ひと月ほど前のブロック塀倒壊事故以来、コンクリートブロックの危険性について様々な技術的情報がメディア上で共有されてきました。しかし「万年塀(鉄筋コンクリート組立塀)」について説明している技術的な情報は、ほとんど有りませんでした。今回のブログでは、建築基準法の枠外として扱われている万年塀について調べたことについて情報共有したいと思います。

万年塀とは

皆さんのお住いのエリアにも、多くの万年塀が立っていると思います。上の写真のように、きれいにメンテナンスされている塀もたくさん立っています。しかしよく見てみると、いかにも問題がありそうな万年塀が至る所にあるようです。

例えば、このように錆汁が出ている万年塀や

柱が傾いて隙間ができている万年塀があります。

拡大して見てみると、

何かの具合に写真右側の柱が倒れたら、コンクリート板がばらばらに倒壊するでしょう。万が一倒壊して歩行者に危害を加えたら、所有者は責任を問われると思うのですが、所有者はそのようなリスクを理解しているのでしょうか???

これはコンクリート板に発生したクラックの事例です。

このようなクラックをそのまま放置していると、クラックから水がしみ込み、鉄筋がさびて膨張し、表層のコンクリートが爆裂し、鉄筋が露出してしまいます。

他にも、コンクリート板が崩壊しても脱落しないように、申し訳程度に簡易な鉄板が柱に取り付けられている事例もありました。コンクリート板にはクラック(写真右上)とともに露出した鉄筋(写真左下)も確認できます。

「簡易で余り効果が期待できない補強法」を試みている例

このように歩道は危険だらけなのですが、歩行者の方々に万年塀倒壊の危険性は認識されているのでしょうか?コンクリートブロック塀だけを確認して安心していませんか?

万年塀で一般的に使われているコンクリート平板は、長さ172㎝、・幅30㎝・厚さ3㎝、重さは40㎏弱です。このようなコンクリートの塊が2m近い高さから崩壊し頭や体に当たったら、大事故につながります。

建築基準法の範囲外である万年塀の取り扱い

建築基準法では、コンクリートブロック塀は、建築基準法施行令第62条の8(へい)、平成12年建設省告示第1355号で最低限の仕様が規定されています。これは、建築物を前提とした「補強コンクリートブロック造」の一部として「塀」が扱われていることによります。

しかし万年塀(鉄筋コンクリート組立塀)は建築基準法上、屋根と壁・柱を有する建築物としても、コンクリート柱・広告塔・擁壁などの工作物としても明確な定義はありません。(ちなみに「建築物に付属する塀」としては建築基準法が適用されますが、何をもって「付属」するかは各行政庁によって判断が異なるでしょう。)

実は万年塀は「日本工業規格JIS A5409-1993鉄筋コンクリート組立塀構成材Precast reinforced components for concrete fences」として、JIS規格で規定されている工業製品であるため、建築基準法では細かい仕様が規定されていません。

万年塀は大きく分けると、柱、板、笠木 の構成材から成り立っていますが、それらの部材についてJIS規格で規定していることになります。また、それらが組み合わさって万年塀として建設される場合、基礎をどの程度深く設置するかについてもJISでは仕様を規定しています。

日本工業規格 JIS A5409-1993鉄筋コンクリート組立塀構成材 pp.6-7

コンクリートブロック塀については、建築基準法施行令第4節の2「補強コンクリートブロック造」第62条の8(塀)において、高さ・壁の厚さ・基礎・鉄筋など について細かく規定されています。同様に万年塀についても、コンクリート既製品としての各部材の仕様や施工時の根入れ深さについてJIS A5409-1993に規定されていることが確認できました。

国土交通省と経済産業省の間の溝

倒壊したコンクリートブロック塀は、これらの現行の建築基準法の規定を逸脱した、いわば既存不適格(またはもともと違法)である塀でした。違法ではなく既存不適格の場合、「そのまま使用していてもただちに違法というわけではないが、増築や建替え等を行う際には、法令に適合するよう建築しなければならない(原則)。(wikipediaより)」とされています。

万年塀の場合、仮にコンクリート板の鉄筋が露出するような状況で公道に面していたとしても、単にJIS製品基準を満足していないことに過ぎず、罰則や行政指導もありません。コンクリートブロック壁同様に「そのまま使用していてもただちに違法というわけではないが、増築や建替え等を行う際には、JIS規格に従って築造されなければならない。」といったところでしょうか。

コンクリートブロック塀も万年塀も、塀であることに違いはありません。公道に面して建てられたこれらの塀は、歩行者に対して同様に危害を与える可能性があります。しかしコンクリートブロック塀は国土交通省(建築基準法)が管轄し、万年塀は経済産業省(JIS)が管轄しています。塀の評価や危険性について、管轄を越えて対処はできないものなのでしょうか?

