TV局の取材を受けました。NHK 美の壺スペシャル「日本の避暑地」にて、「Breeze of Mt. Fuji / 河口湖の別荘」が取り上げられたのです。今回のブログでは、取材について感じたことや分かったことを備忘録的に書いていきます。NHKオンデマンドで視聴可能とのことですので、興味のある方は是非ご覧ください。

取材依頼の話は突然に

5月のある日のこと、製作会社の方から「「絶景を楽しむための別荘建築の工夫」というテーマで話を展開できないかと考えており「河口湖の別荘」プロジェクトを取り上げることを検討しています」というメールが送られてきました。以前「設計事務所側が広告料を支払って雑誌等に掲載する取材に興味ありますか?」といった勧誘が来たことがあるのですが、どうやら違うようです。後に続く文面から、プロジェクトについてホームページに書いた内容も、ちゃんと読んでいただいているようです。

普段私は、ニュース以外のTVをほとんど見ない生活をしています。そもそも小学生の時からTVを見る習慣がないのです。NHKの番組の取材と言うからには、NHKの方が取材をされるのかと思っていたのですが、実は、製作会社の方が取材しているということを初めて知りました。連絡をしていただいたのは、50年以上の歴史をもつ経験豊かな総合映像制作会社である株式会社グループ現代 ディレクターのHさん。

後日伺った話によると、美の壺「“空間の魔術師”フランク・ロイド・ライト」(2017年06月23日(金)放送)の製作を行った際、50年前にオリジナルの帝国ホテルを撮影した貴重なアーカイブ資料が保存されている会社とのこと。どうやら怪しい話ではなさそうです。

NHK「美の壺」は、NHKが2006年4月7日に放送を開始した教養番組(美術評論番組)(wikipediaより)です。NHK BSプレミアムや、NHKワールドプレミアム(国際放送)でも放映されているそうです。Hさんの話によると、「美の壺」には、数社の製作会社が番組を作成・供給しているそうです。グループ現代は、その数社ある製作会社の一つです。

NHKと取引のある知人に後から聞いたところ、「美の壺」は売り込みを一切受け付けていないとのことでした。純粋に製作側が選定するので、もし連絡がきたのならばとてもラッキーなことなのだと聞き、まずはHさんとの話を続けることにしました。

まずは現地視察

富士山の世界遺産登録によって、特に海外からの観光客が増えている富士山および河口湖エリア。夏の避暑地のイメージがありますが、実は、

夏の富士山は曇りがちで見えないことが多い

ということはあまり知られていません。実は、河口湖越しに富士山が美しく見えるのは、湿度が高く曇りがちな夏ではなく、晴れて空気の澄んだ冬なのです。山頂が雪に覆われたおなじみの富士山は、冬に撮影された景色なのです。

冬の富士山
夏の富士山(雲に隠れて見えない)

取材の連絡をいただいたのが、5月の初旬だったのですが、6月には梅雨に入り、以降晴れた富士山を撮影することが難しくなるため、急いで行動することが必要となります。また予定撮影日が7月19日とのことで、そうそうのんびりもしていられません。設計事務所にて打ち合わせを行い、同時並行で施主に取材のご承認をいただき、5月中旬には、現地下見に行くことになりました。

Hさんは、現地を見ながらどのようなストーリーに仕上げていくか、またそのためにはどのように取材・撮影を進めていくのがよいのか、現地で検討を重ねます。映像をイメージしながら組み立てていく、という彼の手法を目の当たりにして、とても発想が豊かなのだなぁ、と感じました。

当日の天候はあいにくの曇り。建物外観がどのように見えるかについても、一緒に確認しました。撮影日には、現地にて施主のインタビューを行いたいとのことで、施主のIさんにもお伺いし、了解を得ながら日程調整を行いました。

