東京のインバウンド観光客

日本を旅行する外国人の5割以上が東京を訪れるのだそうです。買物・体験・飲食・宿泊・交通の便などを考えてみても、東京はインバウンドの中心となる都市と考えても良いでしょう。この傾向は2020年東京オリンピックに向けて、さらに加速することになりそうですね。

訪日・訪都外国人旅行者数及び訪都国内旅行者数の推移
東京都産業労働局ウェブサイトより

日本を旅行で訪れる外国人の、実に3/4が東アジアからの観光客です。銀座・浅草・新宿・渋谷などで、アジア系の観光客たちを見かけることはごく普通の光景になりました。地下鉄に乗っても、家族連れの少人数グループがスマホとガイドブックを片手に目的地を探している光景をよく見かけます。週末に美味しいものを食べに、気軽に東京に立ち寄る感じでしょうか。東京への観光旅行のハードルがかなり下がっている気がしますね。

訪日外客数のシェアの比較
東京都産業労働局ウェブサイトより

インバウンドの観光客が増えるのは、心理的距離が近くなっていることと同時に、東京に様々な魅力を感じているからでしょう。その魅力が高じて、日本で職を探して居住してみようとか、投資の一環として東京に不動産を持ちたいと考える外国人の方がいらしても不思議ではありません。

アジア富裕層によるマンション投資

円相場や株式相場によって変動はあるようですが、日本はアジアの富裕層にとって有力な投資先の一つとなっています。

海外投資家による不動産取得額推移(東京都)
グローバル及び日本の不動産市場概観とアジア富裕層によるマンション投資動向
一般財団法人土地総合研究所ウェブサイトより

2014年のリサーチ結果となりますが、東京では20%近い不動産が海外投資家によって取得されています。東日本大震災の影響で落ち込んだものの、外国人の存在が徐々に大きくなっていることが分かりますね。

海外投資家購入住戸の価格帯内訳
グローバル及び日本の不動産市場概観とアジア富裕層によるマンション投資動向
一般財団法人土地総合研究所ウェブサイトより

購入住戸では1億円未満が全体の4分の3を占めていることが分かります。これだけを見ると、機関投資家が購入するというよりは個人投資家が購入しているように見えますね。

アジアの富裕層はなぜ日本のマンションを購入しているのだろうか?大好きな日本にセカンドハウスを持つというニーズはあるものの、大半は純粋な投資目的である。

グローバル及び日本の不動産市場概観とアジア富裕層によるマンション投資動向
一般財団法人土地総合研究所ウェブサイトより

今後、東京がより外国人に暮らしやすい国際都市になった場合、投資目的も満たしつつ「大好きな日本にセカンドハウスを持ち」ながらアジアを行き来しながら生活する方々も増えるのではないかと考えています。

今回のブログでは、このような外国人クライアントからの住宅プロジェクトをどのように成功させるかについて書くことにしました。というのも、外国人クライアントとのやりとりがこじれた後、当事務所(小笠原正豊建築設計事務所)が代わりにプロジェクトに関与し収拾を図ったいくつかの事例があったからです。

(トラブル事例1)都心の超高級マンションリフォーム
シンガポール人オーナーが都心の一等地にあるご自身所有のマンションのリノベーションを計画。当初、マンション販売・管理会社が推薦した日本人設計者が担当したが、コミュニケーション不足で不信感が増し、プロジェクトが立ち行かなくなり設計契約解消。当建築設計事務所は、以前携わったリゾート・プロジェクトで知り合ったシンガポールの協働設計者からの紹介で、プロジェクトに参加することになった。

(トラブル事例2)郊外別荘改修
香港人オーナーの別荘。新築時にコストやスケジュールに関して問題があるプロジェクトだった。新築時にプロジェクト・マネジメントした会社や設計者ではなく、新たに仕切り直して改修を行うことを希望。当建築設計事務所へはプロジェクトマネジメントした会社の元担当者から打診がありプロジェクトに参加することになった。

プロジェクトの具体的詳細にはあえて触れませんが、いずれのプロジェクトにおいても、トラブルが発生したプロジェクトでは、進め方に共通の問題があることや、その共通の対応策があると考えています。それは単に日本語と英語という言語の問題だけではありません。情報共有や合意形成の方法がそもそも異なっているため、一度ボタンが掛け違うとプロジェクト自体が不幸な結果に終わることを意味しています。

私自身は米国の大学院で建築学修士を修了し、ニューヨークの建築設計事務所で登録建築家資格を取得するまで働き、設計業務と共に建築プロジェクトの進め方について経験を深めました。帰国して東京で建築設計事務所を開設したのですが、建築プロジェクトの進め方の点で、実は日米でいろいろと異なることが分かってきました。一度その面から整理してみようというのが本ブログの趣旨でもあります。

ここで言う外国人クライアントとは誰?

