世界で売り上げNo.1のキッチン

NYの設計事務所(Pei Cobb Freed and Partners, LLP)の先輩建築家が、自宅の改修をするとき、IKEAのキッチンを採用しました。「かなりコストパフォーマンスが良いんだよ」と、力説された記憶があります。キッチンに対して、こだわりがないわけではなく、ご自身で料理もされるし、冷蔵庫はSub-Zero(米国製最高級冷蔵庫)を採用するくらい相当こだわりがある方です。実際のところ、IKEAのキッチンのメリットとデメリットはどのようなものなのでしょうか?年末・年始に、IKEA新三郷店とIKEA Tokyo-Bay(船橋)店に行ってみました。(ちなみにアメリカでは、イケアではなくアイケアと呼んでいました。NIKONをニコンではなくナイコンと呼ぶみたいに。)

1970年代から日本進出を試みたが失敗。2001年に日本再進出を果たし、徐々に店舗を伸ばすことになります。そういえば、大学生のころ屋内スキー場ザウスに行ったことを思い出しました。なつかしいなぁ。

後に2001年(平成13年)に日本再進出を決定し、2002年(平成14年)7月に日本法人「イケア・ジャパン」を設立。1号店(イケア船橋)が2006年(平成18年)4月24日に、千葉県船橋市にあった屋内スキー場・ららぽーとスキードームSSAWSの跡地の一部を利用してオープンした。イケアストアオープンの恒例になっている「丸太カット」(テープカットの代わりである)も行われた。その後、2008年にかけて関東・関西地方に出店し、5店舗まで拡大した。(Wikipediaより)

お約束のエスカレーターで2階に上がると、フロア全体の地図があります。「IKEAの家具や小物を実際の部屋で使用している状況を示す展示」を見ながら、迷路のようにくねくねと曲がる経路をたどります。それも経路ができる限り長くとるようにして、かつ散歩しているような楽しい気分にさせます。はしゃいでいる親子連れや、真剣なまなざしのカップルがたくさんいました。

面白いなと思ったのは、テーマごとに小部屋のショールームを作っていることです。家具や小物が実際に自分の部屋に設置されたときどのように見えるか、ふつう分かりにくいですよね。こうして購買者の立場に立って商品を陳列しているのは、すごいですね。最近はAR(Augmented Reality拡張現実)で、自分の部屋に家具を置いたらどのように見えるかサービスを提供しているみたいですが、今後こうした売り場の製品と、どのように関連付けていくのか興味あるところです。

しばらく進むと、期待通りのバナーがかかっていました。キッチンの評価が高いと聞いていたのですが、世界で売り上げNo.1とは知りませんでした。24秒に1台売れるキッチンってすごいですね。

本当かどうかわからないので、IKEA本社のサイトを見てみました。着実に売り上げを伸ばしていますね。キッチンの売り上げが世界でNo.1ということもうなずけます。

とりあえず、近くにいた店員さんに、話しかけました。根ほり葉ほり伺ったので、一般の購買者じゃないと一瞬怪訝そうな顔をされましたが、「設計してます」と身分を明かすと、親切にいろいろと教えてくれました。

IKEAのキッチンは一般的システムキッチンと何が違うのか

まず、IKEAのキッチンは一般的システムキッチンと何が違うのか聞いてみたところ、「様々な部材を色々と選んで組合せできること」が一番の違いだそうです。そういえば、一般的なシステムキッチンは、面材などを選択できても、細かい部材までは選択できません。自分で細かいところまで組み合わせたいこだわりがある人にとっては、IKEAのキッチンはとても良いかもしれません。各部材をそれぞれ選択することができる、かつ、それらの価格が部品ごとに明確になっていることは、一般的システムキッチンとは大きく異なります。
実際のキッチンのプランニングは、以下の流れで進みます。

1) まずキャビネットを選びます。幅は15cm、40cm、60cm、75cm、80cm、90cmのモジュールから選ぶことができます。

2) 次に脚をえらびます。キッチンカウンターの高さを選択できますね。

3) さらにワークトップを選びます。メラミン、人工大理石、ステンレスと共に、木製のワークトップを選ぶことができます。

4) 次に引き出しと扉を選びます。さまざまな面材がありますね。

5) 最後に取っ手とノブを選びます。日常的に触る所なので、使い勝手の良い気に入ったモノを選ぶとよいですよね。

さらに「こうしたキッチンは、日本仕様とかあるのですか?」と伺ったところ、これらの部材は全世界共通だそうです。以下の円グラフを見ると、日本でこうして売られているキッチンなんて、とても小さなシェアしかないんですね。世界標準の部品が、遠い極東の日本の市場までたどり着いているわけです。

