6月18日、午前7時58分、大阪府北部を震源とするマグニチュード(M)6・1の地震が発生しました。高槻市の9歳の小学生が、この地震によって倒れてきたブロック塀の下敷きになり亡くなるといういたましい事件がありました。自分自身も小学生の娘を持つ身として、心が痛みます。

この事故を機に、日本全国の地方自治体や教育委員会主導で、通学路のブロック塀の調査に乗り出しています。そもそも建築のプロではない教育委員会関係者が、ブロック塀の安全性について調査することに無理がある上、限定された関係者によって広範囲にわたる全ての通学路を調べつくすことは物量的に不可能です。

さらに教育委員会によっては、PTAを通じて素人の保護者に対して調査を要請しているようです。PTAを通じて委託された素人の保護者の方々も、教育委員会の方々同様に建築のプロではない訳ですし、仮に「安全だ」と判断したものが後に事故を起こしたら責任問題にもつながります。

こうした状況下で、日本建築学会は6月29日付で「危ないコンクリートブロック塀の見分け方」という情報を発信しました。

しかし、このような無味乾燥な文字情報だけでは、一般の方は分かりにくいと思います。そこで今回のブログでは、一般の方でもイメージが湧きやすいように写真を交えて解説したいと思います。

1)鉄筋で補強されたコンクリートの基礎が無いもの

社団法人全国建築コンクリートブロック工業会ウェブサイトより

コンクリートブロック塀は本来、鉄筋で補強されたコンクリート基礎の上にのっている必要があります。ブロック塀の高さによって異なりますが、日本建築学会の指針では少なくとも35㎝以上の根入れが規定されています。

現実的には、コンクリート基礎が地中に埋まっている場合もあり、外見からではなかなか「鉄筋で補強されたコンクリートの基礎」の存在が判断できない場合があります。さらにコンクリート基礎を確認できたとしても、その基礎が適切に鉄筋で補強されているかどうかまでは、視認はできません。。。この点については、危険度の判断は諦めたほうが良いかもしれません。。。

2)ブロック塀の地盤面からの高さが 2.2m(一般的なブロックの 11 段相当)を超えるもの

これは目で見て数えることができるので分かり易いですね。例えば下の写真はブロックが11段積まれています。この程度の高さのブロック塀は、街中でたまに見かけるのではないでしょうか。

一方この事例では、ブロック塀の高さは15段あります。圧倒的な高さですね。崩れてきたらひとたまりもありません。

このようなブロック塀は、道路沿いではなく、敷地境界に存在する場合が多いと思います。駐車場に面している場合もあるので、注意が必要です。

3)ブロック壁体の厚さが 12 ㎝未満(高さ 2.0~2.2m では 15 ㎝未満)のもの

これも実際のブロック塀の寸法を計測すれば、一目で分かりますね。法令ではブロックの厚さは 10 ㎝以上ですが、日本建築学会の設計規準では安全性を高めるため12 ㎝以上としているそうです。

佐々木ブロックウェブサイトより

4)ブロック塀の高さが 1.2m(一般的なブロックの 6 段相当)を超える場合、3.4m 以下ごとに控壁が設けられていないもの

控壁というのは、建築構造の一つであり、主壁に対して直角方向に突き出した補助的な壁のことです。主壁に生じる横荷重を受け止めて、主壁を支持・補強する役割を果たします。要は、下の写真の赤枠で示されている部分のことです。

こうした控壁は敷地内に立てられてしまうため、その有無を道路側から確認することは困難ですが、場合によっては回り込んで確認することができます。例えば、道路側から見るとこのように見えるブロック壁があります。

敷地内に回り込んでみると、控壁がないのがばっちり分かります。このブロック塀はアウトですね。

繰り返しになりますが、外見からではなかなか鉄筋で適切に補強されているか判断できないため、「控え壁がある ≠ 現行法に適合している」であることには注意が必要です。

5)高さ 1m 以上の擁壁の上部にあるブロック塀で、擁壁上端面より高さ 1.2m を超えるもの (高さ 1m 未満の擁壁では、擁壁下部の地盤面より高さが 2.2m を超えるもの)

