2019年10月6日から13日にかけて日本を襲った令和元年台風第台風19号ハギビスは、関東甲信越地方および東北地方を中心に甚大な被害を及ぼしました。特に浸水被害を受ける家屋が多く特定非常災害として認定されました。被災された方々に、お見舞い申し上げます。

本来、家を計画する場合、浸水被害の可能性がある土地は避けるべきです。しかしながら、相続や建て替えなどで敷地がすでに決定されている場合はどのようにしたら良いのでしょうか?今回のブログでは、まず土地について理解を深める3つの方法を、浸水被害のあった世田谷区多摩川沿いを具体事例として取り上げて説明します。そして残念ながら浸水被害が予想されることが分かった場合に向けて「水害に強い家」を作るための4つの対策について述べたいと思います。

土地について理解を深める3つの方法

「水害に強い家」を作るための4つの対策

まずは土地について理解を深める

1)ハザードマップを活用する

大自然の力に比べれば、自分のことを守ってくれる住宅は非常にか弱い存在です。まずは「浸水被害にあいにくい土地」に住宅を計画することが何より重要です。それでは「浸水被害にあいにくい土地」をどのように調べればよいのでしょうか?

各自治体は「ハザードマップ」を作成しています。例えば、今回浸水被害のあった世田谷区ですが、世田谷区洪水ハザードマップ(多摩川版)データが世田谷区のホームページに掲載されています。

多摩川版は、国土交通省京浜河川事務所が平成28年度に公表した「多摩川における想定最大規模降雨による洪水浸水想定区域図」(想定雨量 多摩川流域の2日間総雨量588ミリメートル)をもとに、大雨時に多摩川の堤防が決壊し、洪水が発生した場合の浸水予想区域や浸水深、避難所等を示したものです。

今回浸水被害のあった世田谷区玉堤エリアは以下のようにハザードマップ(令和元年7月1日現在)で示されていました。

世田谷区洪水ハザードマップ(多摩川版)より抜粋

もともとこのハザードマップに示されるように3.0mの浸水が予想されている地域でしたが、予測通り今回の台風による多摩川の増水で浸水する結果となりました。

2)古地図を活用する

現在目の前にある状況から、浸水の可能性を探ることは難しいものです。しかし、過去にさかのぼり浸水の可能性を探ることは可能です。例えば、今昔マップon the webで玉堤エリアを調べてみましょう。

明治39年(1936年)測図明治42年(1909年)製版の国土地理院の地図(左側)現在の国土地理院地図(右側)

明治39年(1936年)と現在を比べてみると、丸子川と多摩川に挟まれたエリアは、もともと田畑であり人が住んでいなかったことが分かります。

昭和6年(1931年)発行の国土地理院の地図(左側)現在の国土地理院地図(右側)

昭和6年(1931年)と現在を比べてみると、丸子川と多摩川に挟まれたエリアに徐々に建物が建ち始めたことが分かります。

昭和22年(1947年)発行の国土地理院の地図(左側)現在の国土地理院地図(右側)

昭和22年(1947年)と現在を比べてみると、丸子川と多摩川に挟まれたエリアに、広域に建物が建ちはじめていることが分かります。

川沿いでありかつもともと田畑であった土地は、過去に浸水被害を受けやすい土地ですから注意が必要です。今昔マップは埼玉大学教育学部谷謙二研究室によって公開されている時系列地形図閲覧サイトです。大変使いやすいサイトですので、ぜひ皆さんも自分のお住いのエリアを見てみてください。

ちなみに水にちなんだ漢字、例えば池・沢・窪・沼といった「さんずい」のついた漢字や、水辺に生息する動植物の名前の漢字がついた地名は、浸水被害にあいやすいとも言われています。池袋のように東京都内では高台にありながら池の付いている地名もありますから、必ずしも当てはまるわけではありませんが、この機会に地名の由来を調べてみてもよいかもしれません。

3)地盤情報を活用する

またもともと田畑や埋立地の場合、地盤が弱い場合も多いです。今回浸水被害のあったエリアの地盤を、東京都建設局のウェブサイト東京の地盤(GIS版)で確認してみましょう。詳しいことは省略しますが、標準貫入試験のN値が50に達した深さが安定した地盤と考えることができます(グラフの赤丸参照)。

世田谷区玉堤1丁目エリアの地盤調査結果 東京の地盤(GIS版)より
世田谷区玉堤1丁目エリアの地盤調査結果 東京の地盤(GIS版)より

上の試験結果では、地表面からおよそ15m程度の深さで安定した地盤に達しているようです。それではさらに多摩川から離れた地点での試験結果を見てみましょう。

世田谷区尾山台2丁目(丸子川近辺) 東京の地盤(GIS版)
世田谷区尾山台2丁目(丸子川近辺) 東京の地盤(GIS版)

上の試験結果では、先ほどと同様に、地表面からおよそ14m程度の深さで安定した地盤に達しているようです。それではもうすこし多摩川から離れた地点での試験結果を見てみましょう。丸子川よりも内陸側で、明治時代から住宅が建設されていた地域です。

