先日、日本建築学会の英文論文集Journal of Asian Architecture and Building Engineering (JAABE) に、A Comparative Study of the Design Process in General Construction Companies and Design Firms in Japan「日本の組織設計事務所と総合工事業者設計部との設計プロセスの比較について」が掲載されました。デザインレビューによる制約条件の違いに着目し、「設計に要する時間」を定量的な比較を試みています。昨今、デザインビルド(設計施工一括方式)による発注が世界的に広まっていますが、この利点と弱点を理解しようということがきっかけです。

英文だとなかなか読んでいただけないと思ったので、要約した和訳版をブログに上げました。アトリエ的な建築設計事務所を営みつつ、東京大学生産技術研究所野城智也研究室にて特任助教をしていた時に執筆しました。この内容は、建築関係者(プロ)向けですが、是非一般の方にも興味を持っていただき「建築の設計プロセス」について理解を深めていただけると幸いです。(引用文献は英語論文を参照ください)

背景

日本には、大工による普請の長い伝統がある。従来、大工は設計と施工の両面を担ってきた。日本の発注者は、責任の一本化(single point of responsibility)を好む傾向にあり、設計施工一括/一貫方式が、発注方式として定着している。例えば、スーパーゼネコンの一つである総合工事業者A社は、2014年上半期の総売上のうち4分の3を設計施工一括/一貫方式で受注している。設計施工一括方式には、施工者主体と設計者主体の2種類が存在するが、日本では、技術力や資金力の点から施工者による設計施工一括方式が主流である。

設計施工一括方式には、利点と欠点があると言われている。利点は、設計開始から竣工までの期間の短縮化、施工性の確保、プロジェクト初期における価格確約、設計者・施工者間の情報伝達、施工期間の短縮などがある。一方で欠点は、迅速に価格を抑えるインセンティブが施工者に働くため材質や施工品質が落ちること、および、意匠設計者・構造設計者・設備設計者といった専門家が施工者の下請けとして働いているため発注者が設計内容をコントロールすることが難しいことなどがある。

設計施工一括方式の品質については、施工者と設計者の間で異なる意見がある。施工者は設計施工一括方式の方が、設計施工分離方式による設計図書の品質が高いと述べているが、設計者は正反対の意見を主張している。意匠設計者を対象とした調査によると、設計施工一括方式によって、建築物の品質とイノベーティブな設計案は低下すると認識している。2011年の東日本大震災以降、建設コストの不確定性を排除するために、設計施工一括方式は以前にも増して活用されるようになったものの、設計施工一括方式による設計プロセスの定量的評価はなされてこなかった。

目的

日本における大きく複雑な建物の設計を対象とすると、組織設計事務所と総合工事業者設計部が中心的役割を果たしている。これらの設計組織は、会社内に意匠設計者・構造設計者・設備設計者を始めとして、積算や品質管理の専門家を有し、過去のプロジェクトを通じて、膨大な経験や情報を蓄積している。組織設計事務所と総合工事業者設計部ともに、社内の専門家達によって設計案が制約条件に適合しているかが検討されるデザインレビューが、設計プロセスを通じて数回行われ、最終設計成果物となる。

設計組織によって設計成果物の評価、すなわち「制約条件」や「要求条件」に基づくデザインレビューの運用状況が異なり、設計プロセスに影響を与えていると考えられるが、その状況については十分に調査されているわけではない。本稿では、組織設計事務所と総合工事業者設計部の設計プロセスの違いを、デザインレビューの点から定量的に評価することを目的としている。

方法

設計施工一括方式および設計施工分離方式といった発注方式に関わらず、組織設計事務所と総合工事業者設計部において、設計案が制約条件に適合しているかを検討するデザインレビューが行われる。制約条件は、プロジェクトの履行やそのプロセスを、限定させる要素となる。制約条件は行政・利用者・発注者・設計者などから異なる強制力を持って課される。大きなプロジェクトでは、設計成果物を承認する関門が、設計プロセスの各段階に設定される。制約条件の重要性は多くの研究者によって指摘されてきているが、日本の建築プロジェクトを対象としてどのように制約が課されているか包括的に調査されていない。本稿では組織設計事務所と総合工事業者設計部を対象に、デザインレビューがどのように行われているかについてあきらかにした上で、デザインレビューのために用意される設計成果物の量的違いを、設計に費やした時間の点から比較分析する。

