Renovation in Brooklyn
ブルックリンのアパート改修

100年という長い時を経てたたずむ、レンガ積みの壁
床から天井までをつなぐ、メープルのカウンター

GSD(大学院)の同級生がアパートを買うというのでついていったことが始まりです。友人は学費ローンもあるというのに、借金をして買うのだということでした。人が数ヶ月単位で流入・流出するNYでは、数年住むのであれば借りるより買った方が安いと言われると、じょじょにその気になりました。不動産取引者の講習を受けて台湾人の同僚に色々教えて貰いながら物件探しをしました。マンハッタンのアパートは既に高値であったため、ダウンタウンの事務所に近く、駅からも近く、これから値上がりが見込めそうなブルックリンのパークスロープ近辺で物件を探しました。

Pei事務所の仕事もそれなりにやりがいがありましたが、しょせん自分のデザインを具現化する場ではありません。自分の創造のはけ口として部屋の改修を行うという側面もあったように思います。キッチンは地元で木工所を営む家具職人をGSDの友人に紹介してもらい、設備業者はクイーンズの中国人向けの新聞に広告を出していた中国系設備業者にお願いしました。

毎朝出勤前に、中国語で指示を書いて張り付けていくと、彼が日中部屋に来て作業を行い、仕上げていてくれました。漢字でのやり取りは、電話で英語で話すより伝わるので、とても便利でした。同時に中国語でこれは何というのか、を建築の知人に尋ねることもあり、自分の中国語も少し上達したかもしれません。

通常会社を6時に終えて、家に帰ってご飯を食べたら解体タイムとなります。壁や天井の石膏ボードやアルミ製の下地材を自力ではがしていきます。ブルックリンの川沿いにあるホームデポに足しげく通って、工具や材料を仕入れていきました。

改修したアパートは、築100年近い物件です。日本人の私にとって、100年前の煉瓦の存在感は格別です。最初から煉瓦をむき出しにしようと決めて解体しつつ改修案を決めていきました。
煉瓦の持つ重厚感やごつごつとした自然の風合いを実感したことが、帰国後に設計した護国寺の二世帯住宅のタイルにも繋がっているような気がします。

通常このような古いレンガは、石膏ボードの白い壁によって隠されてしまいます。なぜなら、煉瓦をむき出しにすると、ほこりがたまります。また、石膏ボードやその裏の空気層がなくなると、断熱性能が下がります。窓の入れ替え中に水道管が凍って破裂したこともありました。電気配線を部分的に自分で改修し、軽く感電したこともありました。いろいろと失敗して大変でしたが、今となっては良い思い出です。

工事中はテレビの前にビールケースを置いて、机代わりにしてご飯をたべていました。電気ポットで湯を沸かして、シャワー代わりにしていたり、埃だらけの現場住まいだけど楽しい経験でした。梯子からバランスを崩して床に落ちて右肩を脱臼してしまいましたが、おかげで左手の箸とペン使いが上達したこともあります。

中古住宅のマーケットが成熟しているNYでは、建築家が改造した部屋ということがアピールポイントとして価値を上げるという手法もあります。ちなみに帰国後しばらくして売却しましたが、改修費も回収して利益が出るなど、投資としても有意義だったものの、日本に居ながらNYの不動産を維持するのは大変でした。電気やガス、水道などのインフラ不具合や、近隣住民とのやり取りなど、遠隔で交渉するのは難しく、苦労しました。

当時働きながら住んでいたとはいえ、外国での不動産購入やアパート購入は代えがたい経験でした。英語だらけの契約書にサインするわけなので、わからないことは全部自分で調べたり人に聞いたりしましたが、日本と違って、あいまいで分かりにくい書き方ではなく、英語が分かって根気が続けば必ず分かるようにできているのです。ローンも組んだので、どこの会社が良いのかなど、かなり調べました。そもそも、私のGSDおよび事務所の友人は全て建築関係者だったので、疑問に思ったことがあったらすぐに周りの人に聞いて、教えてもらえるという恵まれた環境でした。ですから外国人が日本で不動産を、ということに何となく親近感をもっており、そのようなプロジェクトに関わることも増えています。