世界経済フォーラム(World Economic Forum)は2018年12月に、各国のジェンダーの不平等状況を報告書 The GlobalGender Gap Report 2018 としてまとめました。経済機会・教育・健康・政治参加といった4項目からなる指標で評価された「ジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)」によると、北欧諸国は軒並みジェンダー格差がすくなく、日本は大変大きいという結果になりました(太字は北欧諸国)。

  1. アイスランド
  2. ノルウェー
  3. スウェーデン
  4. フィンランド
  5. ニカラグア
  6. ルワンダ
  7. ニュージーランド
  8. フィリピン
  9. アイルランド
  10. ナミビア
  11. スロベニア
  12. フランス
  13. デンマーク
  14. ドイツ
  15. 英国

で日本は、調査対象となった149か国中110位でした。抜本的な対策が必要ですね。。。。

 

北欧は建築や家具のデザインが洗練されていることで知られています。もともと北欧で暮らす人のために設計・製造されていたそれらの優れたデザインの品々は、国を超えて評価されるようになり世界的に広まった経緯があります。そのため、北欧の建築や家具のデザインを考えるには、そのモノとしての評価のみならず、背景となったその土地での人々の暮らし方も合わせて分析していく必要があります。

ざっくりと言うと、北欧は「税金が高いもののその分社会保障が手厚くすることで、格差を減らし各個人が平等である社会」を目指しています。いわゆる「高福祉・高負担」の社会システムですね。良いサービスを受けるためには相応の負担が必要であること、国民全体で負担し互いに支え合うことについて、右派左派の程度の差はあれ、国民全体である程度の価値観が共有されている結果といえるでしょう。

この「格差をへらす」いいかえると「年齢や性別にかかわらず人は平等に扱われるべきである」という考え方は、バリアフリーやジェンダーフリーの建築空間の実現へとつながっていきます。今回のブログでは、北欧3か国(フィンランド・デンマーク・スウェーデン)での日本よりも進んだユニセックス(ジェンダー・インクルーシブ)の公衆トイレについて書きたいと思います。(ちなみに今回の北欧出張における調査対象は、トイレではなく、BIM化や設計分業体制についてです。念のため。。。)

ユニセックスの公衆トイレとは

ユニセックスの公衆トイレという用語は、ジェンダー・インクルーシブ、ジェンダー・ニュートラル、ミクスト・セックスまたはオールジェンダーのトイレとも呼ばれ、性別に関係なく利用できる公衆トイレのことを指します。ユニセックスの公衆トイレは、障害のある人、高齢者、他の性別や性別の誰かの助けを必要とする人など、特別なニーズのある人とない人の両方に利益をもたらすと言われています。(Wiki: Unisex Public Toilet筆者訳)

日本の公衆トイレでは、男は青で女は赤という既成概念で区別されることが一般的でしょう。ちなみに新しい商業施設内のトイレでは、あえてサインをモノクロする場合もあります。しかし、単に案内表示の色を同色にしただけでは、ジェンダーフリー思想の実現には至っていないため、ユニセックストイレ(男女共用トイレ)ではないので注意が必要です。

青は男 赤は女を示す 日本では一般的なトイレ

フィンランドでは

ヘルシンキ・ヴァンター国際空港では
到着したヘルシンキ・ヴァンター国際空港のコンコースです。白い御影石の床に、薄い色の木パネルと、金属パネルの天井の構成でした。ベンチの色彩も黒色で抑えられています。
床材として御影石を使用しているところ、壁材として適度に色のばらつきがある自然な風合いの木パネルを使用しているところに、フィンランドらしい洗練された雰囲気を感じます。塩ビシートや塩ビクロスで床や壁を構成している日本の空港とは大きな違いです。

ユニセックスのトイレが実現されているわけではありませんでしたが、サインはこのように紺色の磁器質タイルの上に、金属プレートにモノトーンで示されています。
これらの事例では、水色のバックプリントされたガラスに、白い男女のサインが描かれています。どちらのトイレも、男女のブースに分かれる直前に、だれでもトイレが設置されている平面計画になっていました。

この事例でも、男女のサインは同じ青色の同色です。男女エリアに分かれる中央に、だれでもトイレが設置されています。コンコース上の看板と、壁面に印刷されたサインとのデザインの整合性が美しいです。

