「在宅勤務」の流れから、テレワーク環境やホームオフィス、さらには住環境全般を見直そうとしている方も多いのではないでしょうか?シンプルながらも明るい色あいのテキスタイルや肌触りの良い素材に囲まれた「長時間過ごしても快適な室内」とはどのような空間なのでしょうか?キッチンのみならず、北欧のデザインテイストに興味ある方に読んでいただければと思ます。

北欧スウェーデンにおける住空間は?

過去のブログではIKEAのキッチンについて、特ユーザー自身がカスタマイズできる仕組みについて書きました。今回のブログでは、実際にストックホルム市街地にあるIKEA Stockholm City – Kitchenというキッチン専門のショールームと、ストックホルムの都心から車で20分ほど郊外に行ったところにある IKEA Möbelvaruhus Kungens Kurvaの2か所を訪れて、スウェーデンと日本のIKEAのキッチンを比べることによって、文化やテイストの違いがIKEAの店舗にどのように表れているのか、実際に行って確認してみました。

例えば、インスタグラムにてキーワード#ikeakitchenで調べてみると、すっきりとしたさまざまなキッチンが表示されます。

https://www.instagram.com/p/B4vNUqKlEb0/?utm_source=ig_web_button_share_sheet

https://www.instagram.com/p/B4vGk6tIvFU/?utm_source=ig_web_button_share_sheet

https://www.instagram.com/p/B4u0puJK7jm/?utm_source=ig_web_button_share_sheet

どこの国か良く分かりませんがヨーロッパの方々のインスタグラムアカウントのようです。なぜ日本のIKEAではこのようにすっきりとしたキッチンを作り上げることができないのでしょうか?

端的に言うとIKEAのキッチンは国の違いを問わず、

ユーザーが自分で組み合わせを考えて構成することができる

材料費・施工費とも価格が透明である

の2点において優れていると考えています。今回、本場スウェーデンのIKEAを訪れることによって、

特に厨房機器が異なるため日本よりも洗練されたデザインであったこと

キッチンのみならず収納などのキャビネット全般にセミオーダーが可能であること

が分かりました。以下、実際に具体例を基に説明したいと思います。

ストックホルム市街地にあるキッチン専門ショールーム IKEA Stockholm City – Kitchen

日本同様、スウェーデンのIKEAも一般的に郊外に立地していますが、このキッチン専門のショールームはストックホルムの市街地にあります。中に入ると、様々なキッチンが展示されています。

カントリー調の装飾的なキッチン
シンプルで機能的なキッチン 金色の水栓金具が目立ちます
スウェーデンらしい白と黒を基調としたキッチン
緑色のキッチン 日本ではあまり見かけないカラースキームです

これら数々のキッチンが並ぶ中、日本同様カタログが並んでいます。

スウェーデン語なので、全く読めませんが、日本で配布されているキッチンのカタログに近いものでした。

打ち合わせブースは家形をしていて、親密感を出すと同時に、話し声を空間全体に響かせない工夫があります。

キャビネット用の面材の展示エリアもありました。

さまざまなつまみも準備されています

ちなみにこれは木のカウンター材です。どれが芯まで木の無垢材か、あるいは薄い突板を芯材に張り合わせている材か分かりますか?拡大して見てみましょう。

この5枚の木のカウンター材のうち、一番上と一番下は集成材で、そのほかの材は薄い突板を芯材に張り合わせている材です。注意深く木目が連続しているかどうか見ると分かります。

このショールームで一番力を入れていたのがこの黒いキッチンです。
写真ではダイニングセットの裏にあるため、ちょっと見づらいですが、一見黒いつや消し仕上げのキャビネットが並んでいるだけのように見えます。もう少し近づいてみてみましょう。

一番左にあるのは冷蔵庫です。

キャビネットと同じ面材で仕上げてあるので、冷蔵庫の存在が一見分からないのですが、きれいに隠されています。奥行きもカウンターや吊戸棚とあっています。

その隣には、黒いシンクと黒い水栓金具が組み合わせてあります。日本では、黒いシンクがなかなか手に入りません。通常はステンレスシンクにクロームメッキの水栓金具になるところです。右下には幅600㎜の食洗器がついています。システムキッチンの食洗器の幅は通常450㎜ですから、ゆとりがありますね。

IHクッキングヒーターのデザインも、シンプルで美しいです。エッジの納まりもきれいですね。

IHクッキングヒーターの下は引き出し式収納となっています。魚焼き機が設置されていない分、収納量も大きいです。

カウンター下のキャビネットは引き出し式です。シンク下をうまく避けるように計画されています。

上の吊戸棚は、プッシュラッチ式で、余計なつまみがありません。またキャビネットの面材は手垢がつかないようなマット仕上げになっていました。

一番右側のピカピカした鏡面仕上げは、ビルトインの電子レンジ(?)とオーブンです。

開くとこんな感じになります。

この黒いキッチンは、ドイツのRed Dot Award 2018を取得したキッチンだったようです。このようにシンプルで美しいデザインが評価されていることに納得です。

