(2018年9月5日公開 2020年9月6日加筆修正)
2019年9月9日、超大型の台風15号が東日本を直撃しました。関東地方に上陸したものとしては観測史上最強クラスと言われており、千葉県を中心に大きな被害を出しました。特に千葉県ではインフラの復旧に時間がかかり、いまだに(2019年10月現在)仮設的にブルーシートをかけて雨露をしのいでいる住宅も多くあると聞きます。被災された方々に、お見舞い申し上げます。
もう少し拡大してみると、
千葉では35.9m/s、羽田では32.4.6m/sを記録しています。障害物のない海沿いのほうが内陸部よりも大きな風速を確認しています。
西日本にお住いの方々には、2018年9月4日に超大型台風が西日本から日本海側を直撃したことも記憶に新しいでしょう。
もう少し拡大してみると。
関空島では46.5m/s、神戸空港では34.6m/sを記録しています。こちらにおいてもやはり、障害物のない海沿いのほうが内陸部よりも大きな風速を確認しています。「台風に強い家」を作るにあたり、まず「強い風を受けにくくする立地条件」が重要であることがわかります。
上の図は「風の強さと吹き方について」の表です。瞬間最大風速が60m/sまで到達した地域があったことからも、これらの台風の勢力が巨大であったことが分かります。ちなみに、瞬間最大風速が60m/sでは、
屋外・樹木の様子
・多くの樹木が倒れる
・電柱や街灯で倒れるものがある
・ブロック塀で倒壊するものがある
走行中の車
・走行中のトラックが横転する
建造物
・住家で倒壊するものがある
・鉄骨建造物で変形するものがある
とのことですが、「鉄骨構造物が変形する」とは恐ろしい威力です。今回のブログでは「強風」に着目し、台風対策について書きます。「台風に負けない住宅」を作るうえで「飛散物を出さない」と「飛散物から家を守る」という2つの対策について説明していきます。
風が吹くと?
風に向かって歩くと風の抵抗を受けて歩きにくく、風を背にして歩くと背中を押されて歩きやすいことがあります。これは、風によって力を受けているからです。
風荷重
風が吹くとき構造物が受ける力。風が吹くとき、構造物は空気の流れから風圧力、摩擦力、渦による力を受ける。(建築大辞典 第2版より)
風が吹くと、建物表面に圧力がかかります。この圧力を風圧力といいます。風向と建物の位置関係によって「押す力」(正圧)と「吸出す力」(負圧)のどちらもかかります。
今回の台風では、建物に甚大な被害を及ぼしましたが、このような風荷重が建物に作用したため被害が発生したことになります。それでは、風の被害を受けた建物はどのようになるのでしょうか。
屋根に被害が及んだ場合
風によって屋根瓦やトタンといった「屋根ふき材」が飛散することがあっても、棟木・垂木・梁といった構造体までもが破壊および飛散しているわけではなさそうです。つまり、非構造部材である「屋根ふき材」の耐風圧性能確保が重要だということが分かります。
壁に被害が及んだ場合
風によって外装材や開口部が破壊・飛散することがあっても、・構造体までもが破壊および飛散しているわけではなさそうです。つまり、「屋根ふき材」と同様に非構造部材である外装材や外部建具の耐風圧性能確保が重要だということが分かります。
看板やバルコニーなどに被害が及んだ場合
今回ツイッターなどのメディアには、看板やバルコニーが飛散している映像が多く挙げられていました。これらも非構造部材であり、建物本体としての構造体ではありません。建物に付随しているこれらの部材には、突出して設定されているため、大きな風荷重がかかります。
ちなみに、看板の事故には大きなリスクがあります。
1997年6月20日台風7号が関東地方に上陸し、強風で渋谷区の商店街入口に設置されていた旧アーケード看板(重さ4トン)が倒壊し、数人が下敷きとなり、男性一人が死亡する事故が発生した。看板製作会社は所有者に点検の案内をしたが、放置されていた。この事故では商店街組合、役員、理事が1億円の賠償金をしはらうこととなった。(看板の安全管理ガイドブックより)
看板に心当たりのある方「看板の安全管理ガイドブック」一読されることをおすすめです。ちなみに今回の台風で、「被害を受けた側」「被害を与えた側」間の損害賠償問題はどのようになるのでしょうか????
また、太陽光パネルが風によって飛ばされている事例が、多々あったようです。太陽光パネルの場合、①パネル自体が飛散して他人にけがをさせる、②パネルのモジュールが起動して他人を感電させる、という2つの危険性が指摘されています。太陽を遮ることのない(言い換えると風を遮ることのない)平地に設置されることが多い太陽光パネルですが、設置時にこのようなリスクは十分に検討されていたのでしょうか?
