ちまたではコロナウイルスがまだまだ収束しませんが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?電車に乗ると、人はみなマスクで顔を隠し、咳払いでもしようものならば、周囲からのピリピリした無言の圧力を受けます。きっと私も周囲の人たちに無言の圧力をかけているかもしれないので、お互い様なのですが。。。

このような緊迫した状況下でエスカレータに乗るたびに、

たとえ「抗菌」と書かれていたとしても、ウイルスにまみれた手で触られているエスカレータのベルトを握るのは嫌だなぁ

と思うのは私だけでしょうか?

落ち着いて考えてみると、苦手意識があり生物をあまり真剣に勉強してこなかった自分には、細菌とウイルスの違いが良く分かりません。何でもまとめて「バイ菌」と呼んでいた小学生で、時が止まっています。エビデンスもなく嫌っているだけかもしれません。

日本は世界的にみても衛生的な国だと思います。強迫観念にも近い「きれい好き」の人もたくさんいると思うのですが、そうした購買層を対象に「抗菌」の製品が数多く販売されています。肌着やキッチン用品や文具といった日用品も多いのですが、トイレの便座や手摺やドアノブといった住設機器や建材も例外ではありません。

今回のブログでは、世界的にみた日本の衛生状態や、菌とウイルスの違いを理解しつつ、どのようにして「抗菌」が可能になるのか、住宅や住環境を対象としてそのメカニズムについて調べてみました。

  1. 「菌」について正しく知ろう
  2. 抗菌とは何か?
  3. どのような抗菌建材があるのか:人工製品編
  4. どのような抗菌建材があるのか:自然素材編
  5. 気になる除菌・抗菌製品
  6. まとめ

1.「菌」について正しく知ろう

日本は衛生的な国

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People using safely managed sanitation services (% of population)/衛生的な公共サービスを享受している国民の割合

この世界銀行のデータは、WHOとUNICEFが協働して上水(安全な飲料水)・公衆衛生(下水処理)・衛生(石鹸による手洗い)等について行っている調査です。このデータによると99%の日本国民が衛生的な公共サービスを提供されているそうで、米国は90%、英国は98%、イタリアや96%、中国は72%だそうです。WHO/UNICEF Joint Monitoring Programme ( JMP ) for Water Supply, Sanitation and Hygiene ( washdata.org )より。

ちなみに日本より高い100%を達成している国は、アンドラ、韓国、クウェート、リヒテンシュタイン、モナコ、シンガポール、スイスとのことです。国土が小さい国の方が、下水道を整備しやすいということかもしれませんが、どのようにして100%を達成しているかについてまでは確認していません。。。

このデータによると、日本、韓国、イタリアは、衛生的な公共サービスが提供され、石鹸による手洗い環境も整っているわけですから、コロナウイルスが広がらなさそうに見えますが、イタリアでの死亡者数を考えると、医療サービスや人口動態といった他の要素の影響の方が大きそうですね。

ウイルスと細菌の違い

そもそもウイルスと細菌の違いは何なのでしょうか?抗菌とは抗ウイルスと同じ意味なのでしょうか?

細菌とウイルス:大きさの違い(イメージ) 国立国際医療研究センター病院AMR臨床レファレンスセンター ウェブサイトより

細菌とは
目で見ることはできない小さな生物です。一つの細胞しかないので単細胞生物と呼ばれます。細菌は栄養源さえあれば自分と同じ細菌を複製して増えていくことができます。人の体に侵入して病気を起こす有害な細菌もいます。一方で人の生活に有用な細菌も存在します(納豆菌など)。

ウイルスとは
細菌の50分の1程度の大きさで、とても小さく、自分で細胞を持ちません。ウイルスには細胞がないので、他の細胞に入り込んで生きていきます。ヒトの体にウイルスが侵入すると、ヒトの細胞の中に入って自分のコピーを作らせ、細胞が破裂してたくさんのウイルスが飛び出し、ほかの細胞に入りこみます。このようにして、ウイルスは増殖していきます。

抗菌薬(抗生剤、抗生物質)は細菌を退治するための薬です。ウイルスは大きさや仕組みが細菌と異なるので抗菌薬(抗生剤、抗生物質)は効きません。

国立国際医療研究センター病院AMR臨床レファレンスセンター ウェブサイトより)

なるほど知りませんでした。薬の場合は、抗菌薬ではウイルスは退治できないのですね。つまり「抗菌」と書かれたエスカレータベルトでは、ウイルスに対する効果は何も示していません。勝手にウイルスにも効果があると思い込んでいました。。。

ちなみに私たちの体の中にも様々な細菌が「常材菌」として存在し、新たに体内に侵入してくる微生物が増殖することを防いでくれるので、一口に細菌といっても悪いことばかりではありません。ビフィズス菌なんて乳製品として好んで飲まれていますよね。

家の中のどこに細菌がいるのか?