レッド・ドット・デザイン賞(レッド・ドット・デザインしょう、red dot design award)は、ドイツ、エッセンのDesign Zentrum Nordrhein Westfalen(ノルトライン=ヴェストファーレンデザインセンター)が主催する国際的なプロダクトデザイン賞である。プロダクトデザイン、デザインエージェンシー、デザインコンセプトのジャンルにおいて賞が存在する。(Wikipediaより)

日本の家電製品は、欧米の家電製品に比べ、細かい機能がたくさん付加される傾向があります。特に冷蔵庫や電子レンジなどには細かい特殊機能がたくさん備わっています。製氷機やチルド機能はそれなりに便利ですが、他にも良く分からない多くの機能が備わっていますが、それらはそもそも本当に必要な機能なのでしょうか?

このようにシンプルな冷蔵庫やIHや電子レンジを見ると、実は「シンプルで使いやすく適正価格である」というユーザーの最重要ニーズを、日本の家電製品はないがしろにしているのではないかと考えさせられます。特殊機能を備えれば売れるというサプライ・プッシュ型の商品開発からの脱却を期待したいところです。

ストックホルム郊外にあるIKEA

次に、ストックホルム郊外にあるIKEAに行ってみました。市街地から20分程度かかるところにありました。

青地に黄色いIKEAのロゴは世界共通のようです。初めて来た感じがしません。早速建物内に入ってみましょう。

まず建物に入ってみる

ロビーの吹き抜けを4階まで上がるエスカレーター
キッズコーナー

ロビーは大きな吹き抜けとなっていました。おなじみキッズコーナーも併設されています。

全館を示す地図 東京近郊のIKEAより大きい

地図で示されているように、左側に4層重なっているのが展示エリアです。日本のIKEAではショールームやキッチンなどが展示されている2階部分に相当します。右側に広がっている長方形の部分は、日本のIKEAでは食器や小物さらに倉庫がある1階部分に相当します。それではエスカレーターで4階まで登ってみましょう。

カートとショッピングバックはエレベータで運ばれてきます
おなじみの黄色いショッピングバック

エスカレーターを降りると、買い物袋を配布するエリアがありました。コンパクトなカートで実用的です。取り回しもしやすそうです。

モデルルームいろいろ

どのモデルルームにも共通して言えることですが、日本のモデルルームと比べ、展示してある商品が圧倒的に少なく、あるいは、色がモノトーンか淡い色に限定され、シンプルな住環境を示していることです。おそらく、スウェーデン人あるいは北欧全般の人たちの一般的な暮らし方がシンプルであることを示唆しているのかもしれません。

様々なモデルルームがある中で、25㎡という名前の付いた部屋がありました。スウェーデンの住空間の一つの標準的なサイズなのかもしれませんが、詳しいことは分かりませんでした。

SONOSと照明

SONOSは、他社のサービス(iHeartRadio、Spotify、MOG、QQ Music、Amazon Musicなど)が利用可能な、WiFiワイヤレスネットワークを利用したスマートスピーカーです。(そういえばSpotifyはスウェーデンの企業ですね)

最近普及してきたSONOSと照明を組み込んだ商品も販売されていました。部屋の雰囲気に大きな影響を与える音と光ですが、このように組み合わされてIKEAから提供されているところが興味深かったです。

ちなみに価格は、1,995スウェーデン・クローナで、日本円でおよそ22,500円くらいです。

レストラン

レストランのメニューです。おなじみのミートボールはありますが、微妙にラインナップが異なるみたいですね。

昇降式のデスク

デスクも天板と脚を個別に選択して組み合わせることができます。

デスクエリア

まずは天板を選びます

次に脚を選びます。

昇降式の机もありました。腰痛持ちの方向けに需要が伸びている製品で、北欧で訪れた設計事務所でも使用している所が多かった印象を受けます。このような商品が既にIKEAで売り出されるくらい一般的に普及していたとは知りませんでした。

5,795スウェーデン・クローナは、日本円でおよそ65,000円くらいです。日本でもオフィス家具メーカーから売り出されていますが、まだまだ高価なのではないでしょうか。