世田谷区尾山台2丁目(環状8号線近辺) 東京の地盤(GIS版)
世田谷区尾山台2丁目(環状8号線近辺) 東京の地盤(GIS版)

上の試験結果では、地表面からおよそ10m程度の深さで安定した地盤に達しているようです。これらの結果から分かるように、多摩川から離れれば離れるほど、地表面から安定した地盤までの距離が短いことが分かります。多摩川沿岸部は過去の治水事業や氾濫時の土砂流入によって埋め立てられていると考えることができます。

これらの地盤調査データは、東京都建設局が過去、都内で実施された地盤調査で得られた地質柱状図を表示したもので、ネットから無料で閲覧することが可能です。ぜひ皆さんも自分のお住いのエリアを見てみてください。

内水氾濫

川の水が堤防を越えてあふれ出す「外水氾濫」とは別に、市街地に降った大雨が地表にあふれる「内水氾濫」がある。
河川は大雨時の増水で、中・下流域の水位が高くなる。そのため、本川に合流する都市部などの中小河川(支川)では、支川から本川へ大量の雨水を流すことができずに、地表に水があふれ出る内水氾濫が起こる。洪水被害(外水氾濫、内水氾濫)の被害額でみると、内水氾濫は全国では約半分だが、東京都では80%を占める。
比較的、堤防の整備が進んだ都市部では、内水氾濫が新たな課題となっている。

国土交通省 水管理・国土保全ホームページより)

「内水氾濫による浸水」と「洪水(外水)氾濫による浸水」 (国土交通省ホームページより)

 

今回浸水被害のあった世田谷区玉堤エリアは、多摩川決壊による「外水(洪水)氾濫」ではなく、都市に降った雨が河川等に排水できずに発生する「内水氾濫」による浸水被害でした。

ハザードマップ・古地図・地盤調査からでは必ずしも正確に将来的浸水を予測可能とは言えません。また、ゲリラ豪雨の増大に伴い、近年、雨水ポンプ・雨水貯留管・貯留施設などの下水道処理施設による対策に力が入れられているようです。

下水道による浸水対策 (国土交通省ホームページより)

これらの下水道による浸水対策はある一定の有効性を持ちながらも、大自然の脅威にたいしては必ずしも万全とは言えません。

ハザードマップ・古地図・地盤調査の情報には、歴史的にもともと低地で水が流れ込みやすい敷地であることがある程度示されており、外水氾濫のみならず内水氾濫の可能性を示唆しているとも言えるのではないでしょうか。

「水害に強い家」をつくるためには

さて本題です。家を建てるにあたり、土地探しからできる場合は良いですが、先祖から引き継いだり、現在たまたま住んでいる土地が、浸水被害にあう可能性が高い土地だったら、どのようにすればよいのでしょうか?

国土交通省のホームページでは、「浸水の予防・人命を守る家づくり」という水害対策を考える予防策が掲載されています。

(財)日本建築防災協会「わが家の大雨対策-安心な暮らしのために」から作成

水害から自宅を守ることを考える際には、急激に被害内容が増加する「床上浸水」の防止に焦点を合わせることが重要なポイントとなる。
過去の水害に関する情報や行政機関が提供している自宅周辺の水害の可能性に関する情報などをもとに、床を高くしたり、ピロティー構造にすることによって、水害時の被害軽減が可能となる。また、既設住宅では災害時の二階の有効活用や災害用の脱出用として屋根に外部への出口を設けることも有効である。(国土交通省のホームページ「浸水の予防・人命を守る家づくり」という水害対策を考える予防策より)

以下、この4点について記載したいと思います。

1)かさ上げ(盛り土)

一番わかりやすいのが、盛り土などによって敷地全体を高くする方法です。東日本大震災で津波の被害にあった地域は、軒並みかさ上げがしてありました。将来的に津波があったとしても、周囲よりも1階基礎および床のレベルを高くすることによって対処することが目的です。

陸全高田の盛り土 2015年撮影

水は高いところから低いところに流れる性質があります。周囲の微地形の条件によっては、自分の敷地が周囲の道路や家よりも低い場合もあるでしょう。このような場合は盛り土の工事をおこなって、自分の敷地に水が集まらないようにする必要があります。

盛り土をはじめとした土工事は、予想よりも高額になる場合が多いですし、開発申請が必要な場合や、絶対高さの制限なども考慮する必要が出てきます。そのため総合的な判断が必要になるでしょう。

2)高床

国土交通省「家庭でできる防災」より

これは家の基礎を高くする方法です。通常の住宅において一階床用の基礎を高くする方法(上写真中央および右)と、一階はピロティ状の空間として二階に主要居室を配置する方法(上写真左)があります。

一階床用の基礎を高くする方法では、基礎部分を通常よりも高く計画します。家を建設する場合、まずコンクリートで「べた基礎」や「布基礎」といった基礎を作ります。この基礎を一般的な住宅よりも高くすることによって、1階床に浸水することを防ぎます。

