地震は怖い

地震は怖いですよね。せっかく建築設計事務所に依頼して新築・改修したあなたの家の価値も、あっという間にゼロになってしまう可能性があります。施工費をローンで支払った場合には、その借金だけが残るとか。。。あなたの大切な不動産を守るためにも、すくなくとも日本で新築・改修する場合には、適切に地震に対応する必要があります。

いらすとやさんのイラスト

日本では昔から地震に悩まされてきました。例えば、大正12(1923)年9月1日に起こった関東大震災では、東京市内(当時は東京市だった)の約6割の家屋が罹災・190万人が被災・10万5千人余りが死亡あるいは行方不明になったと言われています。東日本大震災以前の日本において、史上最大級の被害をもたらしています。(Wikipediaより) 翌年の大正13(1924)年、すでに大正9年に制定されていた市街地建築物法を改正することによって、日本で初めて建物の耐震規定が定められました。以来日本では、大規模な地震が起こるたびに耐震基準を改定していますが、その中で住宅の新築・改修に関係する旧耐震基準と新耐震基準についてみていきましょう。

大手町の内務省(左)・大蔵省(右)の被害(国会図書館所蔵)
国土交通省ウェブページより

関東大震災における官庁の被害を示していますが、木造の内務省や大蔵省などは、跡形も無い事が分かります。

旧耐震基準施行

昭和25(1950)年11月23日に建築基準法が施行されました。この時の耐震基準を、今現在では「旧耐震」と呼びます。この時点での建築基準法の目的(建築物の持つべき性能)は、「人命の確保(建築物が倒壊しない)」が前提となり「中地震(震度5)で損傷しない」ことの検討が前提となっていました。これはあくまでも「建築物が使われている間に何回か発生する地震に対して損傷しないことを求めている」のであり「建築物には粘り強さがあり大地震にも耐えられると(経験的に)考えていた」そうです。従って、震度5より大きい大地震までは検証されていませんでした。

国土交通省資料 住宅・建築物の耐震化に関する現状と課題関係より

新耐震基準施行

昭和56(1981)年6月1日に新耐震基準が施行されました。この新耐震基準は、新潟地震(昭和39年)・十勝沖地震(昭和43年)・伊豆半島沖地震(昭和49年)・大分地震(昭和50年)・宮城県沖地震(昭和53年)・伊豆大島近海地震(昭和53年)といった、過去の地震被害のうち「建築物の規模と無関係の被害」①地盤の不安定性による被害、②部材の耐力の不足による被害、および、「建築物の規模に関係する被害」①建築物の変形による外装材などの被害、②平面的・立面的不均一(バランスよく構造が配置されていないこと)による被害、③建築物の倒壊等の被害(部材の粘りの不足による被害)を分析して改訂されています。(国土交通省資料 住宅・建築物の耐震化に関する現状と課題関係より)

いらすとやさんのイラスト

新耐震では、「中規模の地震動(震度5強程度)でほとんど損傷しないこと」の検証を行うとともに、「大規模の地震動(震度6強~7に達する程度)で倒壊・崩壊しないこと」の検証を行うことが義務付けられました。建築物の存在期間中に1度は遭遇することを考慮すべき極めてまれに発生する地震動に対して倒壊・崩壊する恐れのないことを義務付けたわけです。(住宅・建築物の耐震化について 国土交通省ウェブサイトより)これでより包括的に地震対策がなされたことになります。

いらすとやさんのイラスト

この効果は絶大でした。震度7の激震が襲った1995年の阪神淡路大震災における建築年別の被害状況を見てみましょう。新耐震より前に建設された建物ではおよそ35%が軽微・無被害であるのに対して、新耐震以降に建設された建物ではおよそ75%が軽微・無被害であったことが調査されています。このことからも、新耐震基準で新築すること、および新耐震基準同等で改修することの重要性が分かりますよね。

国土交通省ウェブサイト 阪神・淡路大震災による建築物等に係る被害より

 

ちなみにこのグラフでは、

軽微な被害
・ 構造骨組にはほとんど変形が残らず、構造強度に影響がない
・ 仕上材などは若干の損傷を受けるが、使用性は損なわれない
小破
・ 構造骨組に若干の残留変化が認められ、耐震性は多少低下するが余震には耐える
・ 仕上材などには、ある程度の損傷を受ける
中破
・ 構造骨組は鉛直荷重支持能力を保持するが、構造強度に影響を及ぼす変形が残る
・ 仕上材などは相当の損傷を受けるが、脱落はしない
大破
・ 構造骨組が大損害を被るが、落床・倒壊はしない
・ 仕上材などの広範にわたる損傷・脱落を生じる
(スパっとわかる建築構造,建築構造用語研究会,エクスナレッジムックより)

