「設計業務を生業とする方」および「設計業務をこれからお願いしようと考えている方」両方に是非知っておいていただきたい内容です。

設計業務委託契約って必要?

契約書

皆さんは建築設計事務所に設計業務委託契約を発注、または受注する場合、契約書を交わしますか?「小さい規模だから」「面倒だから」「良く知っている人だから」と言って、契約書を取り交わさないことはありませんか?

平成27年6月25日に施行された建築士法では以下の内容に改正されています。

(延べ面積が三百平方メートルを超える建築物に係る契約の内容)
第二二条の三の三 延べ面積が三百平方メートルを超える建築物の新築に係る設計受託契約又は工事監理受託契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
一 設計受託契約にあつては、作成する設計図書の種類
二 工事監理受託契約にあつては、工事と設計図書との照合の方法及び工事監理の実施の状況に関する報告の方法
三 当該設計又は工事監理に従事することとなる建築士の氏名及びその者の一級建築士、二級建築士又は木造建築士の別並びにその者が構造設計一級建築士又は設備設計一級建築士である場合にあつては、その旨
四 報酬の額及び支払の時期
五 契約の解除に関する事項
六 前各号に掲げるもののほか、国土交通省令で定める事項

要するに「延べ面積300㎡を超える建築物について、書面による契約締結の義務化」がされたということです。300㎡といえばおよそ延床面積90坪の建物です。

総務省が行った「平成25年住宅・土地統計調査」によると、東京都の一住宅あたり延べ床面積は64.48㎡ですし、まあ一住宅の規模ではありませんが。。。

規模に関わらず、今後のトラブルを避けるためにも、規模に関わらず設計の業務委託契約を取り交わすことをお勧めします。しかしここで問題になるのは、設計業務ではいったいどのような契約を取り交わすことになるでしょうか。よくわからなかったので、まず用語を調べてみることにしました。

「委任契約」とは

そもそも「委任契約」とは一体どのような契約なのでしょうか。

「委任」とは
①ゆだねまかせること。事務の処理を他人に委託する事。
②(法)民法上、当事者の一方が法律行為をなすことを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって成立する契約。
広辞苑第6版 岩波書店

弁護士

つまり委任とは「事務の処理」の中でも法律行為を委託する事のようです。弁護士への訴訟委任などは委任契約に当たるようですが、これは設計業務とはちょっと違いそうですね。設計業務に対しては、「準委任契約」が適用されているみたいです。

「準委任」とは

(法)受任者に法律行為でない事務の処理を委託する委任契約。
広辞苑第6版 岩波書店

準委任
民法は、法律行為(例えば契約の締結)の委託と、法律行為でない事務の委託(例えば会計帳簿の検査)とを区別し、前者を委任(民643)、後者を準委任(民656)としている。しかし、準委任には委任の規定が全面的に準用されるので、両者を区別する実益はない。
法律学小辞典 第4版 有斐閣

「例えば、けがの治療を医者に依頼することがこれ(準委任)にあたる」
法律用語辞典 成美堂出版

「準委任契約」は「委任契約」と実質的には同じ内容のようですね。またこの契約の場合、専門家としての能力から考えて通常期待される注意義務(行為そのものにミスが無いように注意する義務)が課せられますが、これを「善管注意義務(民法第644条)」と呼びます。

医者

それでは「けがの治療を医者に依頼すること」と「設計を設計士に依頼すること」は同等なのでしょうか。医者は、けがの治療に対して「善管注意義務」を負いますが、けがの完治を保証しているわけではありません。同様に、設計士は設計に対して「善管注意義務」を負いますが、完全な設計を保証しているわけではないことになります。けがの完治が保証されないことは納得できても、完全な設計が保証されないことが納得できない発注者・施主の方は多いのではないでしょうか。

「請負契約」とは

それでは「請負契約」とは一体どのような契約なのでしょうか。

「請負」とは
①保証すること。うけあうこと。
②ある仕事の完成を全責任をもって引き受けること。建築・土木工事で多く行われる。
広辞苑第6版 岩波書店

つまり請負とは「仕事の完成を引き受ける」ことなのですね。建物を契約の内容通り完成させることを、施工者は請け負うわけです。

大工

しかしながら設計士が作成した設計図書は、3次元の建物を便宜的に2次元の設計図と文章で説明するものです。また時間的経済的な制約から、全てを設計図書に記述する事ができません。そのため、誤りのない必要十分な情報が備わった設計図書を作成するのは、現実的には不可能なのです。

設計業務委託契約は「準委任契約」か「請負契約」か?

設計士

建築学識関係者が編纂した辞典ではどのように書かれているのでしょうか?

「委任契約」とは
当事者の一方が法律行為をなすことを相手方に委任し、相手方がこれを承諾する契約(民法第643条~656条)。設計や監理などは委任であり、施工契約でも実費精算方式は委任契約とされる。請負は仕事を完成することを約する点が委任と大きく異なる。
建築大辞典 第2版 彰国社

なるほど。設計や監理は委任であるとはっきり書いてあります。ただ、建築士法によると

「設計図書」とは建築物の建築工事の実施のために必要な図面(現寸図その他これに類するものを除く。)及び仕様書を、「設計」とはその者の責任において設計図書を作成することをいう。(建築士法第二条第六項)

となっています。「建築物の建築工事の実施のために必要な図面」を作成することが「設計」であると明記されているため、(完全な)「建築物の建築工事の実施のために必要な図面」を請け負っていると読み取ることも可能です。現実的ではありませんが。

設計(監理)契約の法的性質を、準委任契約とみるか、請負契約とみるかは根本的問題である。ではあるが、裁判例・学説上も対立している状況にあるので、とりあえずここではとりあげない。
建築紛争ハンドブック 日本建築学会編

裁判例でも学説的にも対立しているのですね。「設計業務」はあいまいで明確に定義することが難しい業務であることを、建築設計事務所(設計者)側と発注者(施主)と側で、しっかり合意しておくことが大切です。