7年前の2011年3月11日に東日本大震災が発生しました。災害発生直後は鮮明に覚えているのですが、時間と共にその記憶が薄れていってしまいます。「災害はいつか忘れたころに発生するものだ」ということを絶えず頭の片隅に残し続けることは、建築設計事務所を営み教育にたずさわる自分を含め全ての人にとって、大切なことであると考えています。

以前外国の友人から、日本の津波について「なぜ津波が起こるのか」「東日本大震災のようにまた津波が起こることがあるのか」と質問されましたが、私はすぐに答えることができませんでした。

さらに南海トラフ巨大地震が将来的に起こることが警鐘されていますが、東日本大震災で学んだ教訓をどのように生かすことができるのか自分でもよく分かりません。正確な情報を知っておく必要があると思い、南海トラフ大地震による津波の被害予測について調べてみました。

奇跡の一本松 陸前高田 2015年1月

東日本大震災の被害状況について

2011年3月11日の東日本大震災は日本全土を震撼させました。発生からほぼ4年後の2015年1月に気仙沼から釜石まで陸路でリアス式海岸を車で北上したのですが、高台の上に残り日常生活を営んでいる“ように見える”住宅と、土漠と化した谷間が交互に続く光景が強烈でした。

高台にある建物は無事だった 気仙沼 2015年1月
荒野と化したまち 陸前高田 2015年1月

2018年1月現在では、この段階から既に3年経過しているので、復興も幾分進んでいると思われます。被災された皆様に心からお見舞い申し上げます。

津波の記憶
時間が経過すると人の記憶や関心は薄れていきます。下はGoogle Trendで「津波」をキーワードとして検索した結果です。

Google Trend「津波」より
年月 2011年3月を100としたときの相対検索数
2011年3月 100
2012年3月 15
2013年3月 8
2014年3月 9
2015年3月 6
2016年3月 8
2017年3月 6

 

Google Trendの折れ線グラフで毎年3月のみを抽出してみました。2011年を100として2012年は15あった相対検索数も、年を追うごとに徐々に減ってきましたが、現在ではほぼ6~8程度で落ち着いているようです。この記憶は決して絶やしてはいけないですね。


三陸沖の津波発生の周期について

東日本大震災をもたらした東北地方太平洋沖地震の前には、いつどのような地震があり、どのような津波を引き起こしたのでしょうか。

1933年(昭和8年)3月3日に昭和三陸地震が起こりました。岩手県上閉伊郡釜石町(現・釜石市)の東方沖約 200 kmを震源として発生した地震です。気象庁の推定による地震の規模はM8.1となっています。この時に発生した津波の最大遡上高は、岩手県気仙郡綾里村(現・大船渡市三陸町の一部)で、海抜28.7mを記録したとされています。(wikipediaより)

1896年(明治29年)6月15日に明治三陸地震が起こりました。岩手県上閉伊郡釜石町(現・釜石市)の東方沖200kmの三陸沖を震源として起こった地震です。マグニチュード8.2- 8.5の巨大地震です。更この時に発生した津波の最大遡上高は、海抜38.2mを記録したとされています。(wikipediaより)

さらにさかのぼると

1856年8月23日安政八戸沖地震、推定M6.9-8.0、推定津波遡上高6m
1793年2月17日寛政地震、推定M7.1-7.9、推定津波遡上高9m
1763年1月29日八戸沖(三陸沖)地震、詳細不明
1677年4月13日八戸沖(三陸沖)地震、詳細不明
1611年12月2日慶長三陸地震、推定M8.9-9、推定津波遡上高20m
(wikipediaより)

1896年の明治三陸地震から1933年の昭和三陸地震まで 37年
1933年の昭和三陸地震から2011年の東北地方太平洋沖地震まで 78年

2世代または3世代のうちにほぼ必ず三陸沖で地震が発生するようですが、この記憶を留めることは大変難しいですがとても重要です。

東日本大震災と阪神淡路大震災の違い

ちなみに東日本大震災と阪神淡路大震災の大きな違いは、犠牲者の方々の死因です。同じ「地震」が原因であっても、そのあとに発生する津波の有無は、東日本大震災の被害を格段に大きくしています。

阪神淡路大震災における死因
国土交通省近畿地方整備局ウェブサイトより)

東日本大震災における犠牲者の死因は、津波に巻き込まれたことによる溺死がほとんどであり、多くの遺体が居住地等から相当離れた場所で発見されている。これに対し、阪神・淡路大震災における犠牲者の死因は、倒壊家屋の下敷きによる窒息死・圧死がほとんどであった。このことから、阪神・淡路大震災では、発生直後から収容遺体の身元確認率が9割を超えていたのに対し、東日本大震災では、同等の身元確認率に至るまで約4か月を要するなど、身元確認の進捗に大きな違いがみられた。