の意味を表しています。構造骨組みが損傷し仕上材などに損傷が残っても、建物自体が落床・倒壊しないことは、まず人命確保を図る上でとても重要です。建物躯体が崩れて圧死することは絶対にさけなければなりません。

2000年の改訂

2000年に建築基準法が改正され、特に木造住宅について新耐震基準がさらに強化されました。①地盤調査が事実上義務化、②構造材とその場所に応じて接手・仕口の仕様を特定、③耐力壁の配置にバランス計算が必要となる が変更点として挙げられます。このブログではその詳細までには踏みこんで解説しませんが、さらに安全性が高まったということです。

2016年の熊本地震でも震度7が襲っています。阪神淡路大震災から20年余りが経過していますが、この被害についても調査結果が出ています。新耐震を一つの境として被害状況が異なること、および2000年を境にしてさらに被害状況が異なることがよくわかります。やはりより厳しい耐震基準をみたすことが被害を減少させることに繋がっていることを確認することができます。

熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会 報告書概要より

このようにして、日本の耐震基準は、被害を受ける→検証する→耐震基準を改定する→被害を受ける→検証する→・・・というサイクルをひたすら繰り返して発展してきました。現在新築されている建物は、こうした過去の痛ましい被災経験と、それらを分析してより安全な建物指標を策定する人々の努力のたまものといえるでしょう。

新耐震基準と旧耐震基準の税制の違い

新耐震の建物と旧耐震建物には、税制の違いもあります。まず新耐震基準の建物は税制上優遇され、住宅ローン減税を受けることができます。

無理のない負担で居住ニーズに応じた住宅を確保することを促進するため、住宅ローンを借り入れて住宅の新築・取得又は増改築等をした場合、年末のローン残高の1%を所得税(一部、翌年の住民税)から10年間控除する制度です。(適用期限:令和3年12月31日)なお、消費税率10%が適用される住宅の取得等をして、令和元年10月1日から令和2年12月31日までの間に居住の用に供した場合は、控除期間が13年間となり、増税負担分の範囲内で追加で控除がされます。

◆主な要件
①その者が主として居住の用に供する家屋であること
②住宅の引渡し又は工事完了から6ヶ月以内に居住の用に供すること
③床面積が50㎡以上であること
④店舗等併用住宅の場合は、床面積の1/2以上が居住用であること
⑤借入金の償還期間が10年以上であること
⑥既存住宅の場合、以下のいずれかを満たすものであること(一般住宅のみ)
ⅰ)木造 …築後20年以内 マンション等…築後25年以内
ⅱ)一定の耐震基準を満たすことが証明されるもの
ⅲ)既存住宅売買瑕疵保険に加入していること
⑦合計所得金額が3000万円以下であること
⑧増改築等の場合、工事費が100万円以上であること 等

国土交通省ウェブサイトより)

もともと住宅ローン減税では、中古住宅を入手する場合、木造など非耐火住宅では築20年以内、マンションなど耐火住宅では築25年以内ということ、つまり基本的には新耐震基準に適合する建物であることが減税を受ける条件となっていました。しかしながら、税制改正により新耐震基準を満たす建物であれば築年数に関係なく「耐震基準適合証明書」があれば住宅ローン減税を受けられるということになりました。1981年よりも昔に建造された建物に対して、新耐震基準に適合するレベルにまで耐震性能を上げるのはいろいろとハードルが高いですが、社会インフラの一つとして後世に残す必要のある建物の場合、是非検討をお勧めします。

まとめ

耐震基準を高く設定すれば、それだけ安全性が増します。しかしながら、躯体を頑丈にする分コストがかかります。統計学的に10年に一度起こる可能性のある地震に対しては、対処する必要がありますよね。しかし、1000年に一度起こる可能性のある地震に対してまで対処するとオーバースペックになる可能性があります。住宅を新築・改修する場合において、どのレベルに安全性を求めるかは、施主が最終決定する重要項目となりますので、是非注意してくださいね。