ここで言う外国人クライアントとは「大好きな日本にセカンドハウスを持つ」ことを目的とした方々です。当然、不動産は投資物件としての側面も持つため、値下がりすることは望んでいませんが、自己実現の一つとして自分好みの空間を実現されようとします。そのため仕様にもそれなりのこだわりをもち、安ければ安いほど良いといった考えは持っていません。一方で高ければ良いといった成金趣味でもなく、高いコストパフォーマンスにこだわる方々です。

また、そうした方々は国際的にビジネスをされている富裕層である場合が多く、かつ一定の教育レベルに支えられたロジックに基づいた発言をされます。日本では(簡単には)手に入らないヨーロッパやアメリカの建材や設備機器をご存知で、自分のビジネスパートナーと同じスピードによる反応を求める方々です。ちょっとハードル高く聞こえますね。。。

対象となる住宅プロジェクトは?

先程の「海外投資家購入住戸の価格帯内訳」の図からも分かるように、少なくとも5,000万円以上はするマンションのリノベーションが前提となるでしょう。また日本好きであったり日本に地縁がある場合には、日本に別荘を建てることもあるでしょう。

日本の大手設計事務所や大手ゼネコンには、英語でプロジェクトを行う能力を持つ設計者・施工者が数多くいます。しかし、マンションのリノベーションや別荘のプロジェクトは、プロジェクト単価が低いため、なかなか大手設計事務所や大手ゼネコンは参入することがありません。外国人クライアントは、英語でコミュニケーションが可能な小回りの利く建築設計事務所を探しても、なかなか巡り合えないのが実情のようです。

それでは、以下10のコツについてお話ししたいと思います。

1. メールでのコミュニケーション

まず最初に、一通のメールが届きます。それは外国人クライアントから直接かもしれませんし、あなたの知人からかもしれません。どのようなプロジェクトも、たいてい一通のメールから始まります。一般的にメールの返答には細心の注意を払って、できる限り誤解を生まないように正確かつ簡潔に書く必要がありますが、同時に大事なのはレスポンスの速さです。特にアジアのクライアントは、意思決定のスピードが特に迅速です。また英語の特性でもありますが、長々と情緒的な枕詞を並べるのではなく、簡潔にその概要を伝えることが重要です。

実はアジアのクライアントにとって、必ずしも母国語は英語でない場合も多く、簡潔な英語の方が書きやすく読みやすいと考えられます。これはシンガポールや香港のクライアントであっても基本的には同様です。メールのやり取りで誤解が生まれないように、余計な修飾語や枕詞は省き「AはBである」といった事実関係を明確に書くことが大切です。

また、やり取りの中でロジックが通ることが大変重要です。基本的に日本国内で一般的な「阿吽の呼吸」や「暗黙の了解」は通用しないと考えたほうが良いでしょう。そのため、少しでも不明確な内容がある場合は、徹底的に明確にしておく必要があります。当事務所としてロジックが通っている部分に対して、「そこをなんとか」と無理やり押し込むようなことはされた経験はありませんでした。たまたま相手が良かったからということもあるでしょうが。。。

一方で、少しでも不明確な部分がある場合は、「なぜなんだ?」と納得いただくまで説明する必要があります。「明解な説明があるものに対しての納得は得られる」というのは、つまり、「不明な点をそのままにして、なんとなくうやむやにしていたら受け入れられる」ということはありえないということです。外国人クライアントとの遠距離のやり取りで、空気を読んで察してもらうことは期待できないのです。

技術的問題は、YESまたはNOが明確になる場合が多いので、説明も容易であり意思疎通に関して特に問題が発生しづらいと言えます。しかし、担当者によって違いが生じる法規的解釈、マンション所有者同士の暗黙の了解、日本国内でなら通じる常識、といった事項は、かならずしもYESまたはNO、そしてその根拠が明確にならないため、説明することが大変難しい場合があります。こうした場合にも、最終的にはご納得いただけるように意を尽くして丁寧、かつ簡潔に、そしてスピード感を持ち淡々と説明・説得を積み上げていく必要があります。

