今回のブログでは、以前撮影した動画や360°写真を使って、フィンランドの巨匠 アルヴァ・アールトの建物を紹介したいと思います。
北欧の国フィンランドでは、国土の3分の1が北極圏にあります。家具やテキスタイルをはじめとした北欧のデザインが豊かなのは、寒く日照時間が短い冬を室内で快適に過ごすためだとも言われています。シンプルながらも明るい色あいのテキスタイルや肌触りの良い素材に囲まれた 長時間過ごしても快適な室内 とはどのような空間なのでしょうか?現在東京では外出自粛の要請が続いていますが(2020年5月3日現在)、こうした室内で長時間過ごすわが身を振り返って、アールトの建物から学ぶことも多いと思います。
建築を学ぶ学生にとって、建築物を見て回り、実空間を体験することは非常に大切です。しかし海外どころか国内の移動も制限される現在、こうした動画を見ることによって、すこしでも体験・経験することにつながればと思っています。
アールトの建物は、素材・テクスチャや形態に特徴がありますが、なかなか写真や図面だと分かりにくいと思います。特に独特な内観・外観の形態には、特徴のある各居室やそれぞれのつながり方が表れているのですが、こうした空間を人がどのように利用するのかという動的な視点では理解することができません。その点、動画や360°写真だと、もう少しアールトの建物の特徴や良さが伝わるのではないかと思っています。
アールトは建築とともに家具も大変有名です。アールトの名前は知らなくても、椅子や花瓶は見たことがある方も多いのではないでしょうか。
北欧とアールトが好き
私は素材やテクスチャにこだわった建築に惹かれます。概念的・抽象的で頭で理解する建物というよりは、具体的・環境配慮的で五感で体感する建物が気になるのですが、この好みは建築を学び始めた時から変わりません。
20年ほど前、ヘルシンキに2か月ほど滞在し、現地の建築設計事務所にてインターンをする機会がありました。私の好みの建物が多い北欧や南欧の設計事務所をいくつか選んで応募したところ、運よくヘルシンキのHelin & Sitonen という設計事務所(現在は Helin & Co.)に受け入れていただきました。
高い生活費や交通費は、インターンのためのバイト代でほぼカバーできました。週末には、首都ヘルシンキから離れた場所にある数々のアールト作品を見て回ることができたのは貴重な経験でした。設計事務所の同僚の別荘に誘ってもらい、湖のほとりのサウナに入ったのは、とても良い思い出です。。。
2019年秋、研究調査のためフィンランドを再訪した際、アールト邸、アールトのアトリエ、アカデミア書店、オタニエミにあるアールト工科大学の計4か所を訪れました。アールトの作品はフィンランド各地に点在していますが、観光で訪れやすいヘルシンキにある建物ですのでフィンランド観光を予定されている方も是非ご覧ください。
1.アールト邸 (The Aalto House)
アールト邸は住居と仕事場を兼ねた建物です。上の1階平面図では、右側部分が仕事場、中央および左側が住居部分です。ちなみに図面では、上が南で下が北に描かれているので要注意。鉄筋コンクリートと鉄骨の混構造です。
南側から見た状態です。模型左手(西側)にはアトリエが、中央にはテラスが、右手(東側)には寝室が並んでいることが分かります。まずは解説抜きで、建物中に入ってみましょう。上記の赤矢印の順番で回ります。
アールト邸の概要
1934年、アイノとアルヴァ・アールトはヘルシンキの郊外Munkkiniemi Riihitieのほとんど手つかずの環境の土地を手に入れ、自分たちの家の設計を始め、1936年8月に完成しました。
この家は、自らの住宅兼オフィスとして設計されました。この2つの異なる用途の違いが外からもはっきりと確認できます。オフィスの建物は、小叩きしてホワイトウォッシュされた煉瓦で仕上げてあります。窓の配置には機能主義的表現がはっきりと表れています。住宅部分の外装材は、濃い塗装処理を施した幅の狭い羽目板である。住宅は陸屋根で南に面した大きなテラスがあります。
通りに面した閉鎖的で味気ないファサードは、ブドウの木と玄関ドアへと続くスレートの飛び石によって和らげられています。この住宅では、ロマンティックな機能主義者であるアールトの新しい方向性を既にみることができます。表面材料として木材を多用し、4つのレンガの暖炉によっても示されています。
この建物は、建築家夫婦が自分たちのために設計した、シンプルで素朴な素材を使った、居心地の良い親密な住宅兼オフィスです。
アルヴァ・アールト財団ウェブサイトより 筆者訳
アトリエ
