木造住宅には大きく分けて、日本で一般的に採用されている軸組構法(または在来構法)と、北米から輸入された2×4(ツーバイフォー)構法(または枠組壁構法)、さらにプレハブ工法があります。特に軸組構法と2×4構法については、構造上の利点欠点について色々と比較されていますが、建築基準法上異なる基準に基づいているため同じ土俵で比較するのは困難でした。今回のブログでは、日本建築学会編「2016年熊本地震災害調査報告」をもとに、軸組構法と2×4構法の耐震性について比較してみたいと思います。どちらの方が、地震に強い住宅として安心な住環境を実現できるのでしょうか?
軸組構法とは
軸組構法は日本で最も一般的に採用されている構法です。日本で古くから発達してきた構法で、在来構法とも呼ばれています。軸組構法は、柱や梁といった軸組(線材)によって構造体を構成する構法です。
2×4構法とは
一般的に2×4(ツーバイフォー)と呼ばれている構法ですが、建築基準法上は木造枠組壁構法と呼ばれています。19世紀に北米で生まれ、主として住宅用建築物用に普及したといわれています。フレーム状に組まれた木材に構造用合板を打ち付けた壁や床(面材)で支えることによって、構造体を構成する構法です。
またWikipediaでは木造枠組壁構法(2×4構法)について
木造枠組壁構法は耐力壁と剛床を強固に一体化した箱型構造であり、木造軸組構法が柱や梁といった軸組(線材)で支えるのに対し、フレーム状に組まれた木材に構造用合板を打ち付けた壁や床(面材)で支える。そのため、高い耐震性・耐火性・断熱性・気密性・防音性をもつといわれる。
と書かれていました。
ちなみに2×4(ツーバイフォー)の名前の由来ですが、下枠・縦枠・上枠などの主要な部分が、2インチ×4インチサイズの規格品による構造用製材で構成されることによります。規格では、38㎜×89㎜の材を指します。
ここでややこしいのは、正確に単位換算すると2インチは50.8mm、4インチは101.6㎜となりますが、それらの寸法よりも小さい38㎜×89㎜の材が2×4(ツーバイフォー)と呼ばれていることです。実際に北米ではnominal dimension(名目上の寸法)とactual dimension(実際の寸法)として、2種類の寸法を区別して取り扱っています。米国設計事務所勤務時代、このnominalとactualの違いには最初かなり戸惑いました。おそらく、乾燥や製材の過程で、実際の寸法が名目上の寸法より小さくなっていることを背景としているのでしょうね。
軸組構法と2×4構法どちらが多い?
国土交通省の統計にはプレハブ工法等が含まれるためそれらを差し引くと、現時点における軸組構法と2×4構法との、新築着工件数の比較はおよそ
軸組構法:2×4構法 = 3.5:1
の割合のようです。
ちなみに2×4構法の着工件数は、全新設住宅着工数が減少する中、年々伸びています。ツーバイフォー住宅着工数はすでに12.6%を占めるようですね。
世間一般では、軸組構法の住宅が圧倒的に多いような気がするのですが、2×4構法が日本に入ってきたのが1970年代ですから、それ以前に建てられた軸組構法の住宅ストックを考慮すれば当然なのかもしれません。
軸組構法と2×4構法の比較
一般的に軸組構法と2×4構法の違いはどのようなものなのでしょうか?
軸組構法の長所
・ 間取りや開口部の自由度が高い
・ 日本で最も普及している構法なので、どの工務店でも新築・増改築が可能軸組構法の短所
・ 工期が比較的長い
・ 工務店の技量によって品質がばらつく2×4構法の長所
・ 工期が比較的短い
・ 施工に高度な技術を必要としない(特に海外)
・ 2×4構法の経験がある工務店が限定される(一定の施工技術確保)2×4構法の短所
・ 2×4構法の経験がある工務店が限定される(価格競争が起こりにくい)
ちなみに、軸組構法でも高気密高断熱住宅が数多く作られているので、かならずしも2×4構工法の方が、断熱性・気密性・防音性に優れているとは言い切れないと考えます。これらの性能の違いは構法によるものというよりは施工技術によるものでしょうね。
軸組構法と2×4構法の構造基準
建築基準法上、木造の3階建て、500㎡の延べ床面積、9mを超える軒高、13mを超える最高高さ、100㎡を超える特殊建築物などには構造計算が必要となり、確認申請時に構造計算書が必要となります。したがって、今回比較を試みている一般的な2階建て木造住宅では、建築基準法施行令にある仕様規定を全て満たせば、確認申請時に構造計算書は必要ではなくなります。
世の中の木造住宅の大部分は、部材を一つ一つを取り出して構造計算しているわけではありません。詳細な構造設計を行わなくても設計・施工できるように、耐力壁(建築物において、地震や風などの水平荷重(横からの力)に抵抗する能力をもつ壁のこと。Wikipediaより)の壁量やバランスの取れた配置計画などを満たせば構造的に安全であるとみなす方法が確立されています。これを仕様規定といいます。
軸組構法と2×4構法では、耐力壁の仕様規定が大きく異なり
枠組壁工法の場合は耐力壁の配置方法についてさらに厳しい基準が定められており、より高い耐震性・耐風性を確保している(Wikipediaより)
と言われています。(詳細についてはいずれ別ブログで説明を試みたいと思います)
軸組構法と2×4構法の施工
2×4構法はもともと北米の開拓時代の家から発展した歴史を持つようです。施工技術の乏しい一般人でも、プラモデルを組み立てるような感覚で2×4住宅を作ることができるといえるでしょう。4分少々の動画ですが、分かりやすいのでぜひ。
この動画から分かるように、必ずしも高い施工技術を持たない人でも2×4住宅の建設に携わることができることが分かります。
結局、軸組構法と2×4構法どちらが地震につよいのか?
