それぞれのライフスタイルを守る、自立した家族のための家
「自分の身体が動くうちに行動する」という親世帯の固い決意から住み替えが始まりました。まず別々に住むのか二世帯で住むのかを家族で話し合い、二世帯に決まった時点で土地探しが開始しました。お互いの領域・境界線を保ったビル内“上下居”となっています。どちらかといえば、隣居や二世帯同居、または「同じマンション内に親世帯と子世帯の部屋がある」ということに近く、それぞれのライフスタイルを守る、自立した家族のための家となっています。
徒歩圏に店や病院、公園などがあると、いつでも歩いて行くことができるため、都心に住むことを前提に土地探しが始まりました。土地になじみがあること、費用的制約条件から、山手線の内側で中央線よりも北側、千代田・新宿・文京・豊島・台東エリアを重点的に探すことになりました。
また対象となるエリアの中でも、地震がこわいので地盤が安定しているところを重点的に探すことになります。東京は昔は川や沼地だったところを住宅地としているところも多くあるため、古地図や地盤情報も検索します。また緑の豊かなところであることも、重要な優先順位として挙げられます。お墓の周りといった一般的には敬遠されがちな土地も、空地や緑があるため、優先的に探すことになりました。
実際に見に行き、気に入った土地については具体的にどんな建物が建てられるのか、容積率や建ぺい率、斜線制限などからどの程度の床面積の家が建ちそうか、などのボリューム検討を行い、購入の可否を決める参考としました。このように土地・建築可能な建物についての具体的な検討を行い購入の意思決定をすることができるのは、土地探しから建築家を交える大きなメリットの一つです。
暖かい家がいい。寒い家はもうたくさん。
窓の大きい家がいい。部屋の中が明るいのが良い。
バリアフリー。車いすになっても活動できるように。
車いすで外から家にアクセスできるようにする(ホームエレベータ設置)。
屋上に庭を作って、季節の花を育て、畑でとれた新鮮な野菜を食べる。
地下に収納がほしい。出来るだけたくさんのものをしまっておけるように。
浴室は南向きで、寝室と開閉式の扉でつなげる。浴室の蒸気を部屋に回しつつ、お互いの気配や動きを確認できるようにしたい。
外壁タイル
「若草色」というキーワードが家族から出され、緑色を求めて都内の緑系のタイル施工された建物を訪ね歩きました。その結果、素材感のつよい、ざらざらとした自然なタイルがよい、目のそろった工業的な製品でなく、自然な風合いを求める、ということで家族の意見は一致し、サンプル数社の中から織部製陶のクレイマイスターに決まりました。
色の濃さや、粗さについて、試し焼きをしてもらいながら試作を重ね、話し合いました。淡い若草色、という色の定義がそれぞれに異なること、また自然色に近い若草色を想像したものの、実際にサンプルを製作すると人工的な色合いが強くなり当初の思惑とは異なることを発見するなど、オーダーメイドのタイルならでは、の楽しみなプロセスがありました。いまでも、家に帰ってくる時に目に入るのはこの「淡い若草色」のタイルに包まれた建物なので、色と質感は非常に大切だなと実感しています。
幅広のフローリング
厚さ9㎜~15㎜程度の無垢フローリングと、1㎜以下の薄突板を貼った複合フローリングでは、遠目にはあまり違いはないかもしれませんが、近づいて確認すると視覚・触覚ともに大きな違いがあることが分かります。一方、無垢フローリングの場合、あるコストの範囲内で目が美しく大きな材を確保することが難しいため、細く小さめのフローリング材となりますが、複合フローリングの場合、目のそろった大きいフローリングが可能となります。このプロジェクトでは、両方の良いとこ取りをして、4mm厚の厚突板のエンジニアド・フローリングを採用しました。幅広であることと無垢の質感により、強い素材感を実現しています。
木サッシ
木サッシは、工業製品と手工業の中間に位置するような製品だと考えています。木の持つ自然の温かみと、工業製品の持つ機能の両立を実現しています。但し、木は長期間に渡り乾燥収縮するので、密閉性や保温性は当然のことながら断熱性の高い樹脂サッシには劣るため、少しの隙間風もゆるせない人に不向きです。それでも「木サッシのぬくもりがいい」という人には強くお勧めします。
空間構成
私は家族が集まる食堂が家の中心であるべきだと思っています。そのため食堂を平面計画の中心に据え、その周りに居間・キッチン・座敷などを配置しました。また、斜め方向に視線が通る空間は通常よりも広く感じられることが知られています。視線が通ることで部屋の奥行きを感じるような間取の工夫をし、スキップフロアで目線の動きを演出しました。
アプローチ
玄関へのアプローチをあえて出来るだけ長くとりました。建物を廻りこむように歩いていくことで、住民も来訪者も気分が入れ替わります。家があたかも外から来た人を迎え入れるような感覚を抱くようになります。また門扉を設置せず、道路と敷地内アプローチをあえてつなげました。新築当初は道路の延長と間違えて知らない人が良く迷い込みましたが、現在では、物理的な門扉が無くても、道路とアプローチの境目が結界として機能しています。
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