6月17日に大阪北部で大きな地震がありました。
このような時、改めて自分や家族の安全について、確認しておきたいと思われた方も多いと思います。
地震が起きたら、その時のどうやって帰ってくるのか、家族の集合場所は、などの取り決めをされている家庭も多くあります。しかし、果たしてそれが十分なのか、という不安は常につきまといます。
特に日本では、諸外国と異なり、小学生から保護者の送迎を受けずに、こどもだけで登下校をすることも一般的です。
その時に災害が起きたら。地震に遭ったら。
学校にいれば、先生という大人の指示のもとに安全を確保することが可能ですが、こどもがグループで、またはひとりで登下校している最中に大きな揺れに遭遇したら?どうやって自分の安全を最大限に確保して、家に戻ってこられるのでしょうか。
災害弱者としてのこどもたちに対しては、普段から学校での度重なる避難訓練や災害時の保護者の引き取り訓練などの取り組みがなされています。その都度、学校からのおたよりには「この機会にご家庭で通学経路の安全を確認してください」などという一文が添えられてきます。
「安全を確認する」ということはつまり、「危険を認識して、避ける」ということにほかなりません。
ではその「通学経路の安全を脅かす危険」とは、具体的にはどのようなことを指すのでしょうか。防災や建築の専門家でない私たちには、なかなか明確な指針がなく、それこそ「〇〇には気を付ける」という、一般的なおはなしになりがちです。でもそれではこどもに理解しやすいかたちで伝えることが難しい。
実際に場所を確認しながら、「このブロック塀は高すぎるから危険だよ」「この家はもう傾いていて、いまにも倒れそうだから、普段から反対側を歩いてね」などと、具体的に、理由を説明しながら危険性について伝えたい。それをこども自身で活かせるように覚えておいてほしい。
危ない建物の見分け方を覚えて身の回りの危険に対しての感受性を高めること。
そして、通学されるお子さんと一緒に歩きながら確認するなどして、いざという時に備えましょう。
今回はそれらの「通学経路の危険」の中でも、建物を中心に5つのチェックポイントと3つの対策について述べていきます。
どのような建物が危険なのか、避けるべき点はどこなのか。海沿いに住むこども達へ「津波てんでんこ」に代表される防災教育が為されていたように、地震国日本で育つこどもたちに必要な知識を伝えられるようになることが大切です(もちろん大人が自分自身の身を守るためにも、必要な知識です)。
5つのチェックポイント
1)ブロック塀
2)石垣
3)ガラス
4)建物の外壁
5)狭い路地
ではここからは1つずつみていきましょう。
1)ブロック塀
大阪で9歳の小学生が倒れてきたブロック塀の下敷きになり亡くなるといういたましい事件がありました。
建築基準法では、ブロック塀の耐震基準が決められています。1981年と2000年に強化されており、ブロック塀の高さを原則、地盤面から2.2mまでと定めています。さらに壁体内に一定間隔で一定サイズ以上の鉄筋を入れたり、鉄筋同士を重ねて結束することも求めらています。しかし、現行の基準に適合しない既存不適格のブロック塀が、数多く放置されているのが現状です。
高槻市によると、ブロック塀の基礎部分は高さ約1.9m。その上に設置された高さ約1・6mのブロック塀を足すと約3.5mとなり、前述の2.2m以下、という基準を満たしていなかったことになります。また、同じように定められている「控え壁」も、設置されていませんでした。補強されていないブロック塀の危険性の認知度が、かなり上がったと思われます。