フィンランドでは、様々なサインに青色または水色が多用されていました。現地でよくとれる薄い白木の色とよく合うからでしょうか。日本へのフィンランド産の輸入木材について調べてみると、

フィンランド産の輸入木材の樹種別輸入量の推移(林野庁ホームページより)

となっていることから、樹種別(品目別)にみるとフィンランド産の木材は、ほとんどがマツ・モミ・トウヒ属であることがわかります。この木パネルでも、こうした針葉樹が活用されているのでしょう。

大学(Metropolia University of Applied Science)では

フィンランド郊外にあるMetropolia University of Applied Science (Metropolia Ammattikorkeakoulu – Myllypuron kampus) を訪問しました。もともと都心にある大学が設置する、郊外型の新キャンパスです。

まだ外構は工事中で、新築の校舎であることがわかります。こうした新しい施設では、ユニセックスのトイレの試みがなされていました。

これは、壁面に掲示されていたフロアマップの拡大図です。もともと男女別エリアとして計画されていたからでしょうか、同じ構成をした男女兼用ブースが2か所並んでいます。

トイレへと誘導するサインはシンプルですっきりとしています。

広い共用空間を介して、各トイレブースにアクセスします。各ブースには鏡や洗面台が備え付けてあります。

各トイレブースの扉には、このようなサインが描かれています。男女兼用であることが明示されており、明らかにユニセックス・トイレとなっています。北欧に調査旅行に来てから初めての事例でした。

新しい大学施設のため、ユニセックス・トイレが実現できたのだと思いますが、一方で、男女兼用エリアが2か所準備されていることを考えると、設計段階の途中で変更があったのかもしれません。。。

デンマークにて

コペンハーゲン空港

出国手続きエリアにあったレゴ製の職員

コペンハーゲン空港に着いたとき印象的だったのは、素材の違いです。床材は、白い御影石の部分もあれば、濃い赤茶系の床の部分もありました。

帰国後ネットで調べてみると、これらの床材は、ジャトバ、メルバウ、パダックといった南アジア材・アフリカ材でした(WoodFloorBusinessウェブサイトより)。濃い木材の色とステンレス製の手すりや金物との組み合わせが大変美しいです。

フィンランドでは、国産の木材を多用していましたが、デンマークでは、ヴァイキング時代の海運交易の名残がこのような形で表れているのかもしれませんね。。。

トイレは面白いところにありました。コンコース内の待合エリアと歩く歩道のエリアの中間に、建物と独立する状態で、紺色の建物が設置されています。

待合エリアから見るトイレのサインです。このトイレも男女兼用でした。コンコース内に大規模なトイレを集約させているのではなく、小規模なトイレを分散設置させています。

紺色の建物には2か所トイレブースがあったのですが、男女が一列に並び、順番にトイレに入っていきました。他事例同様、洗面台は各トイレブースの中に設置されていました。

Danish Design Center にて

デンマーク・デザイン・センター(Dansk Design Center)
はBLOXという川沿いのエリアにあります。2018年5月に移設・開館しました。設計はOMAです。

この建物では企画展示を適宜行っているのですが、地下1階の受付脇のミュージアムショップに併設されたところにメインのトイレエリアがありました。

シンプルなサインの描かれた扉を開けると

モノトーンの巨大な待合スペースが広がっていました。このエリアでは、この一か所の共同トイレエリアのみがありました。

片側には洗面台が続きます。一方反対側には様々なトイレブースが続きます。

各トイレブースは男性・女性の区別はあるようでしたが、サイン上のその差異はとても小さく、よく見ないと男性用ブースなのか女性用ブースなのか分からない状態です。誤って異なるブースに入っても、咎める人もいないでしょう。

車いす用やおむつ交換台用のトイレブース用のピクトグラムも洗練されていました。

スウェーデンにて

ストックホルム・アーランダ空港では
スウェーデンのストックホルム・アーランダ空港も、デンマーク同様、木材のフローリングが床材でした。スウェーデンに多く見られた黒と白を基調としたモノトーンの家具が映えます。
性別ごとに左右に振り分けられてトイレが設置されています。サインはモノトーンとなっており、特にユニセックス・トイレ化は進んでいないようです。