2. 対面打合せ

メールでのやり取りが進みプロジェクトが開始すると、実際に外国人クライアントとの対面打合せの機会もやってきます。ここで大切なのは、客と業者、クライアントと設計者、といった圧倒的な上下関係ではなく、よりフラットな並列関係を構築することだと考えています。

英語という言語が、よりフラットな関係性を前提としているからかもしれません。自分は設計者という立場で専門知識に基づくサービスを提供し、外国人クライアントはそのサービスのために業務委託報酬を支払うというある意味対等な関係性であり、「お客様は神様です」というような一方的な上下関係は存在しないのです。

また、実務担当者を重視する傾向があることも特徴の一つです。日本の会社組織では、何層もの上下関係が存在し、立場が上の人は必ずしもプロジェクトにおける日々の詳細を理解していないかもしれません。外国人クライアントが欲しいのは、立場的に上の人の意見ではなく、実際に現場で実務に携わっている担当者の意見であることが多々あります。外国人クライアントは、自分の意思決定に対して役に立つ情報を持っているのは誰なのかを、冷静に見定めているとも言えるでしょう。

3. 前提条件の確認

これは外国人クライアントに限らずクライアント全般にも言えることですが、コストとスケジュールに関する事項をできる限り明確にしておくことが重要です。何がどこまでわかっているのかをあらかじめ伝えておくことによって、後々のトラブルになる要因を減らしておきます。

プロジェクトを進めるに当たり、その制約条件についても、明確にしておくことが重要です。例えば隣人の存在により、防音の仕様が変更になったり、工期が延長することがあります。これは近隣の状況について、あらかじめ十分に理解し、かつその内容を正確に外国人クライアントに伝えておく必要があるということです。

例えば、欧米のアパートメントではベッドルームの数だけバストイレが設置されている場合があるため、リノベーションでもバストイレの増設を希望される場合があります。マンション組合の規約にはバスルームの増設の禁止条項を記載していなくても、実質的に禁止している場合があります。このような場合、まず禁止されていることを丁寧に説明することが求められます。また仮に交渉によって増設が可能となった場合にも、複数のバスルームを同時利用することによって汚水があふれる可能性があることを外国人クライアントに認識していただいたり、水漏れした場合その補修工事や賠償について念書を書いていただくことが必要となることを丁寧に説明していきます。

法規の解釈についても、十分な説明が必要となります。マンション建設時に、建築基準法・消防法上そもそもどのような制限を前提にしているのか、改修することによって不適格になることはないのか、外国人クライアントの希望の仕様にするとなぜ不適格になってしまうのか等、納得いただけるまでご説明する必要があります。

同時に外国人クライアントの要求条件を明確にすることも大変重要です。何にこだわりがあるのか優先順位は人によってさまざま異なるのですが、外国人の場合、予想もしない部分にこだわりをお持ちの場合があります。例えば、先ほどの超高級マンションリフォームの事例では、日本の石材メーカーでは希望の石種が見つからず、結局シンガポールの石材メーカーにサイズ・仕上げ・並べ方を指定してカットしてもらい、輸入することになりました(Silver Beolaというとても上品な花崗岩です)。

また、日本の和風建物の建具は、軽いほうが良いため、往々にして開き戸などの建具も軽く作ってしまう場合があります。一方で、海外の建物に慣れた外国人クライアントだと、開き戸の重量が無いのは、重厚感が無く貧弱だと思われる可能性が高いのです。建具は毎日触れて動かすという意味では、施工後の満足感に直結している要素ともいえるだけに、このような感覚の違いは、とくに注意して確認しておく必要があります。

一方で日常生活においてかならず発生するごく小さな塗装の傷や、仕上がり面の平滑でない状況などは、それほど神経質にはならない場合が多い印象です。機能的に問題が生じている場合は当然改善しなければなりませんが、日常生活で生じるようなごく小さな傷は、実際には問題ないとお感じのようです。日本は施工クオリティが諸外国に比べ高いとされていますが、その基準で施工した場合には、そのクオリティに関しては問題にならないようです。