東日本大震災における死因(平成24年3月11日現在)
警察庁ウェブサイトより)
東日本大震災における大津波の状況(国土交通省ウェブサイトより)

建物が全壊・倒壊することによって犠牲者が出ることに対しては、耐震基準をあげることによって対処が可能であり、新耐震や2000年の基準法改正によって安全性も格段に上がっているようです。しかし、津波に対しては、どのように対処していけば良いのでしょうか。

津波が起こる理由(おさらい)

東日本大震災直後には多くのメディアが津波発生のメカニズムについて取り上げていましたが、ここで記憶を新たにすべく、再度おさらいをしたいと思います。(以下、国土交通省ウェブサイトより)

津波発生の原因
津波は、海底地震に伴う地殻変動によるものが一般的です。地球表面上のプレートは地球内部に沈降するとき、反対側に接触しているプレートを引き込みます。引き込まれたプレートはひずみによる変形を蓄積させ、その限界を超えるとひずみを解放させ、プレートの端を大きく変位させます。この変位が海水を大きく動かし、津波の原因となるのです。また、その他の原因として海底火山の爆発、海岸付近の火山による土砂の大規模崩落などもあります。

プレート運動の概念図
海底地盤の動きと津波の発生

津波の伝わり方
海底地震により発生した津波は、水深が深いところでは波の進行速度は速いながら、波高はあまり大きくなりません。波が水深の浅い近海まで達すると、速度は遅くなりますが、波高は高くなります。チリ地震津波(1960年)では、津波は地震の震源から18,000kmの距離を約1日で伝わり、日本の沿岸まで到達して大きな被害をもたらしました。
沿岸へ打ち寄せた波は、湾部などその地形によっては陸上を駆け上がることがあります。また、河口に水門等のない河川では波が河川を遡上することがあり、その流域に被害を及ぼすことがあります。

津波進行に伴う速度・波高の変化(参考:港湾空港技術研究所HP)

津波がジェット機や新幹線と同じ速さで迫りくるとは知りませんでした。さらに水深が浅くなったり湾部で内陸部が細くなっていると、波の高さが数十メートル近くなるため、建築基準法で建物を強化したとしても津波に対処できるわけではありません。

また、津波は繰り返し打ち寄せる性質があり、その開始が押し波であるもの、引き波であるものがあります。また、潮の干満にも大きさが左右され、満潮時にはより大きな波となります。

北海道東方沖地震時の久慈港における水位変動グラフ
(上)地震時の変動 (下)潮位差も含めた変動
(出典:「平成6年(1994年)北海道東方沖地震津波の特性」
港湾技研資料、1995年6月、永井・橋本ほか(一部加筆))

押す波もあれば、引く波もあるということ、記憶にとどめておきたいと思います。それでは、これらを教訓にして、南海トラフ巨大地震では、どのような対策が取られているのでしょうか。

南海トラフ巨大地震対策計画について

南海トラフ巨大地震の発生源を現段階で特定するのは大変困難です。内閣府の中央防災会議による「南海トラフ巨大地震の被害想定について」では、東海地方・近畿地方・四国地方・九州地方が被災した場合を検討しています。それぞれの地震動と津波を組み合わせて被害想定を実施したのが以下の図です。

東南海+南海地震の震度分布図
南海トラフの巨大地震による最大クラスの震度分布

さらに満潮時の津波の高さを表したのが下の図です。

南海トラフの巨大地震による最大クラスの津波高(分布地図) <満潮位>

これをもう少しズームアップしてみたのがこの図

南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域の指定

具体的な数値としてはどのようになっているのでしょうか。「南海トラフ巨大地震の被害想定について」にて記載されている表をもとに、最大津波高さが15m以上の地域を抜粋すると以下のようになりました。

30m以上(ビル8階建て相当)の津波高が予測されているエリアもあるのですね。このブログを読んでいただいている方の親戚や関係者がお住いの地域はあるのでしょうか。ちなみに、これらの値を、東日本大震災の例と比較すると、

東北各地の津波の高さ
東北学院大学ウェブサイトより)