一階はピロティ状の空間として二階に主要居室を配置する方法では、一階部分への浸水を避けるのではなく、浸水することが前提として計画されます。

2011年の東日本大震災では、津波で多くの建物が流失したが、津波の高さが4メートル未満だった地区では、ピロティ式住宅の多くが、比較的軽微な被害で済んでいたことが確認されている。(wikipediaより)

とも言われています。仮に一階の床上に浸水した場合でも、戸と窓を開けておけば、水流による抵抗が低減され流されにくくなるとも聞いたことがあります。隣家や流木が流されてきた場合はその限りではありませんが。。。

カンボジア トンレサップ湖の住宅(Wikipediaより)

たびたびの浸水被害に見舞われる東南アジアでは上の写真のように極端な例もあるようです。このような高床式の構造は、浸水被害対策と同時に、湿気対策にも有効です。そのため、日本でも、古来から高床式の倉庫によって、貴重な食物や宝物を保護してきました。気候変動によって、日本の気候が東南アジア化する現在、東南アジアの土着の建築から学ぶこと、また、歴史から学ぶことも大きいですね。

静岡県登呂市の復元された高床式倉庫(Wikipediaより)

一階をピロティ状にする方法は、良いことばかりであるように聞こえますが、構造上は問題をはらんでいます。地震や風といった水平方向に荷重がかかる場合、ピロティ状構造は不利なのです。

ピロティ階においては水平剛性が他の階に比べて低くなるため、構造設計上注意が必要とされる。1995年(平成7年)の兵庫県南部地震では、1981年のいわゆる新耐震基準以前の建物か以後の建物かを問わず、1階が駐車場とされた共同住宅などのピロティ式建築物において、ピロティの柱が破壊され1階が層崩壊した被害が多く見られた。(Wikipediaより)

神戸市ウェブサイト 震災記録写真集中央区被災状況より

このような阪神・淡路大震災の教訓を生かし、柱の強度を高めるなどの対策を施し耐震性を上げることによって、ピロティ式構造を採用することも可能でしょう。浸水の可能性が指摘される地域は、先ほど地盤調査結果で例示したように、地盤が悪いことが多いです。建物自体が流されないように、杭工事を行うことも必要でしょう。

サイクロンシェルター(バングラディシュ) 適応策選択の考え方 (洪水対策を例に) – 国土交通省 より

サイクロン来襲時には収容定員以上の人々を収容し効果を発揮。
サイクロンによる倒壊などの被害を受けたサイクロンシェルターは皆無。
平時には小学校として利用されており、今後も多目的な利用の期待が大きい。(サイクロンシェルター(バングラディシュ) 適応策選択の考え方 (洪水対策を例に) – 国土交通省 より)

実際、バングラディシュでは、こうした事例もあるようです。ここでの地盤高=2.8mであることに対して、洪水痕跡高=3.96mとなっています。地表面から1m程度浸水した痕跡が写真からも確認できます。遠い国の建築様式ではなく、いずれ自国の身近な建物様式となるかもしれません。

当然ながら、この「高床」の対策も先ほどの「かさ上げ」の対策同様、絶対高さの制限なども考慮する必要が出てきます。そのため総合的な判断が必要になるでしょう。

3)囲む

国土交通省「家庭でできる防災」より

防水性の塀で家を囲む方法です。地下鉄やビルの入り口ならばともかく、一般の住居ではなかなか止水版を見ることはありませんが、今後、一般化していくかもしれません。

敷地境界を高くすることは、浸水対策としては有効ですが、一方でバリアフリーの観点からは問題があります。すべての側面からこのような問題を解決することはとても難しいようです。

4)建物防水

国土交通省「家庭でできる防災」より

先ほどの「囲む」と同じような考えです。資料では「建物が浮力で浮き上がらないように基礎との接合を強化する」とあります。建物が「浮かぶ」とはなかなか考えにくいかもしれません。しかし、水密なコンクリートによって船を作った事例もあります。

コンクリート船(国策丸) 昭和20年 (タケイ工業株式会社ウェブサイトより)

もともとコンクリートは乾燥収縮を通じてクラックが入り、防水性・水密性を確保することが困難な素材です。しかしながらタケイ工業は常識を覆し、防水工事店として10年の保証をしています。地下室や屋根の防水に使われることが多く設計者の中でも評価が高い工事店です。

「浮かぶ」ことが心配なのは、一般的な住宅ばかりではありません。地下室があるビルでも、地下水位が高いエリアでは注意が必要です。地下水位の上昇によって浮力が発生する可能性があります。

まとめ

地球温暖化による異常気象の発生は日本のみならず世界的問題となっています。家を計画する場合、可能であれば、過去浸水被害のない安定した地盤の土地に建設することが望ましいです。しかしながら土地がすでに決まっている場合、可能な限り4つの対策を頭に入れて計画することをお勧めします。

今後、洪水被害に常に対峙する東南アジアの建築物から学び、日本古来の建築物から学ぶ必要性は、今まで以上に増すと考えています。