風が強まる前に注意すること
台風警報が発令されたとします。風が強くなる前にどのようなことに気を付ければよいのでしょうか。政府広報で竜巻の事例をもとに解説しているものがありました。
屋外では・・・
近くの頑丈な建物に避難するか頑丈な構造物の物陰に入って、身を小さくしてください
物置や車庫、プレハブ(仮設建築物)の中は危険ですので避難場所にはしないでください
電柱や太い樹木も倒壊することがありますので、近寄らないようにしてください
周辺に身を守る建物がない場合には、水路などくぼんだところに身を伏せて両腕で頭や首を守ってください屋内では・・・
一般の住宅では雨戸、窓やカーテンを閉め、家の1階の窓のない部屋に移動してください
丈夫な机やテーブルの下に入るなど、身を小さくして頭を守ってください
大きなガラス窓の下や周囲は大変危険ですので窓ガラスから離れてください
(竜巻ではどのような災害が起こるのか 首相官邸ウェブサイトより)
戸建住宅の場合、まず屋内に避難し、1階の窓のない部屋に移動すること、が重要なようです。できる限り、窓のある建物外周部から離れること大切なのですね。2階にいると屋根が吹き飛ばされる可能性があるので、風のことだけを考えると1階の方が安全です。しかしながら、浸水危険区域の場合、浸水や排水の逆流も想定されます。1階のほうが危険な場合もありますので、適宜状況判断が必要となります。
2つの考え方
屋根・壁・看板などが飛散している状況、さらに「風が強まる前の家の対策」をみると、大きく分けて2つの考え方に整理できるのではないでしょうか。
1)飛散物を出さない
屋外で飛びやすいものは強風が発生する前にあらかじめ屋内に入れることが大切です。飛散して他者に危害を及ぼしたら訴訟沙汰になる可能性があります。また屋内に持ち込めないような大きいもの、例えば看板・バルコニーといったものは、日常的にメンテナンスを行い、強風でも飛ばないように固定しておくことが大切です。屋根材・外壁材のメンテナンスを日常から行い、固定されていることを確認することも大切ですね。
強風によって建物の屋根が飛ばされることがありますが、これは風によって、屋根上面を通過する圧力が、建物内の圧力よりも低くなり、屋根を吸い上げる力が働くためです。ちなみに飛行機が飛ぶメカニズムも、この状況と同じです。以前、航空宇宙工学科にいたとき教わりました。。。
高所に設置されている物置には特に注意が必要です。近所に屋根の上に物置を設置している建物がいくつかあります。法規的な問題はさておき、構造上は、単に屋根の上に載せてあるように見えます。防水層の機能を維持したまま、屋根スラブに物置を締結するには、あらかじめ適切な立ち上がりを施工しておく必要がありますが、たぶん物置を前提にそこまで施工はしていないでしょうね。。。
これらは都内某所ですが、今回関西を襲った強さの台風が東京に上陸したら、物置ごと飛んでいくかもしれません。先ほどの看板の事例のとおり、深刻な訴訟問題に発展する可能性もあるため、心当たりのある方は何かしら対応をとることをお勧めします。
ちなみに、100人乗っても大丈夫 でおなじみのイナバ物置カタログによると、「崖や屋上など、安全の確認できない場所への設置もさけてください」と書いてあります。また、基礎のやり方、はコンクリートブロックの上に、物置を直接のせるだけであることも分かります。
ヨドコウの物置も有名ですが、カタログによると同様に、「建物の屋上には設置しないでください」とあります。さらに、「アンカー工事等の転倒防止工事を必ず行ってください」とあります。つまりブロックを置くだけでなく、アンカーボルトによって地面と物置の下枠締結することが求められていて(下図参照)、イナバ物置より厳しい施工方法が推奨されています。いずれにしても、屋根に物置があるのはNGですね。近隣を確認することをお勧めします。
皆さんの家の周りに、カーポートや自転車置場用屋根が設置されているところもあると思います。カーポートの耐風圧強度を各メーカーが設定しています。例えばLIXILの最新のカーポートでは、耐風圧が風速42m/sまで引き上げて構造検討しているようですが、2018年9月の超大型台風では風速50m/sを上回る場所もあったようですから、直撃した場合は難しいかもしれません。
古いタイプのカーポートだと、すぐに飛んで行ってしまうかもしれませんね。
集合住宅の場合、外装材のタイルやバルコニーのパネルなどがはがれて飛散する場合があります。高さがある分、仮に飛散して落下した場合、周囲の方々に甚大な被害を与えるので、日常的にメンテナンスすることが重要ですね。物的被害であればまだしも、人的被害が発生した場合、取り返しがつかないことになります。
