後の飛沫、飛沫核はある時間空気中を漂うことが分かっています。

とのことですので、5μm程度のウイルスはある時間空気中を漂いますが、30㎛~40μmのスギ花粉などはある程度の時間内で室内で堆積するようです。それでは「花粉を速やかに排除して堆積させない」ためには、どのようにすればよいのでしょうか。

空気中の花粉

花粉は室内に入ると空気中を漂います。これらを除去するためには空気清浄機が必要です。最近の空気清浄機では、活性炭や光触媒でにおいを吸着したり、プラズマで消臭を行いバクテリア・アレルゲンを分解したりする付加機能もあるようです。しかし花粉を取り除くという点ではフィルターの機能を確認することが一番大切でしょう。

HEPAフィルタの捕集機構

HEPAフィルタ  (High Efficiency Particulate Air Filter) が一般的に用いられていますが、JIS Z 8122 によって、「定格風量で粒径が0.3 µmの粒子に対して99.97%以上の粒子捕集率をもち、かつ初期圧力損失が245Pa以下の性能を持つエアフィルタ」と規定されています。この性能であれば、30~40マイクロメートルのスギ花粉粒子は問題なく捕集されるでしょう。

さらに高性能な「定格風量で粒径が0.15 µmの粒子に対して99.9995%以上の粒子捕集率」を持つULPAフィルタもあるようですが、花粉だけの点から考えるとそこまでの性能は必要なさそうですね。

室内の空気を循環させているという点からは、エアコンのフィルターの清掃も大切ですね。スギ・ヒノキ花粉が飛散し始める春、およびブタクサやヨモギの花粉が飛散し始める夏には、是非こまめにフィルタの清掃を行いましょう。
さらにエアコンの給気口に設置されているメッシュフィルターに貼ることによって空気清浄機能を付加する商品も多く販売されています。基本、空気清浄機と同様の方式で微細粒子を捕集します。

床に堆積した花粉

床掃除と言えばまずは掃除機でしょう。ただ、床に堆積した花粉粒子を確実に吸い取り、また排気がキレイな掃除機である必要があります。せっかく吸い取った花粉が、排気で排出されてしまったら、意味ないですよね。

掃除機には、フィルター式、紙パック式、サイクロン式などいろいろな方式がありますが、紙パックがフィルターの役目を果たしている紙パック式以外は、適宜フィルターの清掃が必要になります。この点は、空気清浄機やエアコンと同じですね。メンテナンスしないと確実に花粉をはじめとした微細粒子を捕集することができません。

床がじゅうたんやカーペットではなく、フローリングや畳の場合、水拭きは、お金もかからないし健康増進につながるので、実はお勧めかもしれませんね。

まとめ

今回のブログでは、クリーンルームの考えを参考にしながら、「花粉が室内に入らないようにするにはどのようにしたらよいか?」「室内に入った花粉を取り除くにはどのようにしたらよいか?」の2点から、「花粉に強い家」を考えてみました。

ハードとしての家において、換気方法や設備機器に配慮して工夫することは可能です。さらに布団や衣服を室内で乾燥させたり、フィルターを定期的に清掃するなど適切に運用することがとても重要なことが分かりました。