浸水リスクに対して、住まい手の安全を守り、被災後の復旧を早期に実現すること
近年、自然災害が多発する中、生まれ育った土地に住み続けるためには、家はこれまで以上に、住まい手の安全を守り、被災後の復旧を早期に実現することを念頭に計画される必要があります。
都市部でも、ゲリラ豪雨や台風などによる浸水の危険性が高まっていることが指摘されています。
浸水を防ぐためには、大きく分けて「かさ上げ(盛り土)、高床、囲む、建物防水」の4通りの考え方がありますが、このどれか一つを選べば良いというわけではありません。
最近では、ハウスメーカーによる浸水防止を掲げた商品が発売されているようですが、水害に対して万全を期する全方位的なモデルを作ることは不可能で、もし可能であったとしても、費用対効果に疑問が残ります。
また目に見えない地盤部分に対しての検討は、経験を重ねた構造設計者の関与が必要です。
さらに最近では、浸水を防ぐだけではなく、できる限り早く復旧する視点も重要だと言われています。
水害防止・復旧の仕様を前提に、どのように計画を進めるかについては、該当敷地における特性を十分に理解し、施主の生活スタイルを前提に、総合的に判断して方針を決定する必要があります。
まずは土地のことを十分に理解するために、近隣のボーリングデータを収集・分析した上で、スウェーデン式サウンディング試験を行いました。
検討ののち、柱状改良の特許工法によりGL-2.5mまでを地盤改良し、耐圧版下端にて20kN/m2を確保する方針としました。その上にべた基礎を設け、建物を支持する計画です。
浸水防止と聞くと、とかく建物の浸水を防ぐことばかり目が行き、地盤改良を省略または最低限とする場合もあるでしょう。
あるいは、心配だからと言って、やみくもに杭を地中深くまで設置する場合もあるかもしれません。
施主と共に、費用対効果が適度な地盤改良を選定できることは、構造設計者とともに設計を進める利点です。
本計画敷地は、浸水予測深さが0.5mから3mの地域です。適切な予算の配分と、住宅に求める施主の優先順位によって、地盤改良の方法とともに、家の間取りや配置を決めていきました。方針を、
- 浸水1m以下の場合は、水や土砂を室内に入れないこと
- 浸水1mより大きい場合は、浸水後復旧を容易とすること
を条件として、復旧時の優先順位に従って各居室をスキップフロア状に配置しました。
玄関に近い最下層レベルは、ヨガインストラクターの施主にとっての仕事場となります。土間のため、浸水しても復旧が容易です。
次のレベルは、遠方に住んでいるお子さんのための部屋となります。日常的には、物置として使われる予定です。
2階はLDKです。1階が浸水しても、最低限度の生活が送れるような計画になっています。
最上層は、主寝室および洗面・バスルームです。主寝室とLDKを仕切る建具を開け放つと、広がりのある一体的な空間となります。
日常生活における快適な温熱環境の確保は、浸水対策とともに重要です。
LDKと寝室には4方向から通風が確保されます。
夏期は天窓により通風が促進されます。
冬期は天窓エリアの暑い空気を吸い込み、セッションスペースへと循環させるダクトを設置しています。
浸水対策を行いながら、施主のライフスタイルに基づいた快適さにも配慮した一例となりました。