日本建築学会による調査資料「東京都目黒区コンクリートブロック塀等の調査研究報告」

製品としての万年塀のことについては、JIS規格を参照することによって何となく理解できたのですが、建築的視点からは不十分だと思っていた矢先、日本建築学会図書館で「東京都目黒区コンクリートブロック塀等の調査研究報告」という資料にたまたま巡り合うことができました。

この調査報告書によると、

日本建築学会では、東京都目黒区より平成元年6月に、ブロック塀などの実態調査と、危険度判定基準の作成並びに危険度評価について受託した。(中略)ここに、3年間の調査研究結果をまとめ報告書として発表することにした。

と書かれています。ブロック塀14,651件、石塀2,244件とともに、万年塀1,342件について調査が行われています。およそ30年前の調査になりますが、包括的に行われた重要な調査です。

万年塀の工事が行われた最初の年は1926年で、工事が最も多く行われたのは1965年代であった。(中略)1965年代には万年塀建設のピークを迎え、1955年から1964年の10年間に141件(回答の35%)、1965年から1974年の10年間に133件(回答の33%)建設されている。なお、最近(30年前)はブロック塀が主流で、石塀や万年塀の建設は急激に減少している状況が伺われる。
(中略)
補強工事に関してはブロック塀や石塀と同様、今回の調査を見る限り、有効と思われる工事を行っている例は少なく、簡易で余り効果が期待できそうにない補強法を採用している例が殆どであった

東京都目黒区コンクリートブロック塀等の調査研究報告 p.115)

とあります。補強「的」なことを試みている万年塀はあっても、「簡易で余り効果が期待できない補強法を採用している例が殆どであった」というのはショックですね。先に挙げた写真で、柱に鉄板を設置している事例は、この「簡易で余り効果が期待できない補強法」と言えます。調査当時から30年後の現在、新築の万年塀はさらに減っていると思われますが、インターネット上でざっくりと検索したところ、万年塀を製造・販売する業者さんも、まだまだ数多くいるようです。

万年塀の補強について

それでは、現存する万年塀はどのように補強したらよいのでしょうか。この調査報告書では、補強方法について

万年塀は規格化されており標準的に施工された場合には、補強を必要とすることは少ないようである。しかし、基礎部分の施工のミスや、予想外の振動による不動沈下などにより柱が傾斜を起こし板の脱落や、かさ木が経年変化により鉄筋が腐食し緩み、落下を起こすことが多いようである。したがって、万年塀の補強としては、柱の傾斜の修正、板と板、板と柱との結合、かさ木を鋼板で覆うなどの方法で補強するのが良いと思われる。

東京都目黒区コンクリートブロック塀等の調査研究報告 p.120)

と書いてあります。

見て回った中には、柱や板のずれによる落下防止を目的としたものがありました。ここまで傾いているのならば、建て直したほうが良いと思うのですが。。。

隣地側からの見た万年塀
敷地側から見た万年塀

また、笠木を鋼板で覆う事例もありました。笠木部材の隙間からの雨水浸透を防ぎ、また各笠木部材がばらばらになることも防ぎます。

鋼板で覆われた笠木

万年塀の外観調査項目について

「東京都目黒区コンクリートブロック塀等の調査研究報告」では、外観調査にあたり以下7項目を挙げています。

  1. ひび割れ
  2. 破損
  3. 傾斜
  4. ぐらつき
  5. 傾斜とぐらつき
  6. 変色風化
  7. かさ木の動きと欠落

30年前の調査ですでに様々な不具合が指摘されています。取り壊された万年塀も数多くあると思いますが、いまだ現存している古い万年塀は知らず知らずのうちに、さらに深刻な状況になっているといえるでしょう。皆さんのご近所で、上記の7点について、外観上著しい問題がある万年塀を発見した場合、市区町村の建築指導課や専門家に相談することをお勧めします。

 

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