ちなみに、家の中には細菌が繁殖しやすい場所と、繁殖しにくい場所があるようです。日本の住環境における菌の実態調査 という花王の安全性科学研究所による一般家庭を対象とした分かりやすい調査結果があります。

 

菌数は、シンク排水口やキッチンスポンジ(掃除用)、蛇口付け根でほとんどの家庭で多いこと等がわかりました。

こうした水回りに菌が繁殖することは想像できますね。さらに、テーブル用台ふきんでは極めて多い菌数が検出されたそうです。また、キッチンやダイニングの菌数はトイレ床の菌数と同等以上だそうですよ。。。

 

また、菌叢の種多様性については、キッチンスポンジ(掃除用)とともに、冷蔵庫野菜室が高く、これらの場所が衛生管理上注意を要することがわかりました。

キッチンスポンジは、こまめに洗浄して交換したほうが良さそうですね。冷蔵庫の野菜室が高い理由は、野菜に付着した土等に由来する可能性が考えられるそうです。調理前に食材を良く洗浄しなければならないことが良く分かりますね。特に、火を通さず生で食べるサラダなどは、注意が必要そうです。

2. 抗菌とは何か?

そもそも抗菌って何なのでしょうか?抗菌と除菌をくらべると、抗菌の方が効き目が弱そうですね。

菌を長時間増やさない様にすることを抗菌と言います。

菌を一時的に死滅・除去する殺菌・除菌とは区別されます。

一般社団法人抗菌製品技術協議会ウェブサイトより)

なるほど。製品の表面上における細菌の増殖を抑制することができれば、抗菌と言えるわけですね。エスカレータの手すり表面では、殺菌や除菌は行われていないものの、少なくとも細菌の増殖は抑制できていたわけです。自分でも、抗菌と、殺菌・除菌とをなんとなく混同していました。

さらに、抗菌のトイレの便座や手摺やドアノブといった住設機器や建材、言い換えると抗菌加工製品についての説明もありました。

表面の細菌を増殖させないように加工されている製品を抗菌加工製品といいます。

JIS(日本工業規格)では、加工されていない製品の表面と比較し、細菌の増殖割合が100分の1以下(抗菌活性値2以上)である場合、その製品に抗菌効果があると規定しています。

一般社団法人抗菌製品技術協議会ウェブサイトより)

つまり、抗菌製品は細菌に対しては有効ですが、ウイルスに対して有効であるとは言っていないのですね。

抗菌についての4分程度の短い動画です。分かりやすいです。

3. どのような抗菌建材があるのか:人工製品編

まずは抗菌として認定されている製品についていくつか例を挙げてみましょう。

抗菌の便器と便座

菌について一番気になるのはトイレでしょう。トイレには陶器でできた便器と座るための便座があります。

便座

抗菌加工部位 便座表、裏
抗菌加工方法 塗装、練り込み
抗菌剤の大分類 無機抗菌剤
抗菌剤の中分類 銀系
抗菌剤の一般名 無機抗菌剤

便器(衛生陶器)

抗菌加工部位 本体
抗菌加工方法 焼成
抗菌剤の大分類 無機抗菌剤
抗菌剤の一般名 銀等無機抗菌剤

LIXILやパナソニックの商品が一般社団法人抗菌製品技術協議会(SIAA)にて登録されていましたが、銀系の抗菌剤を塗装したり練りこんだりして商品を作っているようです。ちなみにこれらは「抗菌」ではあるものの「抗ウイルス」ではないようです。

気になってTOTO を調べてみたところ、一般社団法人抗菌製品技術協議会(SIAA)ではなく、光触媒工業会(PIAJ)にて商品を登録しているようです。酸化チタン、銀、銅などで光触媒を行い、酸化チタンの表面に光(紫外線)が当たると活性酸素が発生、菌や有機物を分解することで抗菌・抗ウイルス効果を実現しているようですが、LIXILとTOTOでは抗菌の方法がことなっていることは発見でした。どちらの方が性能が高いかまでは、良く分かりませんでした。。。

ちなみに一般的な光触媒は紫外線だけに反応します。屋内の紫外線量は屋外の紫外線量の10%以下環境省:紫外線環境保健マニュアル2008より)ですので、屋内での効果はいまいち不明ですね。ただ最近では、可視光応答型の光触媒によって、蛍光灯やLED照明によってウイルスを分解し不活性化できる商品もあるようですので、技術は日進月歩です。

