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道のつきあたりにある家
妻の会社員時代の先輩のご主人の同期の方、という近いような遠いようなご縁でご紹介をいただきました。
クライアントからは「黒い色で変わった家がいい」というご要望を頂きました。何をもって「変わっている」とするのかが最初の課題でした。というのも、自分はきわめてオーソドックスな住宅設計観をもっているという自覚がありましたし。いっぽうで、派手で目立つことばかりが「変わった家」を示すわけではないだろう、という思いも強く「奇をてらわずに変わったことをする」という一見逆説的な挑戦に心惹かれました。
敷地を初めて訪ねた時に、道のつきあたりにあることの特別さが印象に残りました。周りにあるどの区画とも違う、その敷地だけがもつ特別なキャラクターを感じました。
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また、クライアントは海外出張も多いビジネスマンです。一日の仕事を終えて、または長い海外出張から帰ってきて、一番ほっとするのは家が見えてきた時の「ああ帰ってきたな」感ではないでしょうか。慌ただしい仕事時間からプライベートの時間を区切る、「ほっとする目印のような灯りのともる家にしたい」と考えました。そのため南向きに特注のおおきな窓を開けました。日中は日差しがさんさんと差し込むリビングルームとなり、夜はそのリビングのあかりが帰宅する家族を迎え入れます。
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先に述べた敷地条件、大きな窓に加えて、片流れ屋根を採用しました。屋根の軒と軒を支える壁が一つのフレームとなり、大きな窓を強調します。リビングルームの勾配天井は、外部から窓の大きさを強調し、内部からは広がりを持った空間を演出します。住宅地の中でもこれがクライアントの家だ、とわかる控え目に目立つ家になりました。
キッチンに収納が欲しいとよく言われます。欲しくないという人にはまだ会ったことがないくらい自明のことのようです。ではどのくらいの収納量が適切なのでしょうか。私の答えはいたってシンプルです。可能な限りつくりつけの棚を入れるのが一番効率がよいと考えます。また料理をする人の動線を考え、時間を無駄にしないように造り付けの棚を設置することが重要です。既製品の棚であると、壁と棚の間に隙間ができてごみがたまり、美観的にもよくありません。
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キッチンに立ちながらダイニングやリビングにいる家族に目配りをしつつ、料理をすすめ、来客時にも会話から離れることなく自然に輪から出入りが出来るのが、オープンキッチンの利点ですが、私はあえて下ごしらえ中の手元や、下げた食器などが見えないようにカウンターを立ち上げます。これがあるのとないのとでは、ダイニングからキッチンの見え方が全く違うのです。想像してみてください。調理を終えてやっと食卓についた料理人が振り返った視界に入る、雑然と重なったボウルや鍋の数々。それらを横目に、食事を始めなくてはならない理由はありませんよね。もちろん、フルオープンがいい!と主張される方もいらっしゃるので100%とは言い切れませんが、特につよいご希望がない限り、私のつくるキッチンはいつもこのパターンを踏襲しています。
当時お子様が一人いらしたのですが、将来子供が増えたときのことも考えて、広い部屋を用意し扉も二つ設置しました。あえて仕切らず大きい空間を用意しておくことにより、将来の改修変更が容易になります。現在では当時の予定通り、二人のお子さんに使っていただいています。