4. 契約には細心の注意を

こうした外国人クライアントとのプロジェクトでは、契約書を交わすことは必須です。外国人クライアントの方々は、グローバルにビジネスを営まれている方も多く、その世界標準が前提となります。文面もありきたりさではなく、プロジェクトの特性に合わせて、細かく記載していく必要があります。

契約書は、日本人クライアントの場合と同様に、通常設計者側で準備します。文面は日英併記でどちらかの言語を主とする場合と、英文のみで作成する場合とがあります。基本的に契約書は、契約に臨む双方が合意すれば良いのですから、どのような内容が記載されていてもよいわけです。当建築設計事務所はAIA(アメリカ建築家協会)の準備している契約書の雛形を適宜簡略化しつつ使うことにしています。さすが訴訟の国アメリカだけあって、とてもよくできています。

契約書を準備するに当たり特に重要だと思われる事項は、誰が何をするのか明確にすること、別途が何であるかを明確にすることと、問題が発生した時にどのように収拾するかを明確にすることです。これからプロジェクトを進めていこうとお互いに前向きな気分で始まりますが、必ずしも良い結果で終わるとは限りません。できる限り想像力を働かせて、最悪の事態に備えることが重要です。

私は設計者なので直接問題は発生しませんでしたが、施工者が準備した請負契約書に書かれたスケジュール遅延による違約金について、施工者と外国人クライアントとの間でもめたことがありました。例え英語の約款を使いまわして施工契約書を作成していたとしても、書かれている内容を最新の注意を払って再度確認することを怠ってはいけません。

5. 設計図書は細部まで描き込む

日本では実施設計図書が完成し、見積・工事契約ののち施工開始してからも、施工図作成を通じて設計情報がより詳細に決まっていきます。こうした施工図作成が前提となる日本の実施設計図書に比べ、米国のConstruction Document(CD)にはより詳細に情報が書き込まれています。これはCDが契約書の一部を成し施工目的の設計図書としての役割を果たすからなのです。

また仕様書(Specification)も、可能な限り必要な内容を詳細に書き込む必要があります。アメリカでは仕様書編纂者(Spec Writer)という専門職がいるくらい、仕様書の役割は重要です。仕様は施工費に直結しますから。

設計者は外国人クライアントの代理です。漏れが無いように設計図書を細部まで描き込む必要があります。施工中に設計変更が発生しても、その変更内容を十分に説明できるようにしておかなくてはなりません。例えば、ある建材がAからBに変更になった場合、外国人クライアントに説明可能です。しかし、そもそも描かれていなかった建材を入れて増額になった場合、外国人クライアントに対して説明ができません。十分な設計情報が盛り込まれていない図面は、そのまま設計者の不備となります。

日本で入手可能な建材については、できる限り早い段階で実物のサンプルを用意して確認してもらう必要があります。施工中の急な変更は、プロジェクト運営上大変大きなリスクとなります。必要に応じて、海外とサンプルのやり取りが発生しますが、こうした通信費もばかにならないので、しっかり別途料金として設定しておいた方が良いですね。

レンダリングイメージは、往々にして大変有用な情報共有のツールとなります。模型は送付するのに時間とお金がかかりますが、レンダリングイメージの場合は、データとして取り扱うことができるので簡便です。早い段階で、重要な空間のイメージを何種類か共有できていると、英語でのコミュニケーションもその分楽になります。

場合に応じて、スカイプミーティングも有効です。メールでのやり取りばかりではなく、たまに顔を見て話すことで、簡略で短いメールからでは必ずしも伝わらない細かい状況も伝えることができるようになります。

6. 納得いく施工者選定

コストとスケジュールは、プロジェクト運営の上で、外国人クライアントが最重要視される事項と言えるでしょう。一般的に、外国人クライアントは相見積もりを望むのですが、その際、相見積もりによる見積内容の違いを細かく精査し説明する必要が出てきます。ここで説明が難しいのは「一括」による見積金額算定と「出精値引き」です。

先程、設計図書は細部まで描き込むことを述べましたが、見積りについてもできる限り詳細に記載することを求められます。施工中に発生する可能性のあるリスクや調整しろとしての「一括」表記は、外国人クライアントにとってはよく理解できない内容であり、納得するまで質疑が繰り返されることがあります。

また同様に「出精値引き」も外国人クライアントにとってはよく意味が分からない内容です。正直なコストを積み上げたのならば、その金額が正当な施工費であるはずです。しかしながらあえて「出精値引き」をするのは、何かしら裏で金額を操作しているのではないかという疑念を抱かせてしまいます。