抗菌の取手

取手でも抗菌の商品があります。

抗菌加工方法 塗装,練り込み
抗菌剤の大分類 無機抗菌剤
抗菌剤の中分類 銀系、亜鉛系抗菌剤
抗菌剤の一般名 ゼオミック

商品によっていくつか方法が異なるようですが、塗装と練り込みの二つがあるようです。いずれにしても、無機抗菌剤として銀系亜鉛系が多いようですね。これも「抗ウイルス」ではないようです。

抗菌の化粧ボード

おなじみメラミン化粧板にもSIAAの抗菌マークついています

用途 家具、扉、各種什器等
抗菌加工部位 不飽和ポリエステル層
抗菌加工方法 練り込み
抗菌剤の大分類 無機抗菌剤
抗菌剤の中分類 銀系
抗菌剤の一般名 無機抗菌剤

こちらについても、銀系の無機抗菌剤を練り込んでいるようです。製品によっては抗菌性能に加え、抗ウイルス性能を持つメラミン化粧版もあるようです。目印はこちら。

抗菌のエスカレータベルト

良く見ると、エスカレータベルトにフィルムが貼ってあります。

用途 手すり
抗菌加工部位 フィルムの表面層
抗菌加工方法 練り込み
抗菌剤の大分類 無機抗菌剤
抗菌剤の中分類 銀系
抗菌剤の一般名 無機抗菌剤

このフィルムも銀系の製品のようです。どれもこれも銀が活用されているようです。「抗ウイルス」とは記載されていませんでした。。。

なぜ銀が菌に強いのか?

銀には強い抗菌作用があり、銀は古くから水の腐敗防止に利用されていた」そうなのですが、なぜここまで銀が使われるのでしょうか?
さらに調べてみたところ、銀イオンや銅イオンの抗菌性一作用メ力ニズムと微生物適応戦略という専門的かつ分かりやすい資料がありました。

重金属イオンの抗菌性

大腸菌細胞を用いて重金属の抗菌性を比較したのがこの表とのこと。この資料では抗菌性が高いにもかかわらず抗菌剤として利用できない重金属が多いことを指摘しています。例えば、水銀(Hg)イオンなどは非常に高い抗菌性がありますが、同時に高い毒性もあるわけです。他にも費用面や加工性も考慮して、銀を利用することに落ち着いたのでしょうね。

さらにこの資料では、抗菌剤に対して適応能力を持つ耐性菌の出現についても指摘しています。抗菌剤と耐性菌との戦いは今後も続きます。

4. どのような抗菌建材があるのか:自然素材編

漆喰の抗菌性能

漆喰(しっくい)は、日本では1500年近くの歴史を持つ建築材料です。耐久性や防火性能の観点から、城・武家屋敷・町屋・土蔵などに利用されてきた歴史があります。天然の石灰石・骨材・すさ・のりを成分としていてVOC(揮発性有機化合物)などを含んでいないため、自然素材として関心が高まっている素材です。

この石灰石を原料とする消石灰は、水に混ぜると強いアルカリ性を示し、微生物の繁殖を抑制します。

中世ヨーロッパでは、ペストが流行した時期に消毒として家に消石灰を撒いたと言われており、消石灰の抗菌性が利用されてきた。

近年流行した高病原性鳥インフルエンザの消毒・防疫にも使用されており、ウイルスに対する迅速な有効性はフランスのパスツール研究所によっても実証されている。(漆喰の文化と化学,科学と教育,64,3より)

細菌であるペスト菌やウイルスであるインフルエンザに効果があるということは、抗菌・抗ウイルス建材と言っても良さそうですね。生石灰や消石灰のような強アルカリ性の物質は、「水害時の土壌・建物等の消毒、家畜伝染病発生時の建物・車両・器具等の消毒に用いられる(Wikipediaより)」そうです。

ヒノキやヒバの抗菌性能

植物に含まれる抗菌物質は自然由来のため、抗生物質や合成薬品に比べると、高い濃度が必要であったり即効性で劣ります。しかし、副作用や残留毒性が低いといった天然であるが故の大きな利点があります。

もともと在来木造住宅の構造体や湿気が多い浴槽にヒノキやヒバを用いてきた背景には、木材に含まれる抗菌・抗カビ物質が、木材の耐朽性に大きく寄与しているからなのです。

ヒノキ材の耐朽性は、セスキテルペンアルコールやフェノール類等に起因する。ヒノキの葉および材からの精油は、院内感染の原因となるメチシリン耐性ブドウ球菌(MRSR)に対して抗菌作用を持つ。