ただ、設備機器は日本基準にあわせる必要があります。私自身も、何度も海外製品の設備機器を輸入しようとして壁に当たりました。例えば、このガスレンジと魚焼き機は、スウェーデンっぽい名前がついていますが実はハーマン製です。まあ、ガスレンジに組み込んだ魚焼き機なんて、日本にしかないでしょうね。

このIHをよく見ると日立製ですね。設備機器に関しては、海外製品を使うよりも、アフターサービスの点で安心であることは事実です。日本では炒め物などのように、キッチンを海外(欧米)に比べハードに使うことが多いようですから、そうしたニーズに対応した設備機器が必要になります。ちなみに、「IHとガスどちらを選択されるお客様が多いですか?」とうかがったところ、「ガスの方が多いですね」とのことでした。オール電化住宅でなければ、積極的にIHにされないようです。(これはあくまでもIKEAのキッチンの場合ですが。)

同様に、このレンジフードは富士工業製ですね。炒め物をしても十分に排気できるレンジフードが必要です。ちなみにNYのアパートでは、レンジ上で吸気してフィルターを通り、すぐ頭の上で排気している製品をよく見かけました。室内で空気を循環させているだけであることに気づいたときは、かなりのショックでした。。。

それでは、水栓金具はどうでしょうか。展示されていた中では、2本の水栓および1本の浄水器のみがTOTO製で、その他全てIKEAオリジナルの海外製だそうです。ちゃんと日本規格適合品(JWWA) だそうですよ。

最後に、TOTOの水栓金具と、IKEAオリジナルの海外製水栓金具との違いについて、聞いてみたところ、①浄水器はTOTO製のみ、②カウンター天板が厚いため、TOTO製を設置する場合は、天板裏側をかき込まないと設定できない、③TOTO製商品は単品で販売してない、といったことがあるそうでした。IKEAオリジナルの海外製水栓金具の中に、TOTO製水栓金具が並んでいるのには、購買者の好みなどが反映されているのかもしれませんね。

木カウンターの耐久性は問題ないのか?

IKEAのワークトップ(カウンター)には、人工大理石・メラミン・ステンレスなどの一般的な素材のラインナップとともに、とりわけ印象的な木製のワークトップがあります。日本製のキッチンでは、ほとんどのワークトップがデュポン社製コーリアンなどの人工大理石なのではないでしょうか。色もいろいろと選べますし、なによりメンテナンスが容易です。

まず木製ワークトップとして使われる材には、集成材と突板の2種類があります。集成材(しゅうせいざい、Laminated wood)とは、断面寸法の小さい木材(板材)を接着剤で再構成して作られる木質材料(Wikipediaより) のことで、中まで密実なため「木らしい」感じがします。本物の木を芯まで使っているため、その分コストが上がることと、つなぎあわせる各木材が小さくなり表面仕上げにも表れてきます。

一方突板とは、薄くスライスした板を合板の上に貼った材です。IKEAで使用している「無垢突板仕上げ」は、パーティクルボードの基材に厚さ3.5㎜の無垢材を貼り付けてあるそうです。突板は薄くて済むため、その分大きな表面を確保することが可能となり、コストを抑えることもできます。3.5㎜あれば、1,2回は、やすりを掛けて磨いてきれいにすることもできるでしょう。ちなみに、小口を見るとこんな感じです。

小さい部材をつなぎ合わせて大きな部材とするとき、簡単に接着剤がはがれないようにフィンガー・ジョイントを採用する場合があります。目を凝らして見てみると、名前の通り、指と指を重ね合わせて継いだように見えますね。通常あまり目立たない箇所に使われます。木製のテーブルなどいろいろな場所に使われているので、今度見てみてくださいね。

木製ワークトップの場合、保護材であるオイルを適宜塗って手入れをする必要があります。人工大理石と違い天然素材なので、手入れを怠ると変色したりカビが生えるかもしれません。

お手入れ
イケアでは木製ワークトップにあらかじめオイル処理を施して、最良のコンディションで出荷しています。この状態を保つには、定期的なお手入れが必要です。ワークトップをシミやひび割れから守り、水分の侵入による腐食を防ぐために、木製品用のトリートメントオイルで年に3~5回お手入れしてください。シンクやコンロのまわりなど、熱や水気にさらされる場所は、より頻繁なお手入れが必要です。
普段のお手入れは、中性洗剤を含ませて湿らせた布で拭いた後、清潔な布でから拭きしてください。(IKEA ワークトップ、シンク、水栓 購入ガイドより)

「人工大理石に慣れたお客様から、クレームはないのですか?」と尋ねたところ、「お客様と何度か打合せさせていただく過程で、何度もご説明してご理解いただいています。経年変化で色が変化するのを楽しんでいただいています。」とのことでした。

面材のみ購入することは可能か?