日本の建設業界は重層下請けの産業構造をしているため、元請けであっても実際の金額を把握しずらいという構造的課題があります。こうした日本の曖昧な状況を、外国人クライアントに理解していただくのは大変困難です。

また海外プロジェクトでは、一般的にContingency(コンティンジェンシー:不測の事態が生じたときのための準備金)をあらかじめ準備しておくことが多いようです。どのような規模の建築プロジェクトであれ、不測の事態が発生せず全てが予定通り行われるプロジェクトはありません。あらかじめContingencyを準備しておくことにより、予備費を施工費の中にしのばせておくことも必要が無くなり、コストへの透明性が高くなります。こうした社会システムの違いを説明し、ご納得いただくのも至難の業です。

7. 円滑な現場対応

日本では大工・棟梁の文化があるため、ゼネコンを始めとした施工者の立場や信頼が高いのではないでしょうか。一方、米国や英国では、建築家・設計者の立場や信頼が日本に比べて高いため、外国人クライアントは母国同様の関係性を設計者に求め、クライアントの代理人として、施工者を十分に監理することを期待します。つまり、施工中であっても、設計者の方が施工者よりも外国人クライアントに対して距離が近いことを意味します。

現場の状況については、外国人クライアントに対して、迅速かつ正確に報告する必要があります。その場合、どのような問題が起こっているのか、どのような問題が発生しそうなのかとともに、どのように解決することが可能なのかを理解した上で、誤解が生じないよう報告することが求められるため、常にそれらを念頭に施工監理を行う必要があります。

一般的に、施工時に設計変更が生じることは避けられません。その場合、契約書の一部を成す実施設計図書からどのような内容が変更になったのかを明確にする必要があります。時間が限られる中、できる限り早い段階で設計変更内容に対する金額変更見積りを施工者に作成してもらい、外国人クライアントの承認を得たうえで、正式に設計変更指示を行う必要が出てきます。施工スケジュールがタイトな中、施工者に協力して見積りを作成していただかないと、後々クライアント承認のないまま設計変更したとしてトラブルにつながる可能性もあります。逆にこまめにコストに関する監理を行うことにより、外国人クライアントからの信頼も厚くなることにつながります。

海外にお住いの外国人クライアントは、必ずしも頻繁に現場に赴くことができません。ここで仕上材の見え方が場所によって異なることに留意する必要があります。特に外部の色や素材の感覚は、空の色や太陽の強さによってかなり変わって見えます。例えば、強い日差しの下では映えるカラフルな色も、日本の柔らかな日差しの下では強すぎて見える場合があることは皆さんも経験されているのではないでしょうか。外国人クライアントの現場来訪が限定されているのならば、その時にサンプルをできる限り見てもらい承認を得る必要があります。そのためのスケジューリングは、とても重要です。

8. 引渡しはすみやかに

竣工に近づいていくと、どのように引渡しをおこなうか、施工者と調整し、外国人クライアントと調整する必要が出てきます。その時にいつも頭を悩ませるのは、設備機器の取扱説明書です。外国人クライアントは、当然、取扱説明書を読むことができません。また、機器表面に書いてある日本語の操作ボタンも読むことができません。ミーレやAEGといった海外製のキッチン設備機器の場合は良いのですが、日本製のテレビやAV機器・電話機・洗濯機などは全く未知の機器となります。場合に応じてテプラを貼ったり、部分的に翻訳してラミネートする場合もあります。これらの作業が発生することを理解した上で、機器選定を進める必要があることを忘れてはいけません。

また、カギの引き渡しのタイミングも重要です。外国人クライアントは、これらの建物をあくまでも別宅として使用するため、貴重なものはあまり設置していません。そのため、施工者がカギを保有していることに対して、そこまで神経をとがらせていない場合もあります。正式な引渡しと工事金額支払いが完了した後でも、カギの引き渡しのタイミングを逸すると、手切れ悪くずるずると連絡されて部分補修を求められる場合があります。そのためにも、施工完了時の取り決めについては、細かく定めておく必要があるでしょう。

9. 遠隔での維持管理はどうするの?