ヒバ材の抗菌性は、ヒノキチオールによるところが大きい。(中略)ヒノキチオールは、黄色ブドウ球菌、大腸菌、チフス菌には100ppmで効果があり、枯草菌、腸チフス菌、赤痢菌、コレラ菌、ジフテリア菌等に対しては100~500ppmで繁殖を抑える。カビに対しては、約50ppmで抗カビ性を発揮する。(木材と感性,4,におい感覚と木材 より)

木材が人に好まれるのは、単に視覚や触覚として気持ちが良いばかりではなく、自らを菌から守ってくれることを、我々は無意識にに理解しているからかもしれませんね。

5.気になる除菌・抗菌製品

除菌ウェットティッシュではどのような効果があるのか?

わざわざ抗菌建材を使わなくても、こまめに除菌ウエットティッシュで拭けば良いのではないかと考える人もいるかもしれません。除菌という言葉は広く用いられていますが、実は、どの程度の除菌効果があれば「除菌」と呼んでよいのか公的基準は無いのです。埼玉県消費生活支援センターの除菌効果の検証調査によると、

アルコールタイプ、ノンアルコールタイプのいずれの除菌ウエットティッシュも、1回の拭き取りだけで全ての細菌を除去することは困難でした。

除菌ウエットティッシュ(アルコールタイプ)が最も除菌効果がありましたが、除菌表示のないウエットティッシュや水道水を含ませたティッシュペーパーでも除菌をすることができました。

とのことです。つまり除菌するにはくり返し拭くことが大切なのですね。こまめに拭き続けるのは結構大変ですね。。。

除菌によって全ての種類の菌を除去できるわけではありません。

ということも重要です。

埼玉県消費生活支援センターの除菌効果の検証調査より引用

さらに「除菌」という言葉から「大部分の菌が除去される」と考えがちですが、いくらくりかえし拭いてもすべての菌が取り除かれるわけではないとのこと。例えば、インフルエンザウイルスやHIVはアルコールで除去できるようですが、A型肝炎ウイルスやノロウイルスはアルコールに対する抵抗力が強く除去するのは難しいそうです(健栄製薬ウェブサイトより)。ちなみに、インフルエンザウイルスの場合は、

インフルエンザウイルスが「モノ」の表面上で生存し、人への感染力があるのは2~8時間程度と言われています(米国CDCの資料より)。そのため8時間以上放置しておけば、「モノ」から感染することは通常ありません。さいたま市ウェブサイトより)

ちなみに新型コロナウイルスの場合、

エアロゾル内で最大3時間、銅の表面で最大4時間、段ボールで最大24時間、プラスチックとステンレスではおよそ2~3日残存することを確認した。(Aerosol and Surface Stability of SARS-CoV-2 as Compared with SARS-CoV-1, The New England Journal of Medicineより)

だそうです。ウイルスによっても感染力を持つ期間は異なるようですので注意が必要ですね。いずれにしても、感染の恐れがある場所に触らないことが一番ということですね。

抗菌加工製品 頑張れ!

抗菌加工製品については、我が国が国際的にも先行しており、今後も本産業を健全に成長させていくため、国内外の抗菌加工製品の市場を把握し、施策に反映させていくことが求められている。(通産省ウェブサイトより)

平成16年(2004年)の資料なのでちょっと古いですが、日本の抗菌加工製品は世界的にみても優位性がある(あった)みたいですね。今回のコロナウイルス騒動で、世界中の人たちが、抗ウイルス、抗菌について、意識が高まるかもしれません。世界的社会問題となっているコロナウイルスの拡散問題を機に、日本の製造業にはもっと頑張ってもらいたいと思いました。

6. まとめ

お恥ずかしながら、自分の中で、抗菌と抗ウイルスを混同して理解していました。製品によっては、抗菌機能とともに銀イオンの働きによって、ウイルスの活性を低下させる抗ウイルス機能も併せ持つ機能材もあるようですね。一般社団法人抗菌製品技術協議会(SIAA)サイトにて調べることができます。エスカレータベルトの場合、抗菌であることは確認が取れましたが、抗ウイルスに対してどれだけ効果があるかは検証されていませんでした。

これからの世の中、人間の敵は人間ではなく、ウイルスや細菌になるかもしれません。コロナウイルスが収まっても、別の細菌やウイルスが蔓延する可能性もあります。日本には、抗菌を売りにしている様々な建材や住設機器がありますが、これらを組み合わせて「菌に強い家」を作ることも可能でしょう。

細菌やウイルスよりも大きい「花粉」については、是非 くしゃみ・鼻水・鼻づまりから身を守る「花粉に強い家」の2つの考え方 もご覧ください。