再度細かく見ていきましょう。まずはアトリエです。入るとこんな感じに見えます。
南西に向いたコーナーウィンドウからは、外が良く見えて明るく気持ちよいです。暖房として窓下にラジエーターが設置されていて、冬でも寒くありません。
振り返るとこんな感じです。2層吹き抜けの西側の壁には大きな窓があります。夕方には、北国では貴重な西日が差し込むのでしょう。
素材やテクスチャに特徴があるアールトの建物ですが、自邸では植物を編み込んだ壁材を用いて、親しみや暖かさを感じさせています。アールトの別の住宅作品では、細い板張り天井を採用する場合も多いですが、自邸では壁に素材感を表現しています。
階段の下には暖炉があります。レンガで作られていて熱が蓄積され、冬は暖かそうです。階段の奥は図書室です。
引き戸の先にリビングが続きます。アトリエからリビングへ移動してみましょう。
リビング
リビングから2段上がったアトリエからは、ダイニングへの奥行きを効果的に感じることができます。本棚の左側にある扉の奥にキッチンエリアが垣間見えることで、多層に重なった空間を感じます。
アトリエと居間は引き戸でつながっています。また、床の段差によって、つながりつつ別の空間として扱われています。
庭に開かれた南側の窓から陽の光が差し込み、緑が白い天井に反射しています。日除けのすだれが印象的です。
窓には植物のプランターとラジエーターが組み込まれています。寒くて長い冬の期間も快適に過ごすことが出来そうです。
FIXの窓と換気用の小窓を分けています。引き違い扉が多用される日本とは違っています。
改修されていると思うのですが、断熱性能の高い3重ガラスでした。
ダイニング
南側の窓から庭を眺めることができます。
食器棚にはキッチン側からもアクセスすることができます。
キッチン
キッチンカウンターの正面には大きな窓が開いています。実用的なシンプルなつくりです。
2階へ
2階には寝室やファミリールームといったプライベートな空間が配置されています。
東面に開口部のある寝室には、朝日が差し込むように計画されています。寝るためだけのシンプルなつくりです。
外観
庭から見た眺め360°
建物の南側は庭に向かって大きく開かれています。2階の黒い羽目板張りの部分は寝室です。
細い羽目板張りの外装です。よく見ると短い乱尺で作られています。
壁面を這うツタも、ファサードの重要な一部となっています。
2階のテラスです。正面にはアトリエの2階部分が見えます。
バタフライ型の屋根と谷部に設置された竪樋です。白い石灰塗りの壁にはレンガが透けているようです。
開かれた南側とは対照的に、北側の通りに面するファサードは閉鎖的な外観です。玄関扉もシンプルなデザインです。スレートの飛び石は、動きを与えています。
その他
ハンドルいろいろ
凝ったつくりのハンドルもあります。この金属製ハンドルは、肩掛けカバンのひもなどが引っかかることを防ぐようなつくりをしています。
シンプルな棒状の手すりもあります。
家具
アールトの有名な木家具の詳細です。木の曲がった部分はどのように作られているのでしょうか?
アールトは建物ばかりではなく家具の製作にも熱心でした。1931年に元となる組織を立ち上げ、1935年にARTEK社を設立しました。ちなみにアルテックという社名は「アート(芸術)」と「テクノロジー(技術)」に由来するそうです。
機能的な洗面器です。家族向けとして2台設置されています。
天窓は住宅にもついています
プランターもアールトの花瓶と同じ形状をしています
なおアルヴァ・アールト邸は事前申し込みが必要です。アールトのアトリエと近いので、2つ同時に申し込みましょう。アルヴァ・アールト財団ウェブサイトから申し込み可能です。
2.アールトのアトリエ (Studio Aalto)
上の図面では、右上が南、左下が北になっています。建物や樹木によってこの字型に囲まれた中庭は、南に向かって開かれています。製図室から突き出た袖壁部分は、野外劇場のような中庭の舞台背景となる場所ですが、現在では袖壁の裏側に食堂が増築されています。模型で見ると以下のような感じです。
まずは解説抜きで、建物中に入ってみましょう。上記の赤矢印の順番で回ります。下階のエントランスおよび食堂をみてから、階段を上がり、製図室とスタジオがある基準階へと進みます。
エントランスから基準階へ
基準階の製図室とスタジオ
エントランスから基準階へ
アールトのアトリエの概要
アルヴァ・アールトは、1955年にMunkkiniemiのTiilimäki 20番地に自分のアトリエを設計しました。大規模な仕事の依頼が多くなったため、アトリエにはもっと広いスペースが必要でした。この建物は、以前事務所があったアールトの自宅から歩いてすぐの場所にあります。アールトのアトリエは、アルヴァ・アールトの1950年代の建物の中でも最も優れたものの一つです。