ヴァーサ号博物館では

ヴァーサ号は1628年、処女航海に出ましたが、ストックホルム港で転覆し、沈没しました。その333年後、海底に沈んでいた、この強大な軍艦は引き上げられ、人々の前にその姿が現れたのでした。今日では、ヴァーサ号は世界で最も美しく保存されている17世紀の船であり、ストックホルムの特設博物館で見学することができます。ヴァーサ号は他に類をみないユニークな芸術の宝です。船体には、98パーセント原型を留めたまま残され、何百もの彫刻が施されています。(ヴァーサ号博物館ウェブサイトより)

巨大な軍艦がこの博物館の目玉ですが、そこのトイレではユニセックス化がすすんでいました。

以前は男性用と女性用として用意されていたのでしょうか、今では男女共用のサインが両方のトイレエリアに貼られています。

人がいないときに撮影しました。中に入ると、片側には洗面台が、反対側にはトイレブースが並んでいます。小便器の存在はありません。

外で立ち止まって状況を確認していました。ちょっと戸惑っている方々もいたようですが、同性が出入りするのを見計らって各トイレエリアに入っている印象です。

Liljewall Architects

オフィスの風景
ミーティングスペースには卓球台も設置

今回、学術調査で北欧3か国を訪れました。調査対象はトイレではなく、BIM化や設計分業体制についてであり、多くの建築設計事務所を訪問しました。その中で、ストックホルムにある建築設計事務所のLiljewall Architects のトイレも印象的でした。

トイレブースが複数個あるのですが、男性用女性用と分けるのではなく、あえてユニセックス・トイレであることを強調しているピクトグラムが貼ってありました。面白い表現ですね。

 

ストックホルム近代美術館(Moderna Museet in Stockholm)

 

ストックホルム近代美術館は、スウェーデンの首都ストックホルムにある美術館である。 1958年、20世紀美術のための美術館として開館。 1998年にはスペイン人建築家ラファエル・モネオによって新築された。しかしその後、建物に欠陥が見つかり、2002年に一旦閉館された。2004年に再びオープンした。(Wikiより)

ストックホルム近代美術館のトイレですが、まずピクトグラムが面白いです。

様々な人を示すピクトグラムが並んでいます。何を意図しているのかよくわからないピクトグラムもありますが、とりあえず多様な人々を許容していることはわかります。

まず地下のトイレですが、地上と同じサインが掲示されています。人がいなかったので中の様子を見てみると、

共用の洗面台が設置されており、トイレブースが2つ設置されていました。

次に地上階にあるメインのトイレエリアです。ここでは、向かって正面の左右両側がユニセックス・トイレとなっていました。右側に見えるのはだれでもトイレで、左側に見えるのは清掃用具庫です。ここでも、ユニセックス・トイレがどのように使われているのか見てみました。(悪趣味ではありますが、行動観察の一環として重要だと思っています。。。)

ピクトグラムのサインで確認しつつ、入り口でどちらに入ればよいのか迷う人がいる反面、同じ扉から男性も女性も出てくる様子など、性別が混在されて活用されていることがよくわかります。結構自然に活用している印象です。

こうしたユニセックス・トイレが一般的になってくると、今後、小便器が過去の遺物になる時が来るかもしれません。

まとめ

このブログでは、北欧3か国(フィンランド・デンマーク・スウェーデン)のユニセックス・トイレに対する先進的な取り組みを見てきました。北欧でも十分浸透しているとはいいがたく、まず一歩踏み出し戸惑いながらも適応始めている状況でした。

ピクトグラム一つとっても「なぜ女性がスカートなのか」といった点には疑問が残りますし、成人の男性と女性を対象にしたピクトグラムを用いているものの老人や子供の扱いはどうなっているのかというツッコミもありそうです。万人が認める唯一の解決策があるとも思えません。

一つのトイレブースに大便器一基のみを設置し男女で共用することによって発生する、「汚れやすさの違い」や「犯罪発生」など、検討すべき課題は様々ありそうです。しかしながら、バリアフリーやジェンダーフリーの建築空間の実現へ向けて、重要な試みであると思いました。

ちなみに、このように多様性を受容し格差を軽減させる思想は「適切な情報共有を実現する社会システムの基盤となる考え方」といえるかもしれません。日本の建築産業の情報化における他主体間での情報共有の遅れは、単に技術の問題ではなく、より社会に根差した問題だとも感じました。