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優しいトーンの色や素材でやわらかく包み、戦没者を悼む空間。自然光と人工光という光質の違いによって、異なる時間と空間として過ごすことを目指しました。
The 2023 AIA International Design Awards, Commendation for Interior Architecture受賞
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改修前の展示室
1988年竣工(相田武文氏設計)の老朽化した展示保存施設の改修です。東京都在住の遺族から預けられている遺品が展示されています。
もともと、来苑者ができるだけ多くの遺品等を見られるように、という考えから700点を超える多くの遺品が展示されていましたが、展示がたてこみすぎて、個別に閲覧することが難しいという指摘がありました。
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適切な保存という観点においては、自然光がじかに差し込んでしまうことや、空調設備の老朽化に伴う温度調節の難しさがありました。
内装、什器等も竣工から30年近い年月を経て刷新が必要な状態でした。
改修の目的(東京都より)
- ご遺族からお預かりしている大切な遺品の「適切な保存と展示」を実現する
- 遺品等を通して、戦没者と遺族の思いに触れる事ができる空間とする
- 世代を超え、明るく親しみがあり、訪れやすい空間とする
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空間構成
遺品の閲覧という時間を展示空間がそっとサポートするということを目指しました。
自然光(東京・現在)→人工光(戦地・過去)→自然光(東京・現在)という光の変化により時間や空間の移動・変遷をあらわすことを試みました。
光環境を、展示の表現の一部として利用しながら、遺品の保存の観点からも有益とする、機能と表現を両立させた仕様となっています。
もともとの天井の低さから、全体的に明るいトーンとして、圧迫感の無い空間を目指しました。
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自然光が入る1階に入館すると、来苑者は日常の延長から、施設の成り立ちを知ります。
階段をあがり2階へ。
入室してすぐは、展示物を傷つけることなく、何度も反射し減衰した緩やかな自然光が入るエリア。
戦時下の様子について学びます。
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ブリッジには、写真家土門拳による有楽町駅からの出征する人と見送る人々の様子を撮影した作品が展示されています。
このブリッジ空間を東京と戦地とを行きかう“橋”としてとらえ、来苑者も、日常生活のある東京から戦地へ歩をすすめます。
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生と死のあいだ、東京と戦地、過去と現在を行きかう橋として、気持ちを整える時間をとります。
自然光が入らないエリアでは、遠く離れた戦地から戻ってきた遺品が展示されています。
戦地ごとに遺品が展示され、中央の地図により広範囲にわたった戦地を確認することができます。
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さらに奥に進むと、戦地から家族にあてた手紙が展示されています。
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戦没者に思いをはせながら順路を戻ります。
ブリッジを通り、現在も継続されている慰霊事業に関する報道や展示エリアにたどりつきます。
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展示台
日章旗など平面的な遺品は、壁かけにすると傷むため平置きにする必要がありました。
「保存」「見やすさ」「今後の展示変更への柔軟な対応」に留意し設計しています。
開閉機構が目立たないよう検討を重ね、手動のジャッキを使って展示台内部を昇降させています。
一見してどのように遺品を搬出入するのか、わからないような機構を採用することにより、できる限りガラスケースが目立たないようにして、より遺品にのみ目をとめることができると考えました。
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排煙窓
改修工事にあたり、災害時用に設置された既存の排煙窓を維持する必要がありました。
展示台上部の空隙から空気が抜けるように、展示台の高さを調整しました。
デジタルデータベース
タッチパネル式のモニターを設置し、劣化のために展示が難しい遺品や手紙をデータベースで検索・閲覧できるようになりました。
プロジェクトを終えて
東京に暮らし、遺品を残した人がいて、その遺品を寄贈したご遺族がいます。
訪れた人が静ひつな落ち着いた環境で遺品と向うことができるような空間を作ることを意識しました。
東京に生まれ・育ち・暮らしている中で戦地におもむいた方々の遺品を通じて、訪れた各々が自分に引き付けて考え、思いをはせるきっかけになればと思います。
The 2023 AIA International Design Awards, Commendation for Interior Architecture受賞