それでは本題です。理論上ではなく、実際にどちらの構法が地震に強いのか、事例を通じて確認したいと思います。日本建築学会は、2016年に発生した熊本地震に対して災害調査委員会を発足し被害状況の調査を行い、「2016年熊本地震災害報告」という報告書を作成しています。その中で、特に被害の大きかった益城町において網羅的な調査を行いました。分析対象として、木造・鉄骨造・コンクリート造といった構造種別や、戸建住宅・店舗・オフィスといった建物種別について網羅的に調査されていますが、このなかから、軸組構法と枠組壁構法(2×4構法)の戸建住宅のみを取り上げて比較したいと思います。
なお、軸組構法と2×4構法の比較にあたり、建設時期が重要な要素となります。1981年(昭和56年)には耐震基準が大きく変更されました。これを一般的に「新耐震基準」と呼んでいます。さらに2000年にも建築基準法が改正されています。熊本地震でもこれらの耐震基準に適合しているか否かで被害状況が大きく変わってきていることが重要です。
以下が、益城町における戸建住宅の構法と建築年代の関係を示す図です。
在来軸組では、全体の40%が新耐震以前に建設された住宅でした。また枠組壁構法(2×4構法)は1970年代半ばから導入されるようになりましたが、少なくとも1980年代に入るまでは建設されていなかったことが分かります。
1981年以降に建てられた住宅を比較しても、在来軸組構法は900棟近く建てられているのに対して、枠組壁構法では54棟しか建てられていません。立地上、地元の工務店が建設した軸組構法の戸建住宅がほとんどなのでしょう。
次に、構法別の被災状況です。
現存する在来軸組の住宅と、枠組壁構法(2×4構法)の住宅を比較すると、圧倒的に2×4構法の方が優位です。つまり現存する中古住宅の購入・賃貸を考える場合、耐震性の点からは2×4 構法の方に分があるといえるでしょう。
しかし新築住宅の場合については、この結果は必ずしも当てはまりません。そもそも2×4構法による住宅が新耐震以降に建てられていることを考えると、これらのデータを同じ条件で比較することができないからです。あいにく新耐震以降に建てられた在来軸組と枠組壁構法の建物との被害レベルの相関について取り上げたデータはありませんでした。また枠組壁構法の住宅が54棟しかないため、かなり限定されたデータであるといえるでしょう。
ここからはあくまでも想定の話です。上のグラフの在来軸組の半壊と倒壊・崩壊の合計は45%となり、1981年以前に建てられた在来軸組の建物割合41%と近い数字となります。そのため、「1981年以前に建てられた在来軸組の住宅はすべて半壊または倒壊・崩壊した」と仮定すると、半壊または倒壊・崩壊をほぼ無視できることになります。こうして無被害および一部損壊のみを比較してみた場合でも、枠組壁構法の方がやや優勢であるように見えますね。
まとめ
現存する建物については、2×4構法の方が耐震性が高いと言えそうです。比較的新しい2×4構法の方が、新耐震基準によって建てられている可能性が高いので、優位であるのは当たり前のことかもしれません。
一方でこれから新築する場合、どちらの構法が地震に強いかといわれても、明確な違いを結論付けるだけの具体的な事例データは見つかりませんでした。どちらの構法であっても、耐震基準を守り適切に設計・施工されている建物であれば、地震に強いと考えられます。重要なのは、どちらの構法を採用するかよりも、信頼できる設計者と間取りや耐震性を検討し、技術力の高い工務店に施工を依頼することのほうが重要でしょう。
同時に「地震に強い」ということだけを考えると、耐震・免震・制震の違いについて も併せて理解を深める必要もあります。
余談ですが、近い将来、新築着工件数は減少するとともに、多くの職人・大工がリタイヤし圧倒的な施工者不足に悩まされることになります。野村総合研究所の予測(人手不足の深刻化により、飛躍的な生産性向上が求められる建設現場 より)
よると、住宅着工件数は、2015年におよそ95万戸だったものが、2030年には60万戸となるようです。ざっくり言うと、15年でおよそ2/3に減少するわけです。一方、職人数は、2015年におよそ35万人だったものが、2030年には21万人になるようです。こちらもおよそ2/3に減少する見込みですが、新築ばかりではなく改築や修繕の物件が増えることを考えると、職人の絶対数は不足していくと思われます。
職人不足の結果、施工技術・経験の乏しい人や外国人労働者が施工現場に参入することもあるでしょう。このような状況下では、軸組構法のようなある一定レベルの施工技術・精度を必要としない、米国をはじめとした諸外国で建設されている2X4構法による施工のほうが、受け入れられる可能性が高いのではないでしょうか。工業化を進めたプレハブ工法とともに、2×4構法の動向についてもチェックし続ける必要がありそうです。