法令には擁壁上部のブロック塀の高さに関する特別な規定はありませんが、日本建築学会の設計規準では安全性を高めるため、高さに 1.2m の制限を設けているそうです。

高槻の小学校の事故では、擁壁のような構造物の上に、ブロックが8段積まれていました。ブロック一つあたりの高さは20㎝ですから、8段で1.6m分の高さがあったということです。高槻市によると、ブロック塀の基礎部分は高さ約1.9mあったとのことですから、高さ 1m 以上の擁壁の上部にあるとみなすことができ、学会の設計基準は満たしていないことになります。

GoogleMapより

6)外見上、劣化があるもの(ひび割れ、傾きなど)

注意して街歩きをしてみると、外見上劣化があるブロック塀は、多々あります。例えば、下の写真では、上から下までひびが入っていますね。

さらに近づいてみると、隙間から露出した鉄筋を確認することができます(赤枠参照)。

本来コンクリートブロック内でモルタルに保護されている鉄筋が露出して空気に触れると、酸化が進行します。このような酸化つまり錆により、鉄筋は2.5倍から4倍にも膨れ上がると言われています(知っておきたいメンテ技術より)。鉄筋が錆によって膨張することにより、コンクリートブロックも徐々に破壊されていくわけです。

コンクリートブロック表面の錆汁は、すぐに倒壊することを示しているわけではありませんが、ある一定の危険信号を発していると考えることができるでしょう。この事例はコンクリートブロックではなく、万年塀(鉄筋コンクリート組立塀)ですが、上部の笠木部分の鉄骨が露出・酸化し、錆汁が出ていることが分かります。

さらに、以下のようにコンクリートブロックがボロボロになっていた寒冷地の事例もありました。

コンクリートブロックがこのようにボロボロになっている原因はよく分かりませんが、屋根や鉄骨階段の直下にあることから、ブロック塀に常に雨水がかかる状態であるため、凍結時に水分が膨張してブロック塀が爆裂したのかもしれません。いずれにしても、危険ですね。

7)(追加として)ブロック塀が2000年より前に建てられているかを確認する

建築基準法では、1981年と2000年に強化されており、ブロック塀の耐震基準が決められています。ブロック塀の高さを原則、地盤面から2.2mまでと定めています。さらに壁体内に一定間隔で一定サイズ以上の鉄筋を入れたり、鉄筋同士を重ねて結束することも求めらています。

もし、このブログを読んでいる方が20年近く一か所に定住している場合、引っ越してくる以前から存在しているブロック塀は、現在の耐震基準を満たしていない可能性が高いということです。どの家が昔から存在していたか、思い出してみましょう。

高槻市立寿永小学校ブロック塀倒壊事故から学ぶ(11月19日加筆)

ブロック塀倒壊事故後、高槻市で発足された調査委員会は、10月29日付で「学校ブロック塀地震事故調査委員会」は答申及び調査報告書をまとめました。
この報告書は、調査の目的等、事故原因の検証、再発防止策の提言、といった章立てから成り立つ包括的なもので、高槻市のホームページからダウンロードできます。通学路などで心配なブロック塀がある場合は、是非読むことをお勧めします。

事故原因について報告書では、

検証の結果、大阪府北部地震によって発生した本件事故の主原因として、内部構造に不良箇所があったことによるブロック塀脚部の耐力不足がある。(学校ブロック塀地震事故の調査について(答申)より)

と述べられています。控え壁がなかったことは、当初から指摘されていましたが、「ブロック塀脚部の耐力不足」については、今回の報告書で明らかになった内容です。

  • 必要な擁壁への定着長さが確保されていなかったこと
  • コンクリートブロックの空洞内の重ね継手が用いられていたこと
  • 接合筋には、著しい腐食がみられていたこと