屋根材も飛散の対象となります。例えば、古い建物の瓦がスレートが飛散する事例を聞いたことがあるのではないでしょうか。一方、ガルバニウム鋼鈑葺きの屋根材が飛散する事例はあまり聞かないかもしれません。そのため、「瓦=風に弱い」「金属屋根=風に強い」と短絡的に考えがちですが、これは半分正しくて半分間違っています。飛散した瓦の多くは、粘土に載せて銅線で固定しただけの昔ながらの構法で施工されていた古い建物から飛散しています。比較的新しい瓦屋根は、独立行政法人建築研究所が監修した「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」に沿って、耐風圧テストにも合格した構法で施工されるので、基本問題は無いはずです。また瓦以外の屋根ふき材も、告示が更新されるにしたがって耐風圧性能も向上します。したがって、「瓦=風に弱い」「金属屋根=風に強い」のではなく、
「古くメンテナンスされていない屋根材=風に弱い」
「新しく各種基準に従った屋根材=風に強い」
と言えるでしょう。
2020年8月現在、国土交通省は2019年の房総半島台風による屋根被害を踏まえ、瓦屋根のガイドライン工法を告示に位置付ける予定だそうです。ようやく昭和46年に施行された告示が改定されることになります。新築・葺き替え時には、「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」に沿ってすべての瓦の締結が義務化されることになるので、新しい瓦屋根は安全になる方向と言えるでしょう。(国土交通省 令和元年房総半島台風を踏まえた建築物の耐風対策に関する検討会より)
2)飛散物から家を守る
庇や開口部など弱い部分を補強することが大切です。最近では、特に雨戸がついていない窓も多くみられるようになりました。飛散防止フィルムを貼って飛散しないようにすること、また激しい強風が予想される場合には防水層に注意しつつ、窓をベニヤ板等で覆うことも有効です。また、割れると危険なフロートガラス(一般的なガラス)を、飛散しにくい網入りガラスや合わせガラスに変えることや、仮に割れても粉々に砕けるため比較的安全な強化ガラスに変更することも有効といわれています。
今回の台風では、屋根瓦や屋上防水が飛散する以外にも、「屋根ごと飛んでいく」現象があったそうです。特に「窓を少し開けたら風が入ってきて屋根を吹き飛ばした」とか。飛散物によって建物の壁や屋根に穴が開くと、屋根を外側に引っ張る負圧が増大し、屋根ふき材のみならず屋根そのものが飛散しやすくなります。この現象は、屋内の内圧に変化が生じ、屋根の飛散といった大規模な破壊を引き起こしたと考えられます。
例えば、皆さんご存知のプッチンプリンを例として説明します。室内をプリン、屋根・外壁部分をプラスチックの容器と考えます。ふたをはずして裏返しても、プリンと容器が一体となっていてプリンがお皿に落ちません。これは内圧が低いためです。しかし、爪を折って容器内の圧力を変えると、プリンからプラスチックの容器が容易に剥がれます。屋根ごと吹き飛ばされてしまう現象は、この原理に近いといえるでしょうね。(物理に詳しい方。もし間違っていたら是非指摘してください。)
このことからも、飛散物から家を守ることはとても大切だといえるでしょう。飛散物によりガラスなどの外装材が破損すると、同じ「プッチンプリン現象」が起きかねません。市街地の建物では、コスト的・美観的観点から、雨戸やシャッターを設置していない建物も多いようです。昔の木造民家には雨戸が設置されていますが、防犯上の対策とともに、台風から身を守るための知恵なのかもしれません。
万が一、台風によって窓ガラスが割れてしまった場合、どのように対処すればよいのでしょうか?この場合、割れた窓を一刻も早くふさぎ、屋内の内圧を変えないよう試みることをお勧めします。「一か所割れてしまった場合、全部割って風通しを良くした方が良いのではないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、これは誤りです。屋根上部の屋外のみならず屋内側からも屋根を吹き上げる力が作用し、屋根が吹き飛ばされるかもしれません。
立地条件について
「台風に強い家」を作るために、「飛散物を出さない」「飛散物から守る」という2点は重要ですが、そもそも強い風を受けにくい立地に作ることが必要なのではないでしょうか。冒頭で、期間最大風速の立地比較について述べましたが、家の立地条件について正しく理解しておくことは大切です。例えば、湖岸や海岸沿いで風を遮るものが存在しない立地と、市街地のように建物が密集している立地とでは、建物が受ける風圧が大きく異なります。建築基準法では、地表面の粗さを示す指標として地表面粗度区分という言葉を使います。