冒頭の写真にあった陸前高田では18mの津波高さが計測されています。最悪の場合、陸前高田と同じ状況が、上記表に記載された市区町村で起こる可能性も否定できません。

先程の資料(南海トラフ巨大地震の被害想定について(第一次報告))によると、

被害想定結果は、発生時刻や風速等想定に当たっての前提条件により大きく異
なるが、東海地方、近畿地方、四国地方、九州地方がそれぞれ大きく被災するケ
ースを想定した場合、次のとおりとなる。
(ア)東海地方が大きく被災するケース
全壊及び焼失棟数:954 千棟~2,382 千棟 死者:80 千人~323 千人
(イ)近畿地方が大きく被災するケース
全壊及び焼失棟数:951 千棟~2,371 千棟 死者:50 千人~275 千人
(ウ)四国地方が大きく被災するケース
全壊及び焼失棟数:940 千棟~2,364 千棟 死者:32 千人~226 千人
(エ)九州地方が大きく被災するケース
全壊及び焼失棟数:965 千棟~2,386 千棟 死者:32 千人~229 千人

もう少し細かく見ていくと、例えば、東海地方が大きく被災するケースの場合

東海トラフ巨大地震の被害想定について(第一次報告)より

ちなみに東日本大震災では、

人的被害:死者 15,824名、行方不明者 3,846名、負傷者 5,942名
建物被害:全壊 118,636戸、半壊 182,193戸、一部損壊602,773戸 (10月17日現在)
東日本大震災の概況 国土交通省住宅局住宅生産課 資料より)

であることを考えると、南海トラフ巨大地震では東日本大震災のおよそ20倍の人的被害が発生する可能性があるようです。危険側で見積もっていたとしても、ここまで大きな被害が予測されているとは知りませんでした。

東南海トラフの津波発生の周期について

先程、三陸沖エリアでの津波発生の周期について述べましたが、東南海トラフエリアではどのように地震・津波が発生してきたのでしょうか。

1946年(昭和21年)12月21日に昭和南海地震が起こりました。潮岬南方沖(南海トラフ沿いの領域)78 km深さ 24 kmを震源としたM8.0(Mw8.4)の地震です。最高潮位は串本町で6.57mを記録しました。(wikipediaより)

1944年(昭和19年)12月7日に昭和東南海地震が起こりました。紀伊半島東部の熊野灘を震源としたM7.9のプレート境界型巨大地震です。最大波高は、尾鷲市賀田地区で記録された 9 m でした。(wikipediaより)

1854年12月24日に安政南海地震が起こりました。約32時間前に安政東海地震が発生しています。紀伊半島南東沖一帯を震源としM8.4という地震。波高は串本15m、宍喰5-6m、室戸3.3m、種崎11m、久礼で16.1mに達しました。(wikipediaより)

1854年12月23日に安政東海地震が起こりました。駿河湾から遠州灘を震源とするM8.4の地震。紀伊半島から四国沖を震源としました。M8.4程度。波高は甲賀で 10 m、鳥羽で 5 – 6 m、錦浦で 6 m 余、二木島で 9 m、尾鷲で 6 m に達したました。(wikipediaより)

1707年10月28日に宝永地震が起こりました。東海道沖から南海道沖を震源域として発生した巨大地震です。推定M8.4-9.3、津波高さは、下田では5- 7m、紀伊半島で5- 17m、阿波で5- 9m、土佐で5- 26mと推定されます。(wikipediaより)

1946年、1944年、1854年に2回、そして1707年といったように、繰り返し巨大な地震・津波が発生しています。2018年の現在、昭和南海地震から既に72年が経過しています。時間がそれだけ経過していることを考えると、プレートにエネルギーがその分蓄積されている訳ですから、警戒がなおさら必要になりますね。

防災対策

それでは、どのようにして防災対策をすればよいのでしょうか。内閣府防災ページを要約すると以下の通りです。

(ア)地震動に対する防災対策
① 建物の耐震性の強化
→新耐震により想定死者数は約 85%減と推計

② 家具等の転倒・落下防止対策の強化
→家具等の転倒・落下防止対策により約 70%減と推計

(イ)津波に対する防災対策
① 避難意識の啓発
→早期避難率が高く効果的な呼びかけがあった場合、津波による死者数が約 2.0 倍~約 8.6 倍少なくなると想定

② 津波避難ビルの指定・整備
津波避難ビルが津波避難に効果的に活用されると、死者数が約1.2 倍~約 1.9 倍少なくなると想定

③ 堤防・水門の耐震性の強化
→堤防や水門の点検を行い必要な整備を推進する場合、建物全壊棟数と死者数にそれぞれ約 1.1 倍少なくなると想定

東海トラフ巨大地震の被害想定について(第一次報告)より)

地震対策は建築基準法改正とともに着々と進んでいるようですから、津波対策が重要となりますね。特に、各自治体主導の

「津波に対する防災対策」

「津波避難ビルの指定・整備」

を徹底させることがカギのようです。

災害はいつ起こるか分かりません。自分自身の備忘録も兼ねて、機会があるごとに読み返し加筆修正していきたいと思っています。

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