家を建てるとき、誰に相談しますか?

あなたは家を建てるとき、最初に誰のことを思い浮かべますか?昔からなじみのある大工さんかもしれません。新聞広告のチラシにあった町の工務店かもしれません。あるいは、TVの宣伝でみかけるハウスメーカーかもしれません。日常生活の中で頻繁に目にする相手には、気軽に相談しやすそうですね。

工務店は、数名から数十名くらいからなる設計施工を請負う会社です。いわゆる町の大工さんが所属するのは、こうした工務店です。電気屋さん水道屋さんといった複数の下請け業者を束ねる施工管理者を中心に、設計者や事務系職員から成り立つ組織です。地元に根差して営業する場合が多いため、地元に代々住み続けている方の中には、親の代から同じ工務店とお付き合いされている方も多いかもしれませんね。

いらすとやさんのイラスト

ハウスメーカーは、工務店より大規模の設計施工を請負う会社です。全国規模で展開する組織で、自社の工場やサプライチェーンを持ち、部材の大量生産により効率化を図ります。工法(建物の組立て方、造り方、施工の方法、広義には構法も含む:建築大辞典より)に特別な認定(型式認定など)を取得することによって、独自の仕様を確立しているハウスメーカーが多々あります。施工部門とともに、設計部門や事務系職員から成り立つ会社組織です。工務店やハウスメーカーについては、今後より詳細な情報をお伝えしたいと思います。。。

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設計と施工を分けることのメリット

ここで、工務店とハウスメーカーの共通点は何でしょうか?会社規模も違いますし、出来上がる家の仕様も異なります。昔ながらの棟梁のイメージが強い工務店と、スーツを着たセールスマン/セールスレディのイメージが強いハウスメーカーでは、かなり違いそうですよね。しかし両者で共通しているのは、「設計も施工も単一の会社が行う」ということです。建築業界では、これを「設計施工」と呼びます。

国家資格では「一級建築士」とか「二級建築士」と呼ばる国家資格を持った人々が、「一級建築士事務所」とか「二級建築士事務所」を開設し、設計業務だけを行う場合があります。このような場合には、「設計業務」は建築士事務所が行い、「施工業務」は工務店などの建設会社が行請け負います。建築業界では、このような状況で建築物を建てることを「設計施工分離」と呼びます。

いわゆる「建築家」と呼ばれる人たちは、このような建築士事務所を運営し、設計業務だけを行います。場合によっては、建築以外を対象として、設計業務を行うことがあります。ちなみに、実は「建築家」はいわゆる呼称であり、国家資格ではありません。建築家の業界団体である日本建築家協会(JIA)(私も所属していますが)は、「建築家とは」というタイトルで、建築家についてわかりやすくまとめてあります。建築家は、医師・弁護士・会計士などと同様なプロフェッショナル(専門職)として、必要とされる専門性も公共性も持たない人が提供する、質の低いサービスから消費者を守る役割を果たします。

「建築家(architect)」とは建築の設計や監理、その他関連業務など建築関係のプロフェッショナルサービスを提供する職業です。そして建築家協会とは建築家による職能団体です。
では、プロフェッショナルサービスとは何でしょうか。そして職能団体とは?
プロフェッショナルサービスとは高度に専門的で、公共性の高いサービスのことを言います。たとえば医師、弁護士、建築家、会計士等の提供するサービスがそれにあたります。(日本建築家協会ウェブサイトより引用)

重要な役割に監理業務があります。例えば、せっかく建てた家が、地震で簡単に倒壊したり、火事であっという間に燃えてしまったりしたら困りますよね。建築家(建築士)として専門の技術を有する者が、施工者とは独立した立場で、消費者である施主の代理として施工をチェックするわけです。

監理:実施設計図書を中心に、適正な工事契約の締結に協力し、設計意図を実現させ、工事の施行が契約に合致するよう、公正な立場で工事施工者を指導する建築設計の業務。(建築大辞典より引用)

設計と施工を分けることのメリットは、こうした監理業務以外に何かあるのでしょうか?その中の筆頭に、「相見積り」が挙げられます。これは設計がある程度終わった段階で、複数の厳選された施工者から見積りを集め、価格が最も安い業者を選定することです。せっかく高い買い物をするのですから、いろいろと比較して選びたいですよね。

設計が詳細になればなるほど、住宅建設にかかるコストは具体的かつ詳細になります。施工に係るコストを、「坪単価XX円」といったざっくりとした算定ではなく、各部材ごとに数量を計算し単価を掛けることによる算定によって詳細に見積もることができるようになります。

このように詳細な見積がある場合、変更にも適切に対応することができるようになります。例えば、あるタイルをAからBへと変更した場合、面積が変わらなければ、単価を変更するだけでその増減を算定することができます。ただし施工中にこのような変更を行う場合は、既に職人さんを手配済みの場合や、モノを発注している場合もあるので、必ずしも単純な増減になるわけではありませんが。

設計と施工を分けることのデメリット

一方、設計と施工を分けることのデメリットは何でしょうか。まず工期の確定に時間がかかることです。設計を進めて図面を作成するのに時間がかかります。そのため、詳細まで設計を進めてしまうと、あとあと設計の手戻りがある場合があります。(これを避けるためにいくつか方法がありますが、それについては別途ブログに書く予定です。)従って、スケジュールに大きな制限がある場合は、「設計施工」の方が適しているかもしれません。

また施工費に関して不確実性が高いことも、デメリットのとして挙げられます。「設計施工分離」の場合、特に設計段階において施工者が決定していないため、概算は算出できても正確な施工費を算定することができません。一方で「設計施工」の場合、確定した予算を絶対的上限として建物を提供することが可能となります。これは、工務店やハウスメーカーに多くの方が依頼する大きな理由の一つでしょう。

「設計施工」では、コストやスケジュールが確定しやすいため、良いことづくめのようですが、かならずしもそうではありません。詳細な設計ではなく無く基本的な(不十分な)設計を基に契約されているため、建材や部位部材詳細の仕様を落として建設しても、施主は文句を言うことができません。そもそも契約図書にそうした情報が含まれていないのですから。結果、工務店やハウスメーカーが利潤を確保した上で、残った金額で建てられ、質が下がる可能性があります。

「設計施工」と「設計施工分離」のどちらが良いか、一概に断定することはできません。それは施主の要望にどちらが適しているかによって決まります。コストとスケジュール重視であれば工務店やハウスメーカーに「設計施工」で依頼するのが良く、質重視でデザインにこだわりたいのであれば「設計施工分離」として、専業の建築設計業務を行う建築設計事務所に業務依頼することが良いと言えます。

(追記)

現在私は、ニューヨーク州登録建築家ライセンスと日本の一級建築士資格を持ちながら、東京都文京区にて建築設計事務所を営んでいます。【保存版】家を「設計事務所/建築家」に依頼して建てるまでの流れについて説明します により包括的な内容を記載しています。是非あわせてご覧ください。