キッチンの設計でいつも頭を悩ませるのは設備機器です。できる限りキッチン空間に統一感を持たせたいのですが、設備機器のメーカーが異なると、その外観もバラバラになってしまいます。既製品だとステンレス調仕上げをお勧めする場合もありますが、必ずしも質感が同じではなく、また「ステンレスの感じが嫌い」とおっしゃる施主もいらっしゃいます。ちなみに下の写真は、IKEAで展示されていたステンレス調仕上げの既製品食洗器です(ハーマン製)。

設備機器の中でも特に食洗器の場合、扉の面材をアンダーカウンターのキャビネット面材と合わせることが可能な商品があります。こうした対応のために、IKEAは面材だけの提供も可能だそうです。日本製のキッチンでは、面材だけ購入することはまず不可能なので、設計者としてこうしたサービスはありがたいです。

コストは日本の標準的キッチンと比べてお得なのか?

次にコストについてお伺いしましたが、残念ながら「ややお買い得なのではないか」というあいまいな返答しかいただけませんでした。キッチンはIKEA製・日本製関わらずバリエーションが多いため、、2~30万から数百万になるものまであり、一概に比較することは難しいですよね。失礼しました。ただ、「いろいろな組み合わせが可能なため、ご購入される方には、時間とエネルギーをつかってお考えいただく手間が発生します。」とのことでした。日本製キッチンはある程度セットになっているため、細かい組み合わせまで考える必要はありません。この労力を含めて「お得」か「お得でない」かは、買い手次第ですね。

 

IKEAのキッチン売り場には、様々な人が来るそうです。古くなったキッチンの改修を希望される人もいますし、新築の住宅に設置を考える人もいます。中でもハウスメーカーで住宅を建てられる方に、「キッチンをIKEAで相見積もりされる方がいる」という話が印象的でした。ハウスメーカーのキッチンは、取引のある日本製メーカーが指定されている場合が多いため、他社製品に変更することを嫌がります。そのため、キッチンまたはキッチンと取付施工費を施主支給した場合、プラスして変更手数料をハウスメーカーに支払うことになります。材料費・施工費の切り分けが不明確(言い換えると、材料費に施工費の一部が含まれている)な日本の建設業界の慣習によるもので、ある意味仕方がないのでしょうが。。。「お得」か「お得でない」かは、新築・改修といったプロジェクトの枠組み全体から考えるべきですね。

なおIKEAでは、キッチンを販売するだけではなく、「測量・事前チェック」「プランニング」「施工」といったサービスを別途用意しています。このように大変明快かつ効率的にビジネスモデルが組み立てられていると思います。こうした発注方法が好みの方にとっては、とても「お得」かもしれません。

おまけ モジュール化の先は?

このように価格が明確になる背景には、極端な部品の「モジュール化」が進んでいることが挙げられます。わかりやすく言い換えると、「すべての部品の型番とコストがリストアップされていて、その組み合わせで製品がつくられていること」といえます。極端な工場生産と効率化の行きつく先は、このような「モジュール」の中から組み合わせるキッチンという製品のありようなのです。

出口付近には、足りなくなったネジなどの部品を補充する棚がありました。全ての部品に番号が振られており、かつ、買い手が自由にアクセスできることが、とても印象的です。製造者と購買者間の情報の流れがスムーズであり、購買者からも能動的に製品にアクセスすることができます。BIM (Buiding Information Modeling)による設計・施工を考えたとき、このIKEAのありようはとても参考になります。

まとめ

IKEAのキッチンは、自分で組み合わせたい人には適しているといえるでしょう。価格も手ごろですし。そうした希望がある人には、とても良いキッチンと言えます。ただ、全てお任せしたい人にとっては、一般的なシステムキッチンの方がよいかもしれません。積極的にエネルギーや時間をかける必要があります。また細かいこだわりがあり、世界で自分だけのキッチンを一から作りたい人は、特注の造作キッチンとして作ることが適切です。つまり、こだわり具合から順番に並べると、

既成のシステムキッチン < 半特注のIKEAのキッチン < 特注の造作キッチン

と言えます。IKEAのキッチンが良いか悪いかは、キッチンに求めるこだわり具合に寄りますね。

 

 

 

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