この点は、各外国人クライアントに応じて大きく異なると考えられます。日本に別荘を持とうとする外国人クライアントは、日本にもビジネスの関係があり、そこで得られた知人を通じて日本の維持管理会社に依頼する場合があります。直接の知人を通じなくても、港区近辺には、こうした維持管理サービスを英語で代行する会社もいくつかあるようですので、それらを利用することもあるでしょうが、郊外や田舎の場合は大変でしょうね。。。

カギやセキュリティの問題だけでなく、電気・ガス・水道代などの口座振替も設定しておかないと、使いたいときに別荘として使うことができません。居住していない外国人が日本国内の銀行口座を持ち、口座振替を設定するのはとても面倒なようです。クレジットカードでの支払いもできるようではありますが。

10. 業務委託料を請求する

建築設計事務所あてに設計・監理業務委託報酬をお振込いただくにあたり、いくつか注意する点があります。外国人クライアントの方が業務委託料を振込む場合、振込元の銀行口座が必ずしも外国人クライアントの口座ではないかもしれません。時には、第三国にある外国人クライアントの資産運用会社の別個人名義から振り込まれる可能性もあります。どのような状況であれ、契約書にその内容を残し、かつ、その内容で請求書を作成する必要があります。後から税務署から問題を指摘されないように、しっかりと書類を残しておくことが必要ですね。

また、送金手数料や消費税についても、あらかじめ取り決めておかなくてはなりません。送金手数料も積もればそれなりの金額になりますし、消費税を業務委託料の中から支払うことになったら、泣くに泣けません。

外国人クライアントと当事務所だけの関係であれば問題はないのですが、外国設計者を元請けとして協働でプロジェクトに取り組んだ際、税制が急に変更になり外国設計者がその国で課される税金をどうするか問題になったことがありました。契約上こちらは外国設計者の下請けになるわけですから、外国の税制の変更リスクまで含めて契約を結ぶ必要があるわけです。

なぜ当建築設計事務所では問題が起こらなかったのか?

コミュニケーションに配慮し適切にプロジェクトを進めたからといって、必ずしも建築プロジェクトが上手くいくわけではありません。当建築設計事務所で問題が起こらずにプロジェクトを進めることができたのは、実はニューヨークで勤務していた建築設計事務所の影響が強いのではないかと考えています。

Pei Cobb Freed and Partnersという建築設計事務所に勤務していましたが、この事務所はもともとI M Pei and PartnersというI M Peiが率いた建築設計事務所です。代表作の一つが、パリのルーブル美術館のガラスのピラミッドといえば、ご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。ワシントンDCのナショナルギャラリー東館や、香港の中国銀行など、世界中でハイクオリティのプロジェクトを行ってきた実績があります。

NYの建築設計事務所勤務時代に学んだ素材やディテールは、北米限定というよりはインターナショナルな経験を基に培われた層の厚いものだったと考えています。こうして得られた素材やディテールが、日本にて再解釈され各建築プロジェクトに反映されることになりますが、インターナショナルな経験を持つ外国人クライアントは、出来上がった住宅に対して、ある一定の共感を示し納得されているのではないでしょうか。

まとめ

振り返ってみましょう。

1. メールでのコミュニケーションでは、ロジックが通ることを重視する

2. 対面打合せでは、フラットな関係性を心がける

3. 前提条件として、プロジェクトの制約条件と外国人クライアントの要求条件を確認する

4. 契約時には、誰が何をするのか、別途業務が何であるか、問題が発生した時にどのように収拾するかを明確にする

5. 設計図書は細部まで描き込み見積り落ちがないようにする

6. 施工者選定時の見積もりでは「一括」と「出精値引き」をできる限り排除

7. 現場対応時には、迅速・正確に連絡する

8. 引渡しはすみやかに行う

9. 維持管理の方針もあらかじめ確認しておく

10. 業務委託料を請求するときは手数料は税金に注意する

ここに記載した10のコツは、当建築設計事務所が受注した、ごく限られた数の特異なプロジェクトを前提とした話なので、外国人クライアントとのプロジェクト全てに当てはまるわけではありません。しかしながら、「スピード感とフラットな関係性」や「情緒ではなく常にロジックで」という点については、様々なプロジェクトに当てはまるのではないでしょうか。今後日本の経済力が低下し、外国人クライアントが増加する可能性が高い中で、少しでも参考にしていただければ幸いです。

このブログでは住宅プロジェクトに関して記しましたが、外国人クライアントを扱うほかの業態ではどうなのか、東京以外の地域ではどうなのか等々、興味があります。コメントをお待ちします。