野外劇場のような中庭は、白く塗り潰された壁による閉鎖的な建物の塊に囲まれています。事務所スタッフは野外劇場のスレートの階段に座って講義を聞いたり、白い壁に投影されたスライドショーを見たりすることができます。
建物の主要な空間は、中庭に面した湾曲したアトリエです。スタジオの高い壁に固定された水平レールには図面を展示することができます。後方の壁には、高い位置にある窓まで伸びる植物で覆われ、壁の前にはアルヴァ・アールトがデザインした照明器具の試作品が吊るされています。
会議室の天窓のある斜めの壁は、模型や図面の検討に最適な条件を作り出しています。この建物は建築家のアトリエとして使用することを想定しています。上層階には、細長いプランの製図室があり、高窓からの自然光が美しく入ります。
1962年から63年にかけて、高いレンガの壁の奥の中庭にスタッフのための食堂「タベルナ」を作り、その上階に製図室を拡張しました。
アルヴァ・アールトが1976年に亡くなるまでアトリエは運営されていました。その後、アトリエは1994年までエリッサ・アールトの指導の下で続けられました。1984年にアルヴァ・アールト財団の管理下に入り、現在はアルヴァ・アールト財団のスタッフが働いています。スタジオ・アールトはガイドツアーで見学可能です。
アルヴァ・アールト財団ウェブサイトより 筆者訳
動画でおよその雰囲気を分かっていただいたところで、もう少し細かく見てみましょう。
製図室
製図室360°
エントランスから入り、上層階の製図室にたどり着きます。多くのスタッフが集まって製図していた当時の雰囲気が伝わってきます。多くのサンプルが展示されていました。
ハンドルのサンプル。実際に握ることが出来なくて残念です。。。
ブラケットのサンプル
レンガのサンプル
装飾用タイルのサンプルです。売店では、お土産としてこのタイルのサンプルが販売されていました。荷物になるので買いませんでしたが。。。
会議室
会議室360°写真
写真やサンプルが展示され、図面も保管されていました。
図面の筒
この部屋で印象的だったのは、斜めの壁とそこを照らす天窓からの自然光と人工照明です。ミーティング時に図面や模型を展示していたようですが、季節や時間によってさまざまに異なる様子が想像できます。覗いてみると。。。
間接照明ONの時
間接照明OFFの時
季節や時間によって、異なる表情を示します。次にスタジオを覗いてみましょう。
スタジオ
スタジオ360°
次にスタジオに入ってみましょう。部屋に入ると湾曲した中庭に沿って、天井の高いスタジオがあります。奥には、有名なアールトの照明器具が吊るされています。
一番奥まで進み、階段を上って振り返ってみると、入り口から見た眺めとは異なる表情です。中庭から入った光が白い空間に反射して、思ったよりも暗くありません。
この建物は自邸からおよそ20年経過してから設計されています。直線のみで構成された自邸と異なり、この湾曲したアトリエとアトリエと繋がる中庭が、強い印象に残ります。作風の変化がはっきりと分かります。
アトリエに展示されていた家具のディテール
素材やディテールの開発をしながら建物を設計していたことが分かります。
その他
中庭
野外劇場のような円形の中庭はとても印象的です。
中庭360°
この中庭は、建物の壁や樹木によって囲まれ、開きつつも閉じられた空間になっています。敷地の高低差を有効に活用して作られ、野外劇場のように座ることができるスレートの段が設けられています。
中庭でくつろぐオフィスのスタッフ Office staff in the courtyard. Photo: Vezio Nava, Alvar Aalto Museumアルヴァ・アールト財団より転載許可(courtesy of Alvar Aalto Foundation)
当時はこのように使われていたようです。
階段の手摺
エントランスからドラフティングルームに上がる階段には、とても握りやすく暖かみのある手すりが付いていました。白く塗られたレンガの壁に陽の光が落ちています。ざらざらでこぼこしたテクスチャが効果的です。
下層階にはスタッフのために増築された食堂があります。ダイニングエリアとキッチンエリアどちらの面からもアクセスできる食器棚がありました。
ダイニングからの眺め360°
ダイニングからの食器棚
キッチンからの眺め360°
キッチンからの食器棚