湖畔より別荘を眺める

撮影当日の午前中

撮影は朝6時から行われました。撮影クルーの方々との顔合わせです。ディレクターとして演出を行うHさんの他に、撮影のNさん、音声のMさん、照明のKさんの息の合ったチームです。

ラッキーなことに、撮影当日の朝は、下見の時とはうって変わって快晴でした。まずは、庭から見える富士山と河口湖に映った逆さ富士を撮影します。遠くからはウグイスの声が聞こえてきます。東京からわざわざ来てよかったと思える瞬間です。

次に、主寝室からの撮影です。限られた広さの部屋で、撮影機器を取り回します。長く伸びたアームの先には重りが取り付けられ、カメラがスムーズに上下に動かして撮影できるようにします。

玄関から入ると、ロビーの窓から富士山が出迎えます。リビングへの扉を開けると、大型引き戸から庭越しの富士山が目に入ります。この一連の流れは、撮影機材を単管のレールの上をゆっくり進めることで撮影していきます。

玄関からカメラを招き入れるシーンでは、望まない光が入らないように、黒い布で覆って撮影が進みます。

建物の撮影がひと段落すると、次にインタビューに入ります。カメラが目の前にあるとなかなか自然体になれませんが、同時に思ったほど緊張もしませんでした。重たい引戸を開ける実演もしました。LEDの強い照明をあてられて、TVに出ている方々は、皆このようなまぶしい思いをしているのかと思いました。何度かかんでしまったり、説明がくどくなったりしましたが、後で編集でまとめていただけるとのことで、安心して何度も説明を試みます。こうしていったん午前の撮影が終了しました。

撮影当日の午後

午後には施主のIさんも到着され、インタビューが進行します。「建て替える際にどんな建物になれば良いと考えたか、実際に別荘で過ごしてみての感想、どの部屋から見える富士がお気に入りか、富士を望むことができるこの場所への思い入れ」など、さまざまな制作側の質問に対して、施主は適切に答えていかれます。あまりに上手く受け答えされているので驚いたのですが、後から伺ったところによると、放送関係のお仕事もされていたとのこと。施主に対して私の知らない一面を知る良い機会となりました。

施主単独インタビューとともに、施主と私が会話している状況の撮影が進みます。撮影クルーが周りにいるにせよ、設計した建物の中で、建物についてこうして落ち着いてお話しするのは初めてでした。施主の思いや感想を伺うとても貴重な経験となりました。

設計にあたり「富士山の絶景」をどのように捉えたか?

別荘を設計する上で「富士山の絶景」をどのように捉えたかが、Hさんのもともとの疑問でした。自分でも整理して言語化したことが無かったため、今回落ち着いて考えなおす良い機会となりました。

もともと施主のIさんからは「どの部屋からも富士山の景色を楽しむことができること」をご要望として伺っていました。また、施主はご自身が小さい時からこの地に足を運ばれ、富士山の景色や河口湖からのそよ風とともに楽しんできた経緯があります。施主にとっては、富士山の景色は生まれて初めて見る特別な景色なのではなく、昔から慣れ親しんだ景色だったわけです。

設計を進めるうちに、実はここは「静的に富士山を眺めるのではなく、動的に富士山を眺めるための別荘」であるのだと考えるに至りました。一般的に、景色を眺めるためのホテルのロビーにはFIXの巨大な窓が設置されています。空調の効いたロビーからソファに腰掛けながら美しい景色を絵画のように鑑賞するようなしつらえです。これを「静的」に富士山を眺めると捉えましょう。

一方、こちらの別荘の建具は全て、引戸か縦滑り出し戸となっています。特にリビングにはビル用の大型引戸が設置されています。このようにFIX窓ではなく、引戸か縦滑り出し戸にすることによって、縦桟(たてざん)が出てきますが、これは「静的」に富士山を眺めるためには、せっかくの景色を台無しにする要素とも考えられます。一枚の写真を眺めるように「静的に」富士山の絶景を楽しむのであれば、縦桟が無い方が、より美しく鑑賞できるでしょう。