震災時のブロック塀の危険性が広く認識されたのは、1978年の宮城県沖地震でした。以降危険性が指摘されながら、その周知が徹底されていたとは言い難いです。実は、国土交通省も6月21日付で「建築物の既設の塀の安全点検について」という注意喚起情報をアップしています。
では崩れてしまったブロック塀のように、現在運用されている建築基準法による耐震基準を順守していないケースは特殊なのでしょうか。
近所を歩き回って、危なそうな場所をいろいろと探してきました。
まずは、塀がどのような素材からできているかを判別する必要があります。というのは、一見してブロック塀とわからない塀もあるからです。
一見して、ブロック塀には見えません。しかし、裏側に回ってみると、
吹付塗装にひびが入っているからと言って、必ずしも躯体となるブロック塀にひびが入っているとは限りません。しかし、塗装のヒビ割れから水が浸透し、鉄筋に至っている可能性もあります。下の写真では、壁の背後がどのようになっているかよくわかりませんが、ブロックとブロックの間にあるモルタルひび割れから、水が回り込んでいることが予測されます。仮に鉄筋が入っていたとしても、錆びてボロボロになっていた場合は、構造的な引張力も機能しません。
2)石垣
ブロック塀「だけ」が危ないわけでは、もちろんありません。
一見頑丈そうに見える石造りの壁も、実は危ないことがあります。
特に昔は多く見られた大谷石の石垣は、長年の風化によってボロボロになり、強度が弱まってきている可能性があります。
敷地内の状況はよくわかりませんが、特に補強などはないのではないかと思われます。ただ積んであるだけであれば、大きな地震の際はひとたまりもありません。
また、塀と一体で敷地まわりの基礎部分に使われている場合もあります。ボロボロになった大谷石の裏側がどのようになっているのかよくわかりませんが、かなり危険な感じがしますね。
3)ガラス
ガラスは割れます。割れたガラスが高所から落ちてくる場合があります。強化ガラスのように破壊時にあえて粉々になるガラスは、実はかえって安全だと言われています。しかし、一般的に使われている板ガラス(フロートガラス)が大きな塊となって落ちてきたら、かなり危険です。
このような、全面ガラス張りの店舗は、お店としては自然光が差し込み、明るくとても居心地の良いものです。しかし、災害時には、ゆがんだフレームからずれたガラスが、さらなる揺れによって加わった力によって割り崩され、飛び散ることも予想されます(保護フィルムを貼ってある場合はそれほどではないにしても)。またそのかけらによって露出している皮膚を切ってしまったりすることも考えられます。ですので、出来るだけ遠く(この場合は道路側)を歩くことを意識するとよいでしょう。
1970年代に、三菱重工業本社ビルで爆弾テロが発生したのを覚えている方はいらっしゃるでしょうか。爆風のみならず、爆発の衝撃によって割れたビルの窓ガラスが降り注ぎ、沢山の死傷者が出ました。
このような大きな開口部にガラスが用いられている建物の周りを歩く時は、「ガラスは割れて、落ちてくる」ことを前提に、上にも目を向けて、とっさに避けられるような距離を取ることを心がける必要があります。
4)建物の外壁
日本中で空き家が問題となっています。長年、維持管理されずに放置されてきた家屋の中には、すでに傾いている家もあります。右の建物が傾いているのが分かりますか?