フローリングや木パネルが視界に入るアールトの自邸と異なり、アールトのアトリエは作業場らしく全体的に白い空間となっています。工業製品による均一で冷たい感じではなく、レンガや木といった素材の上から塗装した白い色は、周囲の緑が映り込んで心地よい雰囲気を作り出していました。
3.アカデミア書店 (Academic Bookstore)
アカデミア書店のある建物は通りの右手に見えます。それでは建物中に入ってみましょう。
アカデミア書店の概要
アカデミア書店(ブックパレス)はヘルシンキ市内中心部にあり、アールトが設計したオフィスビル「ラウタタロ」と同じブロックにあります。この建物は1969年に完成し、現在も当時のまま使用されています。アカデミア書店は1969年10月にテナントとして入居しました。
この区画の所有者であるストックマンは、1961-62年に建築コンペを開催しました。アールトは、近くのラウタタロと同じアイデアを用いた提案でこのコンペを勝ちました。
Keskuskatu通りの銅張りのファサードは、隣接する建物のファサードを考慮に入れてデザインされています。建物の主要な内部空間である中央ホールは、ラウタタロの大理石の中庭と同じコンセプトが使われています。中央のホールにはプリズム型の天窓から自然光が差し込みます。中央ホールの周りにあるバルコニーの床と腰壁はカラーラ大理石です。
内装は改修されています。元々オフィスとして使われていた上層階の部屋の一部は、書店が引き継ぎました。現在はカフェが2か所あります。2階にあるカフェの一部には、ラウタタロのカフェで使われていたアールトの家具が使われています。書店とカフェは一般公開されています。
アルヴァ・アールト財団ウェブサイトより 筆者訳
動画でおよその雰囲気を分かっていただいたところで、もう少し細かく見てみましょう。
中央ホールの吹き抜け
中央ホール360°
1階からの眺め
エントランスから書店内に入り、低い天井のロビー空間を抜けると吹き抜けの中央ホールへと至ります。3個の彫刻的な天窓が設置されています。
2階からの眺め
天窓の周囲にはダウンライトが設置されています。
天窓からの自然光を、ダウンライトの照明が補助するようになっています。時間とともに移り変わる自然光と人工光が混在した空間は、日の出から日没までどのように見えるのか気になります。氷山を下から覗いたようでとても印象的です。
アトリウムに面した壁は、白い大理石ビアンコカラーラで仕上げてあります。白く抽象的な空間でありながら、部分的に使われる石の素材感が美しいです。
その他
この書店の空間はアトリウムが大変強烈な印象を残しますが、他にもいくつか気になる箇所がありました。
ハンドル
有名なアールトの彫刻的なハンドル
ハンドル3連続
日本では金属製ハンドルはほとんどステンレスなどの銀色です。しかしこのようなブロンズ色のハンドルは、木や石、あるいは暖かい色の照明に大変よく合うと思います。
天井
ディフューザー
これはアールトのオリジナルデザインなのかどうか良く分かりませんが、こうしたシステム天井を多く見かけました。調整可能な小さな給気口が付いたディフューザーが面白い形でした。吸音板や照明用ダクトレールもきれいに収まっています。
4.アールト大学 (Aalto University)
アールト大学本館
キャンパスで最も象徴的な講堂の外観です。下部は円弧状のステップになっており、野外劇場のように使用することができる点でアールトのアトリエに似ています。上部4段は天窓となっています。
アールト大学講堂外部を探索
段は結構急です。座って話している人たちもいました。
ちなみに講堂の内部はこのようになっているみたいですが、残念ながら訪問した時にはこの中に入ることはできませんでした。次回は是非見てみたいです。
それでは、建物の中に入ってみましょう。
アールト大学本館概要
アルヴァ・アールトは、1949年にエスポー州オタニエミにあるヘルシンキ工科大学の設計コンペを勝ちました。アールトの事務所は、メインキャンパスの建物の他にもいくつかの建物を設計しました。本館は1953-55年に設計されました。現在、工科大学はアールト大学の一部となっており、学部生用の建物として知られています。
1964年に建築工事が開始され、1966年に本館が落成しました。旧Otnäs荘園の跡地に建設されました。そびえ立つ本館の階段状の講堂は、キャンパスの中心となりました。野外劇場は、アールトの建築に共通するテーマです。
本館はいくつかの建物群に分かれており、建物間には中庭があります。ファサードは、特注の濃い赤レンガ、黒御影石、銅で仕上げられています。
オタニエミ・キャンパスのデザインは、歩行者と自動車の交通の分離を意図しています。公園のような環境の中で、各学科の建物を歩行者用通路で結んでいます。本館への入り口は、車と歩行者の両方のルートから容易にアクセスできるようになっています。
