実験的な「茶室的」空間ではなく、日々稽古をすることを念頭に置いた茶室の実現
RC造3階建てのリノベーション。特に1階は、裏千家のお茶を嗜む施主のために茶室として改修。実験的な「茶室的」空間ではなく、日々稽古をすることを念頭に、可能な範囲で標準的な茶室が求められた。
まず、既存の建物を残すことを前提に、四畳半という面積の茶室に対して、適切な炉の切り方と動線を模索した。茶室の奥は、道具を収納をするとともに、将来的に仲間内での茶事を催す際にはいったん退出できるスペースとなるようしつらえた。
茶室において、床の間は最も重要な要素である。床柱や床框の選定のために、設計初期段階から新木場の梶本銘木店に通い、床柱として赤松皮付き丸太を、床框として杉貼材を選択した。
細かい取り合いのディテールも、具体的な材を目の前にして詳細な打ち合わせが行われた。現在、茶室を含め和室全体のプロジェクトが減る中、和室空間施工の経験が豊富で近隣の渡辺富工務店にお願いした。
玄関は黒を基調としたタイルを用いて、飾り棚を兼ねる靴箱を設置した。曇りガラスを透過した柔らかな自然光の入る正面壁の飾り棚には季節の草花が活けられる。左手に見える縦格子の奥にある階段は、住宅部となる2、3階へと続く。
もともと1階の階段下にはトイレがあったが、天井高が低い空間が、水屋として有効活用された。ふだんは、廊下と水屋はロールスクリーンによって仕切られている。
廊下の先、茶道口の襖の先は、茶室へと続く。
茶道口の面には、茶道具のための収納や、壁面埋込の空調が設置されている。建具や枠の見付・見込寸法が、現地にて詳細検討された。襖紙や引戸把手も施主好みである。
この茶室の特徴の一つは、照明である。都心の住宅密集地という敷地条件により潤沢な自然光が期待できない中、人工照明をどのようにさりげなく空間に溶け込むように設置するかを模索した。従来和室空間では、ともすると大袈裟な照明器具が天井に設置されがちであった。近年、LED照明が飛躍的に進歩していることを前提に、適切な人工照明と天井のあり方を検討した。
この茶室では、幅14.4㎜のLEDライン照明を杉柾目突板貼天井板の間に設置した。調光によって、最小限の操作で多様な雰囲気の茶室となる。
床の間には、構想初期段階において選定された赤松皮付き丸太と杉貼りの床框が設置された。床柱の背面には下地窓も設置され、待合からの自然光が床間を照らす。床間の上部には、掛け軸を照らす間接照明とともに、炉の炭火で二酸化炭素が充満しないように、外気取入用の給気口が設置された。
床の間の並びに、奥のスペースへと続く襖がある。上部は開け放たれており、光や空気が茶室へと導かれる。
中立ちの際に客は板張りの椅子座により、窓の外の庭木を眺めながら茶事の開始を待つ。
ごちそうさまでした。