どの部屋からも富士山が見える風通しのよい家
Breeze of Mt. Fuji

河口湖の別荘 <NHK美の壺スペシャル「日本の避暑地」にて「Breeze of Mt. Fuji / 河口湖の別荘」が取り上げられました>

ボストン時代からの友人で、現在も米国設計事務所勤務を続けている在米20年を超える友人夫妻からの紹介です。ご自身も経営者として忙しく日々を過ごされている方が受け継がれた別荘地の建て替えプロジェクトです。

自分としてもここまで見事なロケーションで設計をさせていただくのは初めてのことでした。「この絶景という言葉でもまだ足らない見事な富士山と湖の眺めを、一体どう生かしていったらよいのだろう」と検討に検討を重ねました。

またその眺めだけに頼るのではなく、居住空間としての快適さを、風向計測機などの機材を用いて気候データを継続的に取得し、科学的に検証したうえで設計プロセスに取り入れることをこころみました。こういった、快適さをデータで検証しながら作り上げる方法は、まだまだ確立された設計手法ではありません。「少しでも良い建築を提供したい」という気持ちから手探りの状態で設計をすすめました。

そして、「別荘ならではの建築とはなんだろう」と考えたときに、「普段の住まいではやらない・できないことをやるべき」と考えました。日常生活に対しての非日常は、気分転換にはとても重要です。都心にお住まいのオーナーが、週末や休みを過ごす別荘とは、自然に囲まれてリラックスし、日々の緊張を解く場なのではないでしょうか。であれば、その自然をじゅうぶんに享受できるような空間を作って差し上げたいと思いました。また建築的には、非日常を5m弱の天井高を持つヴォールト天井というかたちで表現しました。

「北欧デザイン」に高いセンスをお持ちの施主とのヒアリングを通じて、さまざまなご要望が徐々に具体的になってきます。できるだけ白くて自然な雰囲気のフローリング、というご希望に沿うためにさまざまな樹種の検討をすすめ、最終的にScandinavian Livingのメープルを採用しました。木目シートを貼った複合フローリングとは異なる、素材感を活かしつつ木目の調和がとれたフローリングです。とかく濃い色調を選ぶことが多い自分には非常に新鮮な組み合わせでした。

この淡さにより、施主が別荘に求められるゆとり感、ほっとする空間、という表現しづらい部分が強調され、全体として優しいトーンで仕上がったように思います。このように、いただいたご要望を自分の設計と重ね合わせていく、コラボレーションともいえるプロセスはとくに住宅設計においては非常に大切であると考えています。今回の白くて自然な雰囲気のフローリングなど、普段の自分には思いつかないことも、たくさんあるからです。そしてそれを取り入れてこそ生きる空間について考えるということは建築家として新たなチャレンジがめぐってくるということなので、歓迎しています。

すでに建築やインテリアに対してのお好みや希望が定められていたこともあり、写真集などを持ち寄られ、言葉に加えて具体的なイメージのやり取りをして設計を進めていきました。これも、ことばだけでなく、このような視覚的な情報のやり取りは、情報共有の点からとても重要だと考えています。

「北欧デザイン」の家具を採用することは簡単ですが、「北欧らしさ」を気候風土の異なる日本の建築空間として実現するには工夫が必要です。素材や色、形態の組み合わせなどについて、設計の過程で試行錯誤を積み重ねました。(「北欧デザイン」に関して、ブログ 北欧フィンランドの巨匠アルヴァ・アールトの建物めぐりヘルシンキ編 [動画/360°写真あり] もご覧ください)

通常は私自身が設計することの多いキッチンですが、「ふだんが忙しい分、別荘に来たら、ゆっくり料理をしたい」と考えられていた施主からのリクエストにより、今回はキッチンメーカーに依頼することになりました。海外のハイエンドキッチンメーカー数社から選んでいただいたのは、ドイツのポーゲンポールです。

「オープンでもなく、かといってクローズトでもない」という微妙なご要望に対して、油が散り乱雑になりがちなコンロなどの調理器具は奥に、盛り付けなど、皆と一緒に行うためのアイランドキッチンは手前に置き、そして来訪者の目線を遮る高さの収納を設置しました。確かに考えてみると、オープンキッチン全盛の今でも、クローズトキッチンがお好みという方もいらっしゃいます。そしてそのどちらも兼ね備えた「いいとこ取り」のキッチンを作る、という意味では非常に実験的な試みとなりました。

旧宅にあったものを残しておきたいというご要望のもと、庭にあった彫刻を、各部屋の窓から良く見えるビューポイントに据えました。年代もののステンドグラスはトイレの窓にはめ込むなど、家の内外で、時をこえて受け継がれてきた別荘の歴史が垣間見られるように生かしました。

現場のある河口湖畔まで、自動車で通いました。そのルートは竣工後にクライアントご一家が通うものでもあり、自分には経験のない別荘を持つというライフスタイルを疑似体験していたともいえます。富士山がだんだんと近づいてくる時の日常から解放されるような気分と、都心に戻っていく時の徐々に引き締まっていく感覚は忘れがたいものです。運転中にデザインについて考えながら、日常・非日常というメリハリをつけることの必要性も実感していきました。異なるライフスタイルを垣間見ることのできた、異文化体験ともいえる思い入れの深いプロジェクトとなりました。

The American Architecture Prize 2017 Honorable Mention
アメリカンアーキテクチャープライズ2017 奨励賞受賞。

NHK美の壺スペシャル「日本の避暑地」にて放映

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