本館は後に増築されていますが、オタニエミでは今でも増築が行われています。キャンパスエリアは一般公開されています。
アルヴァ・アールト財団ウェブサイトより 筆者訳
建物は大きく広がっていますが、ごく一部のみ歩き回りました。
ロビー
講堂のホワイエ
有名なアールトチェアとテーブルのセットです
講堂に入ることができませんでしたが、隣接する講義室を覗くことはできました。ここでも天窓からの自然光を人工照明が補完しています。
手すりいろいろ
独立した手すりです。真鍮製の握り棒や支持材との取り合いもきれいですね。
腰壁とつながっている手すりです。白い腰壁でも手すりが連続して回り込んでいるので、危険でないことに加え白い壁も汚れません。
様々な角度から、手摺の状況を撮影してみました。最下階に到達しても、手摺が連続しています。利用者に対してこのような配慮は大切です。
ちなみに別の階段でも手すりは回り込んでいました。同じディテールが繰り返し使われています。
実はこのような手すりの延長および回り込み、米国のADA(Americans with Disabilities Act 障がい者差別禁止法)では遵守しなければならない事項ですが、日本の基準法や条例ではそこまで求められていないようです。
外観
レンガ、木サッシ、銅板・鋼鈑、御影石などの組み合わせが美しいです。
それでは、近くの図書館に行ってみましょう。
アールト大学図書館
上記の赤矢印の順番で回ります。まずは図書館の建物に入ってみましょう。
アールト大学図書館概要
ヘルシンキ工科大学図書館(1964-70)は、本館とともにオタニエミキャンパスの中心部を形成しています。現在はハラルド・ヘルリン・ラーニングセンターと呼ばれています。
赤レンガ造りの建物の入り口は、公園側とOtaniementie通り側からとなっています。2階には閲覧室と貸出図書室があり、大きな貸し出しカウンターを中心に、その横から階段でエントランスフロアへと降りていくことができます。
図書館の内装は、働きやすいように工夫されています。貸し出し図書室と閲覧室は、天窓と高窓から間接的に自然光を得ます。Otaniementie通りからの騒音が入り込まないように配慮されています。
図書館利用のために開放しています。訪問者にはキャンパスエリアを開放しています。
アルヴァ・アールト財団ウェブサイトより 筆者訳
図書館の天窓
階段を上っても天井は低いまま押さえられていますが、左手前方に高い天井と天窓からの反射光が見えてきます。このような暗くて低い天井と明るくて高い天井の組み合わせは、とても印象的です。
図書館360°
天窓を見上げると、柔らかな自然光と間接照明の光が入ってきます。
貸し出しエリアの上部は、自然光の差し込む吹き抜けとなっていますが、その周囲の天井は低く抑えられています。
貸し出しエリアを回り込んで、低い天井の廊下エリアを通過して、読書エリアに入ります。ここでも天窓による自然光を人工照明が補助しています。
この読書エリアでも、高い勾配天井に天窓からの光が写し込まれる開放的なエリアと、低い天井の落ち着くエリアとが共存しています。上品な白さに包まれていながら、冷たい感じのしない落ち着いた空間です。
5.まとめ
アールトの建築の良さは、五感で体感して初めて、よりはっきりと感じることができます。実際の体験には及びませんが、写真や図面だとなかなか分かりにくいアールト建築の素材・テクスチャや形態の特徴が、動画や360°写真を通じて多少伝わったのではないでしょうか。
今回20年ぶりにヘルシンキを訪れました。当時は見えていなかった「光の扱い方」や「人にやさしいディテール」などについて、建築の実務経験を通じて多少理解が深まった気がします。今後、時間を経て再訪したら、また新たな発見があるのでしょう。
今回のブログでは、アールト邸 (The Aalto House)、アールトのアトリエ (Studio Aalto)、アカデミア書店 (Academic Bookstore)、アールト大学 (Aalto University)を取り上げました。ヘルシンキには、他にもフィンランディアホール (Finlandia Hall)もありますし、足を延ばせばたくさんの名作があります。是非、訪れてみてください。
文中にも書きましたが、アールト邸 (The Aalto House)およびアールトのアトリエ (Studio Aalto)を見学するためには、前もって予約が必要ですからご注意を。早く、自由に旅行ができる平和な日々に戻ればと思っています。