ほしいものが、ほしいわ。

「ほしいものが、ほしいわ。」は、1988年に糸井重里さんが書いた、西武百貨店の有名なコピーです。

ほしいものはいつでも
あるんだけれどない
ほしいものはいつでも
ないんだけれどある
ほんとうにほしいものがあると
それだけでうれしい
それだけはほしいとおもう
ほしいものが、ほしいわ。

池袋駅を最寄りのターミナル駅として利用していた私にとって、池袋西武百貨店で大々的に宣伝されていたこの広告は衝撃的でした。具体的な商品ではなく「ほしいもの」という抽象的なアイデアを、バブルの絶頂期に語っています。さすが糸井さん、時代の先を見据えていますね。

住宅の新築・改修に対する「要望」

このブログは、東京の建築設計事務所への依頼を視野にいれながら、住宅の新築・改修を考えている方々に向けているものなので、対象を住宅に限定してみます。さらに「ほしいもの」を「要望」と言い換えてみましょう。それでは、あなたの住宅に対する「要望」とは何でしょうか。「大きな窓」でしょうか、「収納重視のキッチン」でしょうか、それとも「最新の家電製品」かもしれません。もうすこし引いて考えると、「暖かい/涼しい住宅」とか「地震に強い住宅」といった住宅の性能に着目しているかもしれませんね。さらに引いて考えると、「会話がはずむ住宅」とか「ほっとする住宅」といったより抽象的なアイデアが、本当の「要望」なのかもしれません。

住宅の新築・改修を考えている方々は、このような様々な「要望」を持っています。でも「要望」って、はっきりと示すことはできますか? 雑誌やネットを丹念に読み、実際に様々な住宅を見て回り情報収集して「要望」を明確にされているかもしれません。でも、全ての「要望」を事前に明確にするのは難しいですよね。

設計の、特に初期の段階では、設計者との対話を通じて、今まで「ほしい」という意識には上がってこなかった無意識の「要望」をはっきりさせることがあります。その中で「形(設計案)」のイメージは、非常に重要な役割を果たします。例えば、出来上がった「形」を見て「こんな間取りができるのであれば、もう少し別の「要望」を追加したい」と考えることもあるでしょう。つまり、「要望」が「形」を生み出すばかりでなく、「形」が新たな「要望」を引き出すことになります。このように住宅の新築・改修に対する「要望」は絶えず変化するわけですが、「要望」が変化し続けると「形」も変化し続けることになり、プロジェクトそのものが進まなくなるので、ある段階でまとめることが必要になります。

こうした様々な「要望」は、常に矛盾に満ちています。例えば、「明るい部屋が欲しい」という「要望」があり、「大きい窓」を設置したとします。でもこの「大きい窓」は、「地震に強い住宅」や「省エネの住宅」といった「要望」とは相反するものになります。というのも、「窓を大きくすること」は「構造壁を減らすことにより耐震性能が弱まる」や「窓からの熱損失が増えることにより空調負荷が大きくなる」を意味するためです。「要望」自体がそれぞれ関係しあい、一方を採択すれば一方が成立しなくなるわけです。

さらに重要な点として、「要望」の中には、コストやスケジュールといった、住宅の新築や改修をすすめるにあたっての前提条件があります。例えば、この予算であれば新築より改修する方が安い(または改修するより新築する方が安い)とか、ご家族の予定のため一定期間施工できないとかといった条件によって、そもそものプロジェクトの枠組み自体を再考しなければなりません。

住宅の設計において、設計者は、このように変化し続ける「要望」を整理し、「形(設計案)」として提案する役割を果たします。設計者は、このような様々な「要望」をジャグリングしながら、設計プロセスを進めていきます。全ての「要望」を満たした最適解かもしれませんし、ある最も重要な「要望」だけを完璧に満たす個別解かもしれません。いずれにしても、施主に納得いただいた設計内容を住宅として実現していくわけです。

共通認識を持つことの重要性

設計を進める上で、住宅の新築・改修を考えている施主と設計者が、絶えず変化する「要望」について共通認識を持つことはとても重要です。この共通認識が欠落していると、「期待した要望が設計内容に表現されないため、住宅として実現しない」とか「コストやスケジュールの大幅な変更を余儀なくされる」といった問題が発生することになります。

お互いの不信感を募らせないためにも、適切なコミュニケーションをお互いに模索する必要があります。イメージパースのように目で見てわかりやすい場合、文字やスペックの方が分かりやすい場合、実物の一部分の方が分かりやすい場合、といった様々な場合が考あるでしょう。さらに、対面式のウェットな方式や、メールなどのドライな方式のコミュニケーションスタイルがあります。状況に応じて、様々に使い分ける必要がありますが、適切にコミュニケーションを行い、施主と建築設計事務所サイドとで共通認識を常に確立し続けることが重要です。

いらすとやさんのイラスト