地表面粗度区分 I 海岸沿い
地表面粗度区分 Ⅱ 田畑や住宅が散在している箇所
地表面粗度区分 Ⅲ 通常の市街地
地表面粗度区分 Ⅳ 大都市
同じ仕様の建物を比較した場合、海岸沿いの建物のほうが、強風によって受けるダメージが大きいことになります。市街地のようにに密集して建物が建っている場合、隣の建物が盾となって直接風を受けることが少なくなります(ビル風のように局地的に発生する場合は置いておいて。。)。一方で、開けた田畑に建つ民家は、昔から防風林/屋敷林によって風雪から建物を防御してきました。広葉樹/針葉樹を適切に配置することによって、季節に応じて適切に風雪を遮り木陰をつくることが可能です。こうした昔からの知恵は、より家づくりに生かされるべきですね。
防風柵について
敷地林や防風林で建物を取り囲むだけの敷地の広さがあれば良いですが、現実的にななかなか難しいでしょう。そうした場合、防風柵という商品も販売されているようです。上の写真は、防風柵とともに防雪柵も兼ねている有孔折板によって作られた商品例です。住宅向けというよりは、道路や鉄道を守るための公共工事で使われるものですが、軽量で小型の商品であれば、状況によっては使用可能でしょう。風洞実験により、有孔パネル設置位置から広範囲にわたって風速比0.5以下に抑えられている計測結果もあるそうです(朝日スチール工業株式会社ウェブサイトより)。
住宅の周りに金属製の防風柵はちょっと。。。と思われる方は、定期的なメンテナンスは必要となるものの、こうした木製の防風柵の方が暖かみがあって良いかもしれません。いずれにしても、どのような素材で作られた防風柵であったとしても、基礎や控えをしっかりとつくり防風柵自体が飛んだり壊れたりしないようなつくりにすることが大切です。
耐風シャッターについて
外付けシャッターは、防犯ばかりではなく、厳しい自然環境からも窓を守ります。現在では耐風圧性能1200Paの製品も販売されているようです。
風速62m/s時に、風に引っ張られる力を受ける風下側で発生する風圧力(負圧)に耐えられる
重さ2kgの木材が時速44kmで衝突しても、シャッター部によって窓ガラスへの直接の衝突を防ぎ、ガラス割れを防ぐ
(YKKApウェブサイトより)
といった性能ですので、巨大台風が直撃してもまあ大丈夫でしょうね。それよりも屋根が飛んだり飛散物によって壁が壊れる方が心配です。
昔の木造住宅では雨戸が常備されていました。防犯や断熱性能の確保とともに、こうした自然災害からも大切な住宅を守ってきました。今後、より見直されるかもしれませんね。
建物形状について
ちなみに台風の被害が大きく、住宅に対して大きな耐久性が求められる沖縄県では、7割近くの新築住戸が鉄筋コンクリート造だそうです。(材料供給や職人確保の面からも木造住宅を建設することが割高である事情があるようですが。。。)鉄筋コンクリート造にすることは、飛散物を出さないことにもつながりますが、特に飛散物から家を守るといった視点からはとても有効です。
風に最も影響を受けやすい要素は建物の形状です(建物重量も関係ありますが)。一般的に、鉄筋コンクリート造の建物の屋根は陸屋根(フラットルーフ)で、木造は勾配屋根の場合が多いのではないでしょうか。(鉄筋コンクリート造で勾配屋根の建物、木造でフラットルーフの建物も当然存在しますが。。。)防風林などがなく、建物単体が存在していると仮定して、CFDシミュレーションを試みてみます。(建物の形状ごとに風力計数が決まっているのですが、詳細は省略します)
まず鉄筋コンクリート造を想定した陸屋根(フラットルーフ)形状の建物です。縦横6m×6mの平面形状として、階高を3mの2階建てとしました。パラペット部分は50㎝で想定しています。
この建物に、風速40m/sの風が当たった場合のCFDシミュレーション結果です。(40m/sは、2019年9月の関東、2018年9月の関西の事例より首都圏の台風の状態を想定しました。)
次に木造を想定した勾配屋根形状の建物です。同じく縦横6m×6mの平面形状として、階高を3mの2階建てとしました。屋根勾配は5寸(2:1)としたため、先ほどの陸屋根(フラットルーフ)形状の建物よりも、建物高さは高くなっています。軒の出は90㎝としています。
この建物に、風速40m/sの風が当たった場合のCFDシミュレーション結果です。
ちょっと分かりにくいですが、陸屋根形状に比べ、軒の出た勾配屋根形状のほうが抵抗が大きく空気が乱れていることが分かります。軒に吹き上げる力が作用していることも分かります。