組織設計事務所と総合工事業者設計部について

本稿では、小規模設計事務所は調査の対象としていない。大きく複雑な建物を設計する場合、設計に参加する構造設計者や設備設計者などの設計専門職が社内にいないため、プロジェクトごとに業務委託する必要がある。そのため、小規模事務所の設計プロセスは、組織設計事務所や総合工事業者設計部に比較して規格化が進んでいないと思われる。大きく複雑なプロジェクトをできる限り効率的に進める上で、組織設計事務所や総合工事業者設計部での方が、設計プロセスに組み込まれたデザインレビューの手法を用いていると思われる。

本稿では、組織設計事務所内で設計を完了させる設計施工分離方式のプロジェクトか、総合工事業者設計部内で設計を完了させる設計施工一貫方式のプロジェクトを対象として比較している。ブリッジングによる設計施工一括方式のように、組織設計事務所と総合工事業者設計部の協働作業が発生する状況をあえて排除している。

組織設計事務所の2014年売上高の上位5社を調査対象とした。総合工事業者設計部としては、総合工事業者本体の2014年売上高の上位5社を調査対象とした。総合工事業者の一級建築士数は会社全体を対象としているため、設計部以外の一級建築士数も含まれる。公表されているデータが存在しないため、対面インタビューを通じて、概数を得た。

組織設計事務所売上高上位5社(2014)
総合工事業者売上高上位5社(2014)

会社組織構成の違いについて

組織設計事務所は、業務内容で大きく分類するとマネジメント部門と設計部門に分かれる。施工費概算の積算は、設計部門のコスト管理部が行う。施工スケジュールについては、設計部門の監理部が行う。どちらの部も、コストと時間についての情報は、過去携わったプロジェクト履歴情報が主となる。

組織設計事務所の標準的組織構成

一方、総合工事業者は、業務内容で大きく分類するとマネジメント部門・設計部門・施工部門・研究開発部門に分かれる。施工部門には、管理部・施工管理部・積算部・調達部がある。積算部は主として設計段階にプロジェクトに関与する。調達部は最新のコスト情報を積算部に伝える。調達部は実施設計に入るとプロジェクトへの関与が強まる。総合工事業者は研究開発部門を持ち、材料試験やコンピュータ・シミュレーションを行う。研究開発部門は、設計部門や施工部門から委託された技術的検討や、自社独自の構工法開発を行う。

総合工事業者の標準的組織構成

設計プロセスの違いについて

本稿では、日本における設計プロセスの段階は、企画段階、基本設計段階、実施設計段階の3段階に分かれるとする。組織設計事務所と総合工事業者設計部はともに、企画段階の営業用資料を発注者に提示する。プロジェクトが確約した段階で、企画・基本設計・実施設計へと進む。この設計プロセスを通じて、意匠設計者・構造設計者・設備設計者は、主として意匠・構造・設備の設計統括の下で行われるデザインレビューにて承認を得る必要がある。総合工事業者の場合、施工部門もデザインレビューに参加する。設計案は、時間・コスト・品質を制約条件として評価される。

調査によると、およそ10人から15人程度の人がデザインレビューに参加する。意匠・構造・設備の設計責任者が、意匠・構造・設備の設計統括に設計案を提示する。コスト管理/積算部や品質管理部も参加する。組織設計事務所では、設計部門のコスト管理部や品質管理部も参加する。総合工事業者では、施工部門の積算部、工事管理部、調達部も参加する。デザインレビューの関門を、意匠・構造・設備の設計責任者は切り抜ける必要がある。

総合工事業者にとって、施工契約時期は設計プロセスに大きな影響を与える。従来の設計施工分離方式では、発注者はまず設計業務委託契約を組織設計事務所と結ぶ。発注者は施工契約が締結される前であるため、設計プロセスにおいて強い影響を駆使することができる。組織設計事務所は、総合工事業者の影響を受けることなく、設計の進捗と共に顕在化する発注者の新たな要求を設計に汲むことができる。しかし、設計施工一括方式の場合、施工契約は設計プロセスが完了する前に締結される。発注者はもはや設計者と直接業務委託契約を結ぶ立場ではない。発注者は設計プロセス完了前に、品質を確保するために特別な努力を払う必要がある。一般的なデザインレビューのプロセスを以下に示す。

組織設計事務所におけるデザインレビューのプロセス
総合工事業者におけるデザインレビューのプロセス

時間について

都心に立地する一般的なオフィスや集合住宅のプロジェクトの場合、組織設計事務所と総合工事業者の両方において、おおよその施工期間については、過去の経験により比較的容易に算定される。一方、特殊な敷地条件や構造形式さらには職人確保等の点で不確定要素が高いプロジェクトの場合、組織設計事務所の場合は社外に情報を求める必要があるが、総合工事業者の場合は最新情報を社内の施工部門から得ることができる。