自分で組み合わせる収納キャビネットいろいろ

このエリアでは、テレビ台のようにリビングまわりに設置する収納キャビネットを扱っていました。

備え付けのPCによって自分で組み合わせを試してみることができます。

組み合わせの手順が示されています
面材を選びます
スライドレールや丁番などの金物を選択します
オプションの液晶TV取付用金物を選択します

次のエリアではワードロープを扱っていました。

自分で組み合わせを選択することができますが、店員が巡回しており適宜アドバイスを仰ぐことができます。

スウェーデン語を読むことができないので、はっきりしたことは分かりませんが、運送手配、組み立て手配、ファイナンス手配を行っていることを示しているのでしょう。

組みあがると、このようなワードローブが出来上がります。

自分の好みの面材を選択して行きます。仕上げも多くのパタンがあるようです。

上の写真では、仕上げとともに基材にどのような違いがあるのか説明しているのでしょうね。

棚下灯も組み込むことができます
金物も選択できます

このように様々な収納キャビネットを自分で組み合わせて注文することができます。出来上がったものの中から選択するのではく自分で組み合わせることによって、自分の空間に適した様々な収納キャビネットが手に入ります。

キッチン売り場では

日本でもおなじみのMETODメトードのシステムが売られています。キャビネットの高さについても、分かりやすく展示されています。

高さがどの程度なのか確認することができます。

ベースキャビネットの使い勝手も確認することができます。

キャビネットの面材も展示されています。日本とあまり変わらない印象です。

ベースキャビネット用の脚も日本同様です。

様々なつまみも売られています。

様々なサンプルの中からカウンターの天板を選択することができます。

このように1㎝くらいの厚みを持った材料によって作られている天板もあれば、

このように1㎜程度の厚みの材で小口を処理した天板もありました。価格も4倍程度の違いがあるようです。

クックトップはIHが主流のようですが、ガスも売られていました。いずれにしても、商品としてデザインが洗練されています。

様々な壁埋め込み式のオーブンと電子レンジもあります。すっきりしていて見た目もきれいです。

冷蔵庫は1枚ドアか2枚ドアです。右側はステンレスヘアライン仕上げで、シンプルなデザインです。一番左側は、面材をキッチンキャビネットと合わせることによって壁埋め込みができるタイプですね。ストックホルム市街地のキッチン専門のショールームで見たタイプです。

水栓も並んでいましたが、日本と比べて同程度かやや少ないセレクションだと感じました。冷蔵庫や電子レンジといった電気機器に比べて、日本の基準に合わせて改造し販売しやすいのでしょう。

いろいろなシンクが並べられています。様々な種類の天板が用意されているので、シンクと天板の組み合わせを確認することができます。

キャビネットの中にどのように収納が可能なのか、透明なアクリルの扉にすることによって分かりやすく示しています。

ゴミ箱もリサイクルに応じてどの程度の収容量があるのか、分かりやすく示しています。

倉庫へ

日用品が売られている1階部分を抜けていくと、おなじみの倉庫へとたどり着きます。大きさ自体にはあまり違いが無いようでした。

倉庫を通り抜けて会計へと進むビルディングタイプは、共通のようです。

まとめ

既にいくつかIKEAのキッチンに関するブログを書いていますが、私はIKEAのキッチンに興味があります。キッチンそのものに対する「おしゃれだ/おしゃれでない、カッコいい/カッコ悪い」といった物理的な側面ではなく、「一般ユーザーが自分で選択して構成を決定することが可能なセミオーダーシステムである」という点に興味があるのです。

将来さらに加速すると思われる

情報化による価格の透明性化

職人不足による機械化の浸透

ユーザーのITリテラシーの向上

といった状況にとても適したシステムではないかと考えているのです。

IKEAのキッチンは、日本のキッチンメーカーが提供する「工業製品としてのキッチン」よりもカスタマイズの自由度が高いと言えます。「工業製品としてのキッチン」は、細かい特別注文に対応することは難しく、また特別注文ができたとしても高額になる傾向があります。またカタログに記載されている定価と実際の販売価格に乖離があり、価格が不透明です。

IKEAのキッチンは、建築家やインテリアプランナーらとともに、詳細にこだわりを持って作りあげる「工芸品としてのキッチン」ほどの自由度はありません。しかし大多数のユーザーは「シンプルで使いやすく適正価格であれば良い」キッチンを求めているのであり、そこまでの細かいニーズを持っていない場合がほとんどでしょう。

現在の日本における生産システムでは、現在日本でIKEAが提供している生産システムが必ずしも潤滑に機能していない状況もありますが(以前の別ブログ参照)、この将来的可能性は否定できないと思います。いずれキッチンのみならず、住宅・建築物におけるその他の部位・部材にも同様のシステムが適用可能となる日が来るかもしれません。

例えば、最近の記事で、

2008年に米国で創設され、2017年9月にスウェーデン発の大手家具量販店イケア(IKEA)に買収されたオンデマンド型の家事代行サービス「TaskRabbit(タスクラビット)」は、2019年11月からドイツに進出する計画を明らかにした。(TECHABLE記事より)

とあります。組み立て式の商品を扱うIKEAとオンデマンド型の家事代行サービスが提携を結ぶとき、IKEAの組み立て式家具はより一般ユーザーに近い存在となるでしょう。

ちなみに、IKEAの宣伝になってしまっているようですが、IKEAからは一銭もいただいていません。念のため。。。