しかし、昔から生活の一部として富士山の景色を楽しんできた施主にとってはどうでしょうか?休暇を楽しみに来た別荘に滞在される間、どれだけの時間リビングにただ座って静かに富士山を眺められるのでしょうか。東京では得られない清涼な空気や環境のもと、河口湖からのそよ風を開け放った窓から感じつつ、自ら動きながら、ふとした瞬間に目に留まる富士山の存在を間近に、五感で存分に味わう。そんな風に、移り変わる富士山と河口湖を五感で楽しむことができるなんて、とても贅沢なことではないでしょうか。

撮影クルーの方々

撮影機材は4K対応です。あいにく家の録画機は4K対応どころかBlu-ray対応以前のDVD録画機ですので、その効果を感じられないのが残念です。あれだけ高精度の美しい画像が、この大きさのカメラで撮影可能だと知って驚きました。

また、録画中に床や壁に傷をつけないように細心の注意が払われていました。照明機材の脚に取り付けられたこのテニスボールのアイデアには感心しました。

建築の設計は分業で進みます。意匠設計者のみならず、構造設計者や設備設計者、さらに多くのコンサルタントと協働して設計を進めていきます。今回の撮影も、同じように分業で進んでいきました。ディレクターのHさんが、撮影場所ごとに撮影方針を伝えますが、チーム全体で協議が行われます。特に、撮影のNさんはカメラマンの立場から、撮影可能な映像を前提として内容の提案を積極的に行っているのが印象的でした。

いつもだいたいこのチームで撮影されているとのことで、傍目からも風通しがよく意見が言い合える良いチームなのだなと感じました。最後にお願いして記念撮影を行いました。

結局、現地では8時間程度撮影に要しました。また、後日2時間ほど、東京の当事務所でも撮影を行いました。これだけの時間と労力を要して撮影を行いながら、放映時間はおよそ3~4分程度でした。建築の設計でも、実際に竣工するまで大変な時間と労力を使うのですが、映像撮影も同様に長い時間を使うことがあるのだと知りました。

ものづくりには、それ相当の時間と労力がかかります。今後、TVや映画を見るときには、出来上がった作品だけでなく、その製作プロセスと携わる人々の労力に、これまでより敬意を払ってみるような気がします。

放映を見て

長時間の撮影では、様々な角度からインタビューがなされ、多くのシーンが撮影されました。3~4分間に凝縮された映像では、いくつかの説明が追加され、いくつかの説明が省かれました。

玄関からの導入シーンでは、

玄関を入ると、まず正面に小さめの窓が一つ。

見えてきました。

縦長の窓枠で切り取った富士を掛け軸のように味わいます。

(番組ナレーションより引用)

この正面の窓を「掛け軸」として考えたことは一度もなかったのですが、ナレーションを聞いて、あらためて再発見できました。

一方、放映されなかった「近景・中景・遠景」についての話がありました。以前AMANリゾートの設計に携わったときに、「人は美しい遠景だけだと飽きる。遠景・中景・近景がバランスよく配置されているのが良い。」という話題があり納得したのを覚えています。あいにくこのプロジェクトは実現しませんでしたが。。。

この別荘では、遠景としての富士山、中景としての河口湖が既に用意されています。さらに近景として、庭でたたずむ家族や友人の姿と、建物の一部と合わせて用意することで、施主だけの特別な景色をつくることができると考えました。

実際の放映では、

生活のいろんな部分から眺めることができる

富士山がさりげなくそこに 当たり前のようにあるという ぜいたく感

(番組ナレーションより引用)

ということが着目されていたので、そこが製作者にとって重要だったということが確認できました。とても有意義な経験でした。施主のIさん、製作者の皆様、ありがとうございました。

Breeze of Mt. Fuji / 河口湖の別荘のプロジェクト説明は、リンクをクリック)