「強風によって被害を受けやすい屋根形状は何か」という点では、実は屋根形状の問題よりも、屋根ふき材の施工時期の問題の方が大きいと考えます。先ほど「古くメンテナンスされていない屋根材=風に弱い」「新しく各種基準に沿った屋根材=風に強い」として、古い建物の瓦屋根の問題について述べましたが、強風による被害は、屋根そのものが吹き飛ぶというよりは、屋根ふき材の飛散によるものが大きいと考えているからです。
年間を通して比較的降水量が多い温帯湿潤気候の日本では、建物の寿命を延ばすために外壁をぬらさないようにすることは大切です。軒や庇を出せば出すほど外壁はぬれにくくなるので、建物の長寿命化につながります。一方で風害を考えると、軒や庇を出せば出すほど、風の影響を受けやすくなります。雨を避けることを優先させるか、風を避けることを優先させるか、大変難しい問題です。
同時に雨漏りのリスクは、屋根勾配が穏やかであればあるほど高くなります。つまり、勾配屋根形状では屋根に水勾配がついているため雨水はすぐに排水されますが、陸屋根形状では水勾配が緩やかであるため雨水の排水に時間がかかります。降雪時には雪が積もるリスクもあるでしょう。軒を出した勾配屋根形状にするか、陸屋根形状にするかは、周辺環境や立地を良く考慮して、適切なバランスを取ることが大切でしょう。
今後のこと
最近特に、自然災害が深刻化しているような気がします。
近年、大型台風、竜巻による風災害、豪雪、豪雨、猛暑等による気象災害が、都市活動や我々の生活の大きな脅威となってきている。これら気象災害はエルニーニョ・ラニーニャ現象や偏西風の蛇行などに起因するが、これまでも周期的に発生してきた。しかし、温室効果ガスの増加に起因する地球温暖化により、増幅される傾向にあり、発生頻度や被害が急増する恐れがある。(気候変化による災害防止のための枠組み整理と今後の課題,日本建築学会 気候変化による災害防止に関する特別調査委員会,2016.03)
北大西洋や西太平洋などの海表面温度や熱帯低気圧のパワーを示す指標は、1970年代以降急激に上昇している。温暖化が継続すると、台風の発生数は減るが、強い台風が増加するといわれている。(気候変化による災害防止のための枠組み整理と今後の課題,日本建築学会 気候変化による災害防止に関する特別調査委員会,2016.03)
今回は、25年ぶりの超大型台風といわれていますが、地球温暖化が進行する中、今後もこのような台風が日本列島に上陸する可能性も高いと思われます。(下のグラフでは、まだそこまでのことが言えないようですが。。。)
今回は、台風による風被害について取り上げましたが、地球温暖化が豪雨や豪雪といった別の被害を発生させる可能性も高いです。また、風速が増大するという違い以外にも、今まで台風の被害が少なかった地域にも台風が上陸するといった変化が想定されます。また、風雨を原因とした土砂災害といった複合的な災害が発生する恐れもあります。
経験値による予想を超えた現象が起こるため、一般的に活用されている設計基準や設計指針がうまく機能しないことも考えられます。建物の設計者としては、今まで以上に予想が難しい災害発生のリスクに対して、十分な配慮が必要となります。また施主に対しては、仕様の引き下げによるコストダウンから引き起こされるリスクについて、より詳細な説明が必要となるでしょう。
まとめ
今回のブログでは、
1)飛散物を出さない
2)飛散物から家を守る
の2点から台風対策について整理してみました。これらの観点から「家づくり」および「家の設計」を考えなおしてみることは、異常気象の続く(可能性の高い)日本において、実はとても大切なのではないでしょうか。
美しい家 < 快適な家 < サバイバルできる家
として、より家としての本質的機能が問われている気がします。全て備わって設計および施工できていることが一番理想的ではありますが。。。
また、これら2点の対策の採用によって「(比較として)より安全であること」を実現することは可能でしょう。しかしながら「絶対的に安全であること」は、そもそも実現不可能です。もし皆さんの周りに「絶対的な安全」をうたう建築関係者がいたら怪しいと思った方が良いでしょう。
最後に
また、台風が通過した今現在も、いろいろと気を付けることがあります。
・感電の恐れがあるため、切れたり垂れ下がったりしている電線には近づかない
・被害個所の写真を撮影しておく(火災保険で請求可能な場合があるようです[重要])
注意してください。
9月が始まったばかりですが、台風は10月まで日本に上陸します。引き続き警戒が必要です。