施工計画の情報は、設計プロセスの進捗にあわせて更新される。今回の調査により、総合工事業者の施工管理部と調達部が、特に施工時の仮設工事や建材調達などに関する情報に対する裏づけを取っていることが分かった。設計プロセスの初期から施工部門が関与することによって、設計から施工に設計図書が渡される着工時に、構工法の再選定や施工スケジュールの組直しを行う手間がなくなる。実現可能な施工計画の乏しい実施設計図書は、施工時において設計情報の修正が繰り返し必要となり、結果、施工期間を長くする上、施工品質を低下させる可能性があるため、時間という制約条件に関しては総合工事業者が有利であると考えられる。

コストについて

組織設計事務所の場合、最終的な施工費は競争に委ねられるため、コストによる制約は総合工事業者の場合に比べ弱いと言える。また、施工費が価格競争によって決定される点については発注者にも利点がある。しかし、とりわけ人件費が高騰している状況では、設計プロセスを通じて建設コストの算定が難しくなる。発注者は、設計当初は設計要求条件を明確にしていない場合も多く、設計プロセスが進み、意匠・構造・設備に関する設計情報が明確になるに従って設計要求条件が顕在化する場合も多い。コストの制約条件が低いことは、発注者の度重なる要求の変更に柔軟に対応できると言える。

一方、総合工事業者の場合、企画時に施工費の上限が設定される。実施設計時に、必要に応じて施工費が調整される場合もあるものの、施工費の上限による制約は設計プロセスに大きな影響を与える。総合工事業者の利益を確保する調達計画は、基本設計の段階から検討されるため、この段階で設計の精査が行われる。このような前工程に人材を投入することで、見積もりを確実なものにすることができるが、実施設計をコストに対する強い制約条件の下で検討する必要が発生する。

品質について

組織設計事務所と総合工事業者とも、過去のプロジェクトを前提とした設計水準(design criteria)が存在する。標準ディテールや仕様が社内で流通している。品質管理部は、特に実施設計が完了する時点で、設計図書をチェックする。この目的から、品質管理部には経験を積んだ意匠・構造・設備の設計者が所属する。

総合工事業者では、施工管理を通じて様々な構工法の情報を得ることができる。特に漏水や構造不具合といった法的責任の発生する事項については、品質管理部で取りまとめられ社内に公布される。さらに技術開発部では、技術的課題を解決すると同時に、先進的な研究や試みを行うことができる。技術開発部を持つことは、特にスーパーゼネコンとしての総合工事業者にとって強い利点である。

設計と施工の緊密な関係は、必ずしも好ましいと言えるわけではない。総合工事業者には、時として系列の専門工事業者や材料供給業者がいる。この関係によって、価格や品質を安定させることができる一方で、構工法を限定させるため設計の自由度を低下させ、創造性の発揮を妨げる。総合工事業者に所属するインタビューに応じた半数以上の意匠設計者は、施工部門からの制約によって、設計の自由度が低下し創造性の発揮を妨げられる傾向があると答えている。

定性的・定量的に計測可能な要求条件は、設計要求条件として記述可能である。しかし、主観的で感覚的な要求条件は、記述することが困難である。総合工事業者における、設計プロセス初期のコストによる制約条件は、建材や構工法に基づく品質を低下させる可能性がある。

インタビューに応じた意匠設計者全員が述べていたのは、建物種別によって、時間・コスト・品質に対して異なる優先順位があることである。例えば、工場や倉庫などは、時間やコストに対する制約が比較的高い。一方、美術館や市庁舎といった公共的建物は、定性的な品質を求められる場合も多い。品質に対して共通の指標を確立することは難しいが、時間やコストに対しては客観的に評価可能である。

総合工事業者の中には、時間やコストが重要視される生産施設に特化したチームを編成している場合がある。設計と施工を一体化してサービスを提供することにより、設計部は総合工事業者の強みを発揮することが可能となる。

設計期間の違いについて

次に、それぞれの設計段階に対する設計期間を計測し、設計プロセス全体における各設計段階の割合を算出した。調査では、各社最大4プロジェクト、意匠設計者ごとに2プロジェクトを最大とした。発注期間は、実施設計期間内に含めた。プロジェクトのサイズを1,000㎡から50,000㎡の建築プロジェクトとした。そのため、近隣合意や行政承認に長い時間を要する都市開発プロジェクトは除外した。組織設計事務所からは、12人に対するインタビューから16件のプロジェクト事例を入手した。総合工事業者からは、8人に対するインタビューと3人の電子メールによる質疑から16件のプロジェクト事例を入手した。