その他にも、外壁のモルタルが剥離している場合もあります。
錆びたバルコニーもあります。
地震時に、このような建物の外壁が崩れてきて、頭に当たったら、重傷を負うでしょう。
4)狭い路地
今まで指摘してきたように、様々な建物の要素が、通学路に落ちてくる可能性があります。その場合、「危険な場所から離れること」が最も重要です。しかし、狭い路地では、逃げ場がありません。塀や建物外壁が崩れてくる可能性と共に、切れた電線や、屋根の瓦などからも身を守る必要があります。
これまで、危ない建物や建造物をみてきましたが、そこで浮かんでくる疑問があります。
危険なものを知っているだけでは、安全な方を選ぶということにはならないこともあるでしょう。
安全なものが何か、を知っておくことでくこととっさの選択がよりスムーズに行えるかもしれません。
もちろん、災害時にはどんなことでも起こりうる、と考えると、安全だと言い切ることは決して出来ません。ですから、ここでは「どちらかとえいば」「選ぶならば」「よりましな方」という限定的なニュアンスで、「(比較的)安全」という言葉を用いていることをご承知おきください。
3つの対策
1)生け垣
2)メタルフェンス
3)法令を遵守した「壁」
1)生垣
生垣はコンクリートよりも軽いため、仮に倒れてきたとしても、被害は軽度で済みます。実際、地震によって塀に作用する力は、質量が重い塀よりも軽い塀の方が小さいと言えることからも、生垣の優位性は高いです。さらに、街並みをつくる視覚的にも、望まれる選択肢の一つです。
2)メタルフェンス
このようなメタルフェンスは、一昔前よりも頻繁に見かけるようになったと思います。質量が軽く地震に対して優位であると同時に、設置する人からしても、生垣と比べてメンテナンスコストがかかりません。難点と言えば、視線が通ってしまうことです。プライバシーが気になる場合は、板状の金属性フェンスもあります。
3)法令を遵守した「壁」
今回の事故で、ブロック塀は全て危険だと見なされるかもしれません。しかし法令を遵守して適切に建設されたブロック塀は、安全(危険度がかなり低い)と考えられます。因みに、このように一見高く閉鎖的に見えるブロック塀も、
逆側に回ると、(一番上部までではありませんが)控え壁が施工されています。コンクリートブロックの内部の配筋までは確認できませんが、控え壁が無いよりははるかに安全と言えるでしょう。
ちなみに、コンクリートブロックではなく、鉄筋コンクリート組立塀/万代塀と呼ばれる塀にも、控え壁が存在します。倒れないように支えることは、どの壁にとっても重要です。
因みに、工事現場の仮囲いとして物々しい金属の壁がつくられます。大きい壁ですので見た目としては危険に感じますが、仮設の壁として構造計算されていて、敷地内に鉄管の支持材が組まれているので「適切に施工されていれば」安全と言えるでしょう。
おまけ
事例になりそうな建造物を求めて歩いてみてわかったことのひとつに「人は壁と道路があったら、壁沿いを歩きがちである」ということがありました。
実は私も「車がガードレールを突き破って自分に突っ込んでくる」ということの方が「地震で壁が崩れる」ことよりも可能性が高そうに思えるため、どちらかといえば壁側と歩き、道路際を歩くのをついつい躊躇してしました。このように古くて巨大な擁壁の安全性について、どこまで確認されているか、私自身よくわかりません。
震災時は、建物や建造物の倒壊によって死傷者が多く出ることが知られています。そう思うと、地震が起きた時には壁側よりも、道路側の方が安全だったかも?というかんがえを頭の隅に置いておくことも必要になってきます。
まとめ
1)ブロック塀にはちかよらない
2)石垣にも近寄らない
3)ガラスは割れる
4)古くてくずれそうな建物の外壁に注意する
5)狭い路地ではなく大きい道を選ぶ
繰り返しになりますが、比較的安全とされているものによっても、想像を上回るような状況によって被害が発生することもあります。災害に対して準備をするということは、「こうだったらいいな」という希望的観測ではなく、絶望的観測、いわゆる「最悪のシナリオ」に沿って行動するということでもあります。
それでも、平時にあらかじめ確認し、共有しておくことによってこどもの防災に対する意識を高めることは、災害に対するレジリエンス(ここでは状況への柔軟な対応・適応力のような意味で)を高める教育の一環として、世界的にも推奨・推進されています。このブログを参考にして、お子さんの通学路やご自身の通勤経路を確かめながら、歩いてみてください。そして、災害時に、大人もこどもも「そういえば」と思い出せる可能性を、少しでも高められるように。
さいごに
これらの情報は、日常において徒に恐怖心を煽ったり、常に何かが起こる危険性と隣り合わせだということをリマインドしながら不安の中で生きよ、ということを指してはいません。こどもたちに災害についてどのように伝えていくか、また起きてしまった災害や事件についてどう伝えていけばよいのかについては、国内外で様々な研究や取り組みがなされています。また調べてから、このblogでお伝えしていきます。
危険!あなたのまわりの「万年塀」について と 必読!一目で分かる「危ないコンクリートブロック塀」の見分け方 (追記あり) もご覧ください。