が指摘されていました。

学校ブロック塀地震事故調査報告書より
ブロック塀の脚部について  学校ブロック塀地震事故調査報告書に加筆修正
学校ブロック塀地震事故調査報告書より
学校ブロック塀地震事故調査報告書より
学校ブロック塀地震事故調査報告書より

上の状況写真からも、鉄筋がコンクリート躯体あるいはコンクリートブロックに緊結されていないこと、鉄筋が腐食していること、を確認することができます。

報告書では、点検に関する検証もなされています。建築基準法において、安全上・防火上等特に重要であるとして政令で定める建築物の法定点検は、一級建築士等の有資格者により、3年に一度実施することが義務付けられています。また、施設管理者らが日常点検を行うことは、努力義務とされています。しかし、これらの点検は、あくまでも目視によって劣化・損傷状況を確認するにとどまります。そのため報告書では、

法令の定めるとおりに法定点検が実施されることと、本件事故のような内部構造の不良や劣化を主要因とするブロック塀の倒壊については、直接的な因果関係は成り立たないと言える。(学校ブロック塀地震事故調査報告書より)

と法定点検を位置付けています。やはり法定点検・日常点検だけでは、ブロック塀の安全性を確認することは不可能であるようです。

また報告書では、市の縦割りを前提とした職場体制に起因する、事務系職員と技術系職員間の情報共有の難しさに対しても指摘がありました。高槻市に限らず日本全国の地方自治体(または民間組織)に言えることなので、今後の対応が望まれます。

さらに、報告書の中で印象的だったのは、地震による危険への対応に関する知識についてです。

学校長らのブロック塀の危険性に関する認識として、過去の事故事例等に関する知識はあったが、本件ブロック塀が撤去に至らなかった背景には、個々人の認識が抽象的で、危険性の具体的な原因に認識が及ばず、他の教職員等と組織的に共有されていなかったことや、記念製作が施されていたことなど、様々な要素があったものと考えられる。(学校ブロック塀地震事故調査報告書より)

「各個人が、危険性について抽象的に認識をしているものの、組織としての具体的な対応につながることができていない事例」は、今回のブロック塀倒壊に限らず、実は至るところに見られる構造的な問題なのではないでしょうか。まずは各個人が身の回りの危険性を認識し、何らかの行動に移し、解決することの重要性を、改めて感じます。

まとめ

今回はコンクリートブロック塀を取り上げましたが、万年塀や石積みの塀など、危険な塀は身の回りにたくさんあります。

危険だと感じたら、素人判断せずに、早期に専門家に相談することをお勧めします。

(2018年9月6日追記)

先月の8月3日、国土交通省の社会資本整備審議会建築分科会の建築物等事故・災害対策部会(部会長:深尾精一・首都大学東京名誉教授)において、耐震改修促進法の枠組みを利用して、ブロック塀の耐震診断・改修を進める考えが示されました。すみやかな施行が望まれます。

大阪府北部を震源とする地震に係る建築物等の被害状況と今後の取組みについて 平成30年8月3日国土交通省住宅局より

(2018年11月30日追記)

国土交通省の報道発表資料によると、

都道府県又は市町村が耐震改修促進計画に記載する避難路の沿道にある一定規模以上の既存耐震不適格のブロック塀等は、耐震診断が義務付けられる

ことが、2018年11月27日の閣議決定されました。2019年1月1日より施行されます。

ただし、「前面道路に面する部分の長さが25mを超える」「建物に付随するもののみが対象となる」といった制約条件のもとで義務付けられるため、戸建住宅などの小規模な建築物のブロック塀は、残念ながら対象となりません。

国土交通省報道発表資料

今回の閣議決定は、危険なブロック塀を排除する方向に向かった貴重な前進です。今後は、対象範囲をより小規模なブロック塀へと適用するとともに、補助金を交付するなどして円滑に耐震診断や建て替えが進む環境整備をしていただきたいと思います。

今回のブログでは、コンクリートブロックについて書きましたが、同様に危険な万年塀については 危険!あなたのまわりの「万年塀」について 通勤通学路全般については 災害時のこどもの通学路の安全:5つのチェックポイント を併せてご覧ください。