組織設計事務所によるプロジェクト
総合工事業者設計部によるプロジェクト

組織設計事務所と総合工事業者による、それぞれの設計段階に対する設計期間を比較した。より多くの設計図書が必要となる場合、それだけ設計図書作成期間が長くなる。は、組織設計事務所の方が設計プロセス後半に時間をつかい、総合工事業者の方がフロントローディングの設計プロセスであることを示している。

組織設計事務所と総合工事業者設計部における設計期間の比較

組織設計事務所では、設計プロセス後半に行くに従って、設計に要する時間は急激に増加する。実施設計期間は基本設計期間のおよそ1.5倍の時間を要する。実施設計図書は、施工者選定のための競争入札に用いられ、設計者と施工者の役割・責任は明確に切り分けられる。組織設計事務所による実施設計図書は、総合工事業者設計部による実施設計図書に比べてより詳細に記載されているとの指摘もあった。総合工事業者は、設計者と施工者の役割・責任の境界を明確にする必要性が薄いためと考えられる。

一方、総合工事業者では、基本設計において2回目の概算見積と1回目の調達計画が行われる。意匠・構造・設備設計者は、コスト算定の前提となる設計図書や関連資料を準備するために多大な時間と労力を要する。基本設計時のコスト算定のために設計図書の倍程度の分量の関連資料を作成する必要があるとの指摘もあった。これらの資料は積算部や調達部に伝達され、専門工事業者や材料供給業者に対する見積依頼に用いられる。図は、インタビューにて確認した基本設計時に、制約条件の細かいデザインレビューと設計図書の修正が行われることを裏付けている。実施設計は、あくまでも会社内の施工部門に伝達するための設計図書となる。

設計面積の違いについて

設計期間の違いは、建物種別に依存する可能性もある。今回の調査では、学校のプロジェクトが最も多かったため、建物種別を学校に特定してより詳細な比較を試みる。設計プロセスにおいて、設計者はデザインレビューを前提に設計成果物を作成するが、調査したプロジェクトに対して設計成果物を全て確認することは困難であるので、一か月あたりの平均設計面積を算出した。

組織設計事務所からは6件の学校プロジェクト事例を抽出した(表3-12)。企画段階では平均6,320㎡/月、基本設計段階では、平均3,095㎡/月、実施設計では平均2,798㎡/月 設計されていることが分かる。

組織設計事務所による一か月あたりの平均設計面積

総合工事業者からは6件のプロジェクト事例を抽出した。企画段階では平均4,779㎡/月、基本設計段階では、平均2,623㎡/月、実施設計では平均1,983㎡/月 設計されていることが分かる。

総合工事業者設計部による一か月あたりの平均設計面積

これらの比較してみると、組織設計事務所の方が、総合工事業者設計部よりも、一か月当たりの平均設計面積が大きいことがわかる。組織設計事務所と総合工事業者設計部どちらも、同程度の効率化や生産性向上を達成しているとするならば、総合工事業者設計部の方が、組織設計事務所よりも単位時間当たりの設計面積が少なく、結果、より詳細な設計成果物を作成していると考えられる。このことは、総合工事業者設計部の方が、時間やコストの制約条件が高く、見積りや施工確認のための補助資料作成を行っていることの裏付けとなっている。このように時間やコストに関する検証が進められている分、施工段階での調整がスムーズに進められると予想される。

組織設計事務所と総合工事業者設計部における
一か月あたりの平均設計面積の比較

まとめ

本稿では、日本の組織設計事務所と総合工事業者設計部の設計プロセスの違いについて調査した。デザインレビューにおける制約条件は、設計プロセスに影響を与えていると言える。得られた知見は以下の通りである

<組織設計事務所の設計プロセスの特徴>
-設計プロセスの後半、特に実施設計段階で時間を費やす傾向がある。
-時間やコストに対する制約が緩い
-設計段階で発生する発注者の要求に柔軟に対応することが可能である。

<総合工事業者設計部の設計プロセスの特徴>
-フロントローディングの設計プロセスであり、制約条件を設計プロセス初期に明確にする。
-施工部門の積算部と調達部のデザインレビュー参加により、時間とコストに対する制約条件が厳しい。
-設計図書や関連資料作成に力を入れることにより、企画段階においても、発注者に対して時間とコストの確約をすることができる。

実施設計の設計情報は、生産設計における施工図作成時に、さらに変更される。設計者・施工者の役割・責任があいまいな状態となる生産設計については今後の課題となる。時間とコストは客観的に評価することができるが、品質を客観的に評価することは困難である。特に定性的な品質の評価については、さらなる調査が必要となる。

現在私自身は、組織設計事務所および総合工事業者設計部に所属するのではなく、アトリエ建築設計事務所を営んでいます。一歩引いた状態で俯瞰して調査したつもりです。

最後まで読